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「美少女の美術史」展、企画の「トリメガ研究所」鼎談(1)

 9月20日に静岡県立美術館で開幕した「美少女の美術史」展。開幕日には、同展を企画した「トリメガ研究所」のトークショーが行われました。「トリメガー」とは、静岡県立美術館の村上敬さん、青森県立美術館の工藤健志さん、島根県立石見美術館の川西由里さんからなる仮想のラボ。2010年に開催した「ロボットと美術」展もこのチームが手掛けました。
 「美少女-」展は「ロボット-」と同様に、3館で巡回開催します。青森では7月12日から9月7日まで開かれ、3万4千人を集めました。静岡は11月16日まで、島根では12月13日から2015年2月16日まで開催します。
 同展の「頭脳」とも言うべき3人のトークは、展覧会の見どころだけでなく、地方美術館の在り方も考えさせる内容でした。数回に分けて当日の模様を一部紹介します。(橋)※敬称略

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工藤:青森では今展に合わせて発刊した図録に合わせた展示構成をしました。静岡展のエントランスに小屋がありますが、あれは(出品作家の)obさんが青森でライブペインティングをしたもの。東北に伝わる民話や伝承に着想を得ています。1カ月かけて、お客さんの前で1日も休みなく描き続けた労作です。

村上:図録は16のトピックを立てて載せていますが、静岡展は3部10章で構成しています。展覧会を3館共通でやっても、借用先の条件があったりして、同じ作品はそろわないんですね。今回はそれを逆手にとって、会場ごとに展覧会の章立てや作品の解釈を変えています。
 (静岡展では)まず、歴史的に美少女を振り返ります。社会の状況によって、美少女という存在がどういう表れをしてきたか。大正期の少女雑誌の美少女のイメージや、高度消費社会に入ってグッズ、ライフスタイルにまで興味が広がっていた時代を紹介しています。
 続いて、形や姿に注目します。その次に、少女の精神的な動きをテーマにしている。最後は、絵に描かれた少女を鑑賞してきた私たちが、絵に描かれた少女たちに見返される。たじろがずに真っすぐこちらを見据えてくるような少女像を集めています。じろじろと(少女を)観察してきた私たちが、見返されて若干バツの悪い思いをするコーナーです。
 青森が(「エヴァンゲリオン」映画シリーズの)「序」で、静岡が「破」、石見が「Q」だよねと話をしています。石見もおそらく、びっくりするような展示を作ってくると思います。

川西:「トリメガ研究所」の〝なれそめ〟は、(2006~2008年に3館などで巡回開催した)「ボックスアート」展ですね。

工藤:プラモデルのパッケージの原画を、初めて美術的に捉えてみようと。ボックスアートを歴史の中に位置づけようという試みでした。

村上:開催前に工藤さんがここ(静岡県立美術館)に来たんですよね。こういう企画を考えている、(プラモデルのパッケージは)静岡では一つの文化だから、静岡県立美術館でやらないわけにはいけないでしょうと言ってきて。私もそのころ戦争画に興味がありましたから、例えば戦時中のイメージと戦後のボックスアートがうまくつながっていったら面白いと思ったんです。

工藤:その後、2009年のバレンタインデーに、たまたま静岡に来ることがあり、村上さんと男2人で夜を過ごしたんです(笑)。そのときに、ロボットをテーマにした展覧会をやりたいと話をした。

村上:青葉横丁の「三河屋」というおでん屋。工藤さんは揚げ物が好きなんですよ。ビールを飲みながら、レンコンのフライが「うまいうまい」と。その時にロボットってなかなか本質的だよね、という話をしました。美術における身体表現といった、深いテーマにまでたどり着けるという期待もあった。川西さんにも話をしたら「やろう」と。それで、2010年にロボット展が開催されました。

川西:「美少女」の構想は、ロボット展が始まる直前ぐらいの打ち合わせの時から。現実逃避のように話をしていて、浮かび上がってきたテーマだったんです。私は個人的に美人画を研究もしているんですが、美人画ってどこで見ても同じような展示でつまらない。そんな話から、「美少女」という切り口なら別の視点が提供できるよね、ということになった。

工藤:その構想から4年かかった。ロボットなら、「これがロボットだ」という明確な形があるんです。でも「美少女」って抽象的な概念だから、何を集めたらいいのか、どういう切り口で構成したらいいのかについてずっと議論していた。

川西:ロボットでは役割分担も明確でした。戦前の美術を主に私が、現代美術と模型文化やロボットアニメを工藤さん、ロボティクスやロボット工学を村上さんが担当しました。それぞれが調査して、作品を見つけてきて「どうだろう」と。展覧会の組み立ても、すんなり決まったんです。でも、美少女展は・・・。図録の締め切りまで章立てが決まらないという恐ろしいことに(笑)。

村上:美少女というものをかっちり定義しても面白くない。かといって漠然とし過ぎてもいけない。最終的に美少女とは「象徴的に誰のものにもなっていない少女」という結論に達しました。

川西:どちらかと言えば、美少女の「美」の部分にはこだわっていなくて。美少女は現実のものではなく、妄想のもの、人々の幻想の中で産み出したものという議論がありましたね。

村上:キャッチコピーは「美少女なんて、いるわけないじゃない。」と付けました。美少女というのは理念的存在なんです。いろんな人の中で共同幻想として形作られる。だから、いるかいないかは分からない。理念的な立場としての少女性の塊を、ビジュアルとして追求していこうと。
 
※以下、次回。

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