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「おばあちゃんが伝えたかったこと」を見て

 8月2日から、東京・渋谷のユーロスペースでカンボジアの小村を舞台にしたドキュメンタリー映画 「おばあちゃんが伝えたかったこと ~カンボジア・トゥノル・ロ村の物語」 が公開されています。1970年代後半のポル・ポト政権下で実行された大虐殺を、村人たちが自ら「再演」する姿を映し出します。今年話題になった「アクト・オブ・キリング」と対をなす作品とも言えるでしょう。初日の夜に行われたシンポジウムを聞いてきました。(橋)

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 2011年の作品。イタリアの映像作家エラ・プリーセと、カンボジアの人権活動家ヌ・ヴァは、「キリング・フィールド」近くの小村にカメラや録音機材を持ち込み、ワークショップを行います。目的はポル・ポト政権下の大虐殺を生き延びた人々の思い出を掘り起こすこと。後半は、村人たちが自ら機材を操り、絵コンテを作り、演出を施しながら虐殺の場面を「再演する」様子を描きます。

 「アクト・オブ・キリング」はインドネシア軍政下での大虐殺の当事者、つまり「加害者」に「再演」を促した映画でした。「被害者」は「社会主義者」のレッテルを貼られた人々。
「おばあちゃんがー」はこの点が全く逆で、共産主義政権下の大虐殺の「被害者」が映像記録の当事者です。

 2日に行われたシンポジウムは映画評論家の大久保賢一さんが司会を務め、映像人類学者の川瀬慈さん、京都大地域研究統合センター准教授の西芳実さん、映画監督の藤井光さんが参加しました。

 個人的には上記の奇妙な符合が興味深かったのですが、シンポジウムでの西さんの発言によれば「東南アジアでは近年、地方都市レベルでもドキュメンタリーを撮影する動きが顕在化している」そうです。インドネシアを中心にフィールドワークを重ねる西さん。「地方の人々も、自ら映像で情報発信するのが一般的になってきた中で出てきた作品」と捉えていました。

 川瀬さんは「『再演』という手法を用いて、社会の様子を映画を通して表現するという事例は、北米の先住民やブラジルのトランスジェンダーのコミュニティーなどでみられる」と指摘。藤井さんは「再演による表現は、演じ手が『こんなふうに自分は理解したかった』という点を受け止めなくてはならない」と提起しました。

 東京での上映は8月8日まで。その後、8~9月にかけて川崎市、名古屋市、松本市を巡回します。静岡での上映は決まっていないようです。

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