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「しずおか連詩の会」こぼれ話

 本年度はじめて「しずおか連詩の会」を担当し、5人の詩人の皆さんの創作現場をレポートさせていただきました。私自身、3行と5行の詩を読んだだけで、ひりひりしたり、涙したり、高揚したりする経験を不惑前に初体験し、言葉が肉体に直接作用することをつくづく思いしらされた3日間でした。ここでは本紙紙面やツイッターで書ききれなかったエピソードをおひとりづつ紹介しようと思います。(小)

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 京都市からバスで浜松入りした岡本啓さん。そのまま中田島砂丘に向かい第33編のイメージをつかんだそうです。2日の舞阪では弁天神社に立ち寄った際、境内の松の感触を確かめていました。岡本さんの詩の視覚的表現に息づかいがあるのが、お話をうかがってなんとなくわかるような気がしました。3日間、会場にたえずさわやかな風を送り続けていた岡本さんは、松みたいにどっしり地面に根付いている印象を受けました。


 三角みづ紀さんは創作後、岡本さんと浜松市内の喫茶店で今回の連詩の会について話し合ったそうです。発表会では第34篇の「共鳴せえへんか」は、町田さんのかつてのバンド「北澤組」の楽曲タイトルからの引用とおっしゃっていました。町田さんによるとさらに元ネタがあり、織田作之助の短編小説「夫婦善哉」の主人公が、「カフェエ」の女中を口説くときの決まり文句なんだそうです。プラチナみたいな強度を持つ第39編はこれまでにないほど創作前に緊張したとおっしゃっていました。気分を落ち着けるために、5階の会場から1階まで、階段を一往復したそうです。

 第40篇の完成後、覚和歌子さんから「『言葉より細やかにちぎって』の『ちぎって』は『千切る』と『契る』の掛詞になっている」と教えていただきました。「花吹雪」に引っ張られて気づかなかったのですが、ご説明のあともう一度読むと、1行目の「湿った上着」が第39編の三角さんの「皮膚」とつながり、肉体の消滅だけでなく未来に繋がる新たな交錯が「花吹雪」の後ろにシルエットで浮かび上がってきました。

 初日に会場控室で取材を受けている最中、町田康さんは急に驚いて目を見開きました。視線の先には薄暗い倉庫に置かれた着付けの練習用マネキン(しかもハーフっぽい)。衝撃を受けた町田さんはマネキンを記念に撮影されていきました。

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 8日の発表会で「『私』もテーマのひとつだった」とおっしゃっていたさばき手の野村喜和夫さん。創作直後の総括では冗談めかしつつ、率直にこうも述べられていました。「本職の小説家でまねできない文体を持つ町田さんを呼ぶことに連詩の規範を壊すのではないかというためらいがあった。しかし見事に躍動感と繊細さにあふれる作品が完成した。町田さんを呼んだ私を褒めたい」。野村先生の漢気あふれる決断が今回の傑作現代音楽のような「神回」の実現につながったと思います。  

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 5人の詩の神の皆さん、4日間、本当にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。  

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