ミニ列車に揺られて秘境駅へ 「トーマス号」だけじゃない大井川鉄道の魅力~しずおか駅舎探訪(12)アプトいちしろ駅
9月14日付夕刊「旅食」の連載「しずおか駅舎探訪」の第12回は、大井川鉄道井川線(南アルプスあぷとライン)のアプトいちしろ駅です。案内役は南アルプスアプトセンターの運輸担当副長・川崎敏昭さんです。(旭)
今回のスタートは、井川線の始発・千頭駅から。取材したこの日は、トーマス号はお休みの日。休日は子供たちでいっぱいのヒロとパーシーの周りも、静かな様子でした。
SLで有名な大井川鉄道ですが、普通列車に使われる車両も全国から集まってきていて、まさに「動く鉄道博物館」です。ちょうど千頭駅に止まっていたこの車両は、桜の名所・奈良県の吉野に向かう近鉄の特急として使われていた「16000系」。特急列車のゆったりしたシートで旅を楽しむことができます。
さてさて、私が乗り込むのは、井川線の小さな列車。ここから先はディーゼル列車です。ホームの高さも、車輪が見えるほどでかなり低いですね。先頭には「鉄道むすめ」のキャラクター、井川ちしろのヘッドマークが掲げられています。
こちらは後ろ側。実はこの後ろ側についているのが、機関車。井川に向かう列車は機関車に後ろから押されるようにして動きます。エンジンがついていない先頭の客車に運転台がついていて、客車から制御して機関車を動かしています。実はこれも紙面で紹介した「アプト式鉄道」のため。川崎さんが「急な登り坂の区間で連結器が故障してしまうと、機関車が先頭だと後ろの客車は、下り坂で滑走してしまいます。後ろから押していく形なら、万が一故障しても、機関車がある程度食い止めることができるからです」と教えてくれました。
車内に入ると、手を伸ばせば天井についてしまうくらいの小ささです。この小ささには、理由があります。井川線は今でこそ、レール幅が1067ミリと、JRの在来線など同じ幅ですが、建設当初は762ミリと軽便鉄道規格だった名残。もともとは、ダム建設の資材を運ぶ専用路線としてできたため、トンネルも小ぶりにできています。
車内にはこんな案内も。寸又峡温泉へのバスが出ている奥泉駅で、使用済みの切符をしおりにしてくれるそうです。
大井川に沿って、列車はゆっくりと走っていきます。車掌さんによると、この日は風もなく川の流れもおだやかで、珍しく川面に橋の姿が映っているとのことでした。
40分ほどでアプトいちしろ駅に到着。後方の側線から、スタンバイしていたアプト式用の機関車がやってきます。
では、アプトいちしろ駅周辺を探検します。待合室にはノートが。全国各地から訪問した人が、メッセージを残してくれています。アプトの「プ」の半濁点が、歯車になっているのがご愛嬌。
駅舎を出ると、こんな案内看板。矢印の方に進んでみるとしましょう。
まさに謎のトンネルが現れます...
中を進むと、レールが敷かれていた形跡が...
そう、ここはアプト式に付け替えられる前の線路の跡。廃線跡は、長島ダム駅まで続いていて、ウォーキングすることも可能です。照明のトンネルを歩く人のために、アプトいちしろ駅の待合室には懐中電灯も置いてあります。
駅周辺の探索を終え、千頭駅に戻ってきました。井川線には、トロッコ列車のような展望デッキになっている車両もあります。風が心地よく吹くこれからは、ちょうどいい季節ですね。
千頭駅に止まっていたのは、元東急電鉄の7200系。東急から、青森県の十和田観光電鉄(2012年廃止)に渡り、そこから大井川鉄道にやってきた車両です。
あと2カ月足らずで、紅葉の季節。SLに乗って、小さな列車でさらに足を伸ばしてみてはいかがでしょう
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