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「ふじのくに・せかい演劇祭」観劇記(上)

 6月1~30日の毎週末、静岡市を舞台に行われた「ふじのくに・せかい演劇祭」。7月2日夕刊「芸能」面には、平野雅彦静岡大客員教授による総括が掲載されています。東日本大震災から2年。「演劇は、忘れてはならない〝あの日〟を繰り返し思い出させてくれる装置」だとつづられています。

 彩々プラスでは、ほぼ毎週のように劇場に通った文化生活部の(吏)と(美)が、観劇作品を振り返ります。まずは、前半の3演目から。


<黄金の馬車>(宮城聰演出、日本)

 ジャン・ルノワールの同名映画を、日本の室町時代に翻案。土佐を巡る田楽一座の看板女優に、国司や弓の名手が一目惚れ。政治の混乱を巻き起こす。 

 (吏)実は3回観劇しましたが、作品から受ける印象が毎回異なりました。「舞台と人生、どちらに真実があるの」と嘆く女優役を女優が演じるということを、初回はとても残酷に感じました。対する2回目は、「ルノワールは、舞台を愛していたんだな」と受け止めました。不思議なことです。豪華なゲスト陣によるアフタートークも聞き応えあり。

 (美)田楽一座が演じる出し物は「古事記」神話に基づく国造りや八岐大蛇の話。進行する舞台と、一座が演じる芝居が入れ子構造になっています。「虚」と「実」が複雑に入り交じる辺りが、宮城聰監督の心憎い演出か。観劇した日のゲストは落語家の柳家花緑さん。「俳優は常に人に見られる顔を持っている。仮面を外すと、またそこに仮面がある。どっちがリアルか分からない」「人情話には泣けるが、実生活の悲しい場面では泣けない。虚の世界だから泣ける」といったトークに、演技者ならではの視点を感じました。


<脱線!スパニッシュ・フライ>(ドイツ)

 ドイツ本国で大ヒットした喜劇。カラシ工場経営者の〝秘密〟が、家族を巻き込んだ一大騒動に発展する。

 (美)深刻かと思っていたら、意外に楽しい演目。ストーリー自体もドタバタ恋愛劇ですが、舞台上にトランポリンが設置されていて、俳優たちは重要なところでピョンピョン、ときにポーンと飛び上がります。俳優さんたちの運動能力に感服。動作の連動とそのリズム(間)など、身体表現としての面白さを味わいました。女優も男優も終始「変顔」で演じます。それには深い訳があるそうですが、顔が筋肉痛になったとアフタートークで明かされていました。


<生と死のあわいを生きて>(日本)
 73歳の舞踏家・小島章司さんのフラメンコ。「血の三部作」で知られる作家フェデリコ・ガルシア・ロルカの描いた、因習に苦しむ女性たちを体現。

 (吏)圧倒的な存在感に、ただ震えました。静かに語り始める身体。ファルダ(フラメンコ衣装のスカート)を翻して刻むリズムと、しなやかな舞い。舞台セットがシンプルだっただけに、神々しさが際立ちました。カンテとギターのリズムもまた、高揚感を生んで。終演後、すぐに座席から立ち上がれないほどでした。カーテンコールには、スタンディングオベーションも。6月16日、一回限りの上演。数日前にはスペイン王立劇場で、日本スペイン交流400周年記念音楽会のステージに立っていたというから驚き。

※後編を5日掲載予定です。 

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