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「ふじのくに・せかい演劇祭」観劇記(下)

 6月1~30日の毎週末、静岡市を舞台に行われた「ふじのくに・せかい演劇祭」。
 ほぼ毎週のように劇場に通った文化生活部の(吏)と(美)が、観劇作品を振り返ります。後半の2演目です。


<母よ、父なる国に生きる母よ>(ポーランド)

 女優作家が描いた女性たちの葛藤を、ポーランド演劇界の旗手ヤン・クラタが手掛けた。父権社会に生きる母親の悲しみや怒りを、ポーランドの歴史に重ねる。 

 (吏)母娘の確執を取材していたこともあって、劇中に表れるさまざまな母娘の葛藤や束縛に、どことなく既視感が。ポーランドの歴史と重ね合わせていたようでしたが、勉強不足で理解しきれず。戯曲をじっくりと読んで、紐解いてみたいと思いました。

 (美)大国に囲まれ侵略を何度も受けた歴史と、父権社会への痛烈な批判が舞台に集約されているようです。黒いドレス、へその緒で結ばれたような髪型の母娘など斬新な演出。ただ、屈折した脚本に、追いついていけないもどかしさが…。昔見たアンジェイ・ワイダ監督の映画「灰とダイヤモンド」や「鉄の男」を頭の片隅で思い出しました。ミュージカル仕立てということで、時折アカペラで歌が入ります。劇半ば、女優が澄んだ声で歌う旋律は、ローリング・ストーンズの「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」だったでしょうか?


<Hate Radio>(スイス、ドイツ、ルワンダ)
 1994年のルワンダ大虐殺で、民衆を扇動したとされる人気ラジオ放送局を取材、その内側を再現したドキュメンタリー演劇。

 (吏)ずしりとのしかかり、今も澱のように胸の中に残る一作。リズムや抑揚のある人間の声や音楽は、人を動かす力がある。演劇や音楽の素晴らしいところ。でも本作では、それが憎悪と衝動をかき立てます。客席に配られたラジオを通してパーソナリティーの声や音楽を聴くという仕組み。字幕を追うと少し冷静に観られるけれど、これが日本語だったら・・・と考えると恐ろしい。演者の中には、当時のルワンダを知る人も。終演後のトークで、戦犯を演じることに「抵抗はある」としながらも、「〝本当に伝えたいことは何か〟を糧にしながら演じている」と話していたのが印象的でした。
 
  (美)同感。俳優4人が約1時間、マイクに向かい憎悪を煽る様子(しかも楽しそうに)をリアルに再現します。まるで実際に放送しているかのように。虐殺の起こった1990年代半ばは、アフリカの音楽が世界で注目された時期でもあり、音楽好きの自分には聴いていてつらいものがありました。東日本大震災では地域ラジオが重要な情報源となり、音楽は人々の心を癒やしたと報告されています。善なる目的に使われるためには、何が必要なのか。地方新聞というメディアに関わってきた者にも、問い掛けられている気がしました。

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