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「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

 今年のアカデミー賞で作品賞など4部門を受賞したアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を静岡市葵区七間町の静岡東宝会館で見てきました。本紙夕刊映画欄で紹介されている通り「虚実の境目のない」「役者はつらいよ」的な映画でした。(小)。

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 かつて「バードマン」というヒーロー映画でスターになったものの落ちぶれてしまい、精神的に破たんしてしまった中年俳優が、もう一度羽ばたくことを夢見てブロードウェイに挑戦するという物語なので、当然のように見ている最中は主人公に感情移入すると凹みます。でも一方で、主人公の心情を代弁するかのようなメキシコ人ジャズドラマーのアントニオ・サンチェスの鳴らす音はどこか心地よく、見終わった後も頭の中に響き続けます。

 楽屋裏も含む劇場が舞台のこの作品は全編ワンカットで撮影したかのように編集されています(カメラマンはこれもメキシコ人のエマニュエル・ルベツキ)。本紙映画評ではそういった手法も含め、作品を「悩める脳内の隠喩」と指摘していますが、まさに「マルコビッチの穴」の進化系という印象を受けました。さらにイニャリトゥ監督はアメリカの文化人に痛烈な皮肉を浴びせています。文学界におけるレイモンド・カーバー崇拝、ハリウッド映画の単純性、ブロードウェイの内輪体質などへの冷笑がこれでもかというくらい詰め込まれています。ロバート・アルトマンの「ザ・プレイヤー」に近い匂いもします。間違ってもメル・ブルックスの「ザ・プロデューサーズ」ではないです。ただ、この作品がアカデミー作品賞を受賞したのは皮肉ではなくて、アメリカ文化の懐の深さなのかもしれません。

 そういえばジャズ映画「セッション」の評価をめぐり、映画評論家の町山智浩さんとインターネット上で激論を交わしたばかりの音楽家菊池成孔さんが、公式ブログでこの作品の音楽を激賞し、映画評を記したいと書かれていました。名文筆家による「バードマン」評がアップされるのを待ちたいと思います。

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