マジカルマウンテン
長泉町のクレマチスの丘にある「IZU PHOTO MUSEUM」で、オランダを拠点に活躍する映像作家フィオナ・タンさんの個展「アセント」が開かれています。テーマは富士山。視線をテーマに斬新な富士山像を提示しています。(小)
メイン作品は、公募した4千点を中心に選んだ写真を映像としてまとめ、架空の男女の対話をボイスオーバーさせています。
語り手が連想する富士山を表現するたくさんの言葉の中に「マジカルマウンテン」という単語が出てきました。「マジカルマウンテン」はドイツの文豪トーマス・マンが1924年に発表した教養小説「魔の山」の英題です。学生時代に同作を読んだとき、変な登場人物ばかりで全然おどろおどろしくないじゃんと思ったのですが、原題「Der Zauberberg」の「Zauber」のニュアンスが恐怖心をともなう「魔的な」ではなく、不思議さを含む「魔法的な」であることを後から知りました。
オープニングレセプションのあいさつやインタビューでも、フィオナさんは、「マジック」という言葉を何度か使いました。当日は曇天で、富士山は隠れて見えませんでした。でも、フィオナさんは、「見えないことがこの作品のオープニングにはふさわしい」と述べていました。(「脱構築的にフィクションという手品=マジック=の種明かしをしつつも、驚きを伴う作品にした」とも)
すぐにはその真意を理解できなかったのですが、後でつらつら考えるに、富士山にまつわる無数のイメージをいったん奇術師のように消すことを、フィオナさんは意図したのかもしれません。日本人の我々はどうしてもドーンとそびえたつ富士山(厳谷小波作詞の唱歌「富士山」から電気グルーヴの「富士山」まで)をイメージしてしまいますが、視点やまなざしについて思いを巡らせてきた、国際舞台で活躍する作家ならではのマジカルな発想だと思いました。
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