研究人生は能芸人生に通じる
朝刊科学面で3月から8月まで連載していた「サイエンス・ブック・カフェ」の執筆御礼を兼ねて、9月11日に行われた「サイエンスカフェin静岡」を聴講してきました。
これが第89回。広島大名誉教授で静岡大客員教授の木村榮一さんが「研究人生を俯瞰する歓び」と題して講話しました。75歳の木村さんが、自身の50年にわたる研究人生を振り返りました。(橋)
木村さんは薬化学専攻。大環状ポリアミン、亜鉛イオンが主な研究課題です。そのプロセスと成果はとても刺激的。また、研究人生を能楽師の一生に例えて説明されたのもユニークでした。
テキストは世阿弥の「風姿花伝」です。
第2期とされる自身10代後半の学生時代については。
「この年の頃よりは、やうやう声も調子にかかり、能も心づく頃なれば、次第次第に物数も教うべし。さのみに細なる物真似などはせさすべからず。この頃は真の花にはあらず。ただ自分の花なり」
第7期の「後期高齢期」はこうです。
「このころよりは、おおかた、せぬならでは手立てあるまじ。麒麟も老いては?馬に劣ると申すことあり。さりながら、まことに得たらん能者ならば、物数は皆みな失せて、善悪見どころは少なしとも、花はのこるべし」
木村さんにとっては、「散らない花」を残すことが研究者人生の最終地点。たどり着いた境地は「論文が引用され続け、波及効果が拡がって行けば、その研究は奥深く意義深く歴史に評価されたといえる」だったそうです。
職種は異なりますが、「散らない花」という考え方に共感を覚えました。新聞社に籍を置く自分にとって「散らない花」とは何だろう。深く考えるきっかけをもらいました。
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