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理系本「ななめ読み」(10)「『透明人間』の作り方」

 8月18日付「サイエンス・ブック・カフェ」で、静岡大学理学部の阪東一毅先生が薦めた「『透明人間』の作り方」。SFやアニメの世界で描かれた「透明人間」を実現するための技術の進ちょく状況が、分かりやすい文体でつづられています。(橋)

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 最初の2章を費やして、古代ギリシャの哲学者ヘロドトスから「耳なし芳一」、米映画「プレデター」や日本のアニメ「攻殻機動隊」を呼び水に、「透明人間」の世界へいざなう構成。いきなり引き込まれました。

 古代から、「透明人間になる」という発想は人間の本質を問うものであったようです。
 プラトンは「人間がもし自分の姿を隠すことができて、何をしてもよい状況になったらどんなことでもやってしまう」という意味のことを言ったそうです。「倫理観は社会的に作られるものだから」という理屈です。

 彼の師のソクラテスはこれに反論しています。「透明人間になったからといって非道なことをすると、人間は空洞化し、心を失ってしまう」と説きます。「倫理というのは必ずしも社会からくるものとは限らない」としています。
 教科書にも載っている著名な師弟が、こんな話題で真っ向対立しているのが面白い。「透明人間」は哲学論争の火種にもなっていたのです。

 3章以降は「科学本」としての色彩が強まります。
 物体の背後から来た光を迂回させることで、その物体を「見えなく」してしまう「メタマテリアル」という物質の考え方を説明します。その上で誘電率と透磁率をコントロールする「クローキングデバイス」の仕組みを解説します。

 終盤はいわゆる「ステルス技術」を例に、軍事的な活用が進んでいることも記述されます。先端技術の採用はやはり、こうした分野が先行するのですね。
 逆に言えば、それ以外で何か、この技術を生かせる場面はあるのでしょうか。後書きで著者が列挙している実用例は、それほど魅力的なものとは思えません。

 古代ギリシャ人が論じた倫理の転換に見合うだけのメリットが「透明人間」に見いだせるかどうか。この本の隠しテーマはそこにあるように感じました。

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