箱根峠と熱海峠を結ぶ自動車道路は、「いずっぱこ」が作った!? ケーブルカーには、犬専用乗車券も!~しずおか駅舎探訪(11)伊豆箱根鉄道・十国峠駅
9月7日付夕刊「旅食」の連載「しずおか駅舎探訪」は、県内唯一のケーブルカー路線「伊豆箱根鉄道十国鋼索線(通称・十国峠ケーブルカー)」を訪れました。紙面には登場しませんでしたが、取材でお世話になった十国鋼索線区長の岩本直樹さんと、同区の区長経験もある同鉄道広報の志村博さんから聞いた十国峠の秘話や犬にまつわる話題を紹介します。(旭)
箱根や熱海からやや離れた十国峠。なぜ、ここで伊豆箱根鉄道がケーブルカーを運行しているのか。志村さんによると、その理由は戦前にさかのぼるといいます。
ケーブルカーの麓・十国峠登り口駅(十国峠レストハウス)が面する県道20号「熱海箱根峠線」。実はこの道路、伊豆箱根鉄道の前身、駿豆鉄道が1932年に自動車専用の有料道路として開通させました。
当時は箱根の観光開発が本格化し始めた頃。駿豆鉄道が箱根からバスを運行し、当時から景勝地だった十国峠のアクセスを担いました。ケーブルカーが開通する戦前から、十国峠の頂上には展望台も建造されたそうです。
駿豆鉄道が伊豆箱根鉄道となっても引き継がれた有料道路でしたが、1964年に県に移管されて無料化され、今に至ります。
伊豆箱根鉄道は、2005年まで箱根駒ケ岳でもケーブルカーを運行。1950年代には、熱海峠と熱海梅園を結ぶケーブルカーの計画もありました。戦後、小田急グループと伊豆箱根鉄道を含む西武グループが、箱根周辺の観光覇権を争った「箱根山戦争」を垣間見るエピソードかもしれません。
取材当時は、十国峠駅は残念ながらお化粧直しの真っ最中。2017年9月末ごろには、きれいな姿になります。今は2階建ての展望台ですが、以前は3階建てだったそう。
その名残を階段上の天井に見ることもできます。
展望台の中では、ケーブルカーの仕組みも学べます。下のウインドーケースには、昔の記念切符もずらり。ちょっとした「いずっぱこ博物館」です。
ケーブルカーに乗っていて気付いたのは、犬連れの乗客が多いこと。十国峠の頂上には、ドッグランがあることから、十国峠ケーブルカーは、リードを付けることを条件にケージに入れなくても犬と一緒に乗り込むことができます。
犬にはこんな専用乗車券も。「通常、鉄道ではペットは「手荷物」。犬も〝乗客〟扱いしてくれることが、飼い主さんにはうれしいようです」と岩本区長。伊豆高原には、犬連れ可の旅館やレストランも多く、それらを訪れた人たちがわざわざ「犬の体験乗車」のためにやってくるケースも少なくないのだそうです。
駅員さんによると、犬以外を連れてきたお客さんもいるそうで、中にはヨウムと一緒に乗ったという人も。犬以外はケージが必要な場合もあるので、ご注意ください。
最後に、紙面で紹介した「大正生まれの謎の減速機」について、補足です。これが1924年製の減速機。もともと、1925年に開業した兵庫県のケーブルカー「妙見鋼索鉄道」(1944年休止)で使われていました。この妙見鋼索鉄道は、上部線と下部線のケーブルカー2路線があったのですが、戦時中の鉄材供出を目的にした「不要不急路線」の整理で休止しました。
妙見鋼索鉄道はその後、ケーブルカーの麓駅近くまで、もともと路線があった能勢電鉄(兵庫県)が引き継ぎ、1960年に下部線だけ再開しました。その際には、再開前の機材をそのまま使い、十国峠ケーブルカー同様に1924年製の減速機も流用されました。
十国峠にやってきたのは、再開されることなく廃止された上部線の機材のようです。そもそも、鉄材として供出されるはずだったのに、なぜ機材が残っていたのかは、謎に包まれたままです...。
ちなみに妙見鋼索鉄道の廃止された上部線の跡は、リフトになっていて、妙見山の山頂に向かう足となっています。
この経緯は、伊豆箱根鉄道、能勢電鉄ともに詳細な資料が残っていないとのこと。詳しいことをご存じの方がいらしたら、ぜひ教えてください。
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