理系本「ななめ読み」(8) 「フェルマーの最終定理」<上>
6月30日付科学面連載「サイエンス・ブック・カフェ」で、静岡大理学部の近藤満教授が勧めてくださったサイモン・シン著「フェルマーの最終定理」。数学がテーマの翻訳本ですが、人間味たっぷりのヒューマンドキュメント。最後までワクワクさせられました。この本の読みどころを2回に分けて提示したいと思います。(橋)
タイトルが全てを表しているとも言えそうですが、この本は17世紀フランスの数学者ピエール・ド・フェルマーが提示した、「簡単そうで難しい定理」の証明に取り組む数学者たちの姿が描かれています。ノンフィクションです。
このフェルマーという人がかなりのくせ者。本のテーマになっている「定理」も、「私はこの命題の新に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」と書き添えられているのです。なんだか反則技すれすれのような・・・。
ピタゴラス、オイラー、ロイド、ゲーデル・・・そしてワイルズ。この本にはフェルマーに勝るとも劣らない、「奇人」と言っても良い数学の天才が次々出てきます。みんな、やたらにキャラが濃い。そして発想の端緒や思考の過程が面白い。数学者という、愛すべき人々の「生態」を味わえるのも、この本のだいご味の一つです。
本の中に、数学者の性格をユーモラスに紹介した小話が掲載されています。この話、ツボに入りました。かなり好きです。ちょっと長いですが、引用します。
「天文学者と物理学者と数学者(とされている)がスコットランドで休暇を過ごしていたときのこと、列車の窓からふと原っぱを眺めると、一頭の黒い羊が目にとまった。天文学者がこう言った。『これはおもしろい。スコットランドの羊は黒いのだ』 物理学者がこう応じた。『何を言うか。スコットランドの羊のなかには黒いものがいるということじゃないか』 数学者は天を仰ぐと、歌うようにこう言った。『スコットランドには少なくとも一つの原っぱが存在し、その原っぱには少なくとも一頭の羊が含まれ、その羊の少なくとも一方の面は黒いということさ』
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