一緒にNIE

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=実践校 成果と課題(上)伊豆市立土肥小中一貫校/富士見中(富士市)/静岡市立清水飯田中

2024年04月07日(日)付 朝刊


■ 実践校 成果と課題(上)

 学校教育で新聞を教材として活用する活動(NIE)を進める県NIE推進協議会(安倍徹会長)は2月、2023年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。県内の実践指定校として2年間活動した全6校の担当教諭が発表した取り組みや活動成果を、上下2回にわたり紹介する。初回は伊豆市立土肥小中一貫校、富士見中(富士市)、静岡市立清水飯田中(いずれも所属校は3月時点)。
 (教育文化部・マコーリー碧水)

 <記事紹介のスピーチバトル> 伊豆市立土肥小中一貫校 増田弦己教諭 
 文章を正確に理解することや、自分の言葉で説明することが苦手な子が多いことを課題と捉えた。解決に向けて、正しく読み取り、筋道を立てて考える子の育成をテーマとして掲げた。
 児童生徒にアンケートを取ると、半数以上の家庭で新聞を購読しておらず、60%の子どもが新聞を読むことに抵抗感があった。そこで校内に新聞や切り抜き記事を集めたスクラップブックを設置し、紙面に親しむ環境を整えた。
 記事の中心を捉えられるようになること、多様な言葉に触れることを目指して見出し付けを競う「M1グランプリ」などさまざまな催しを開いた。クラスメートに記事を紹介するスピーチを競う「シンブリオバトル」は特に反応が良かった。食料生産を扱った社会科の授業では、社会の現状を映し出す新聞活用の効果を大きく感じた。
 総合学習や道徳、歴史の授業に新聞を使うことで教員側の引き出しも増えた。子どもたちの新聞を読むことへの抵抗感を減らせた。 

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           増田弦己教諭

 

 <架空記者会見で「取材力」も> 富士見中 渡辺貴之教諭
 長文を読解し要約する力、根拠を持って意見を表明する力、幅広い情報に関心を持って主体的に学習を発展させる力。この三つを身に付けることを目標とした。
 新聞を読む力を付けるだけでなく、記者が取材する際の質問する力とメモを取る力も学ぶ必要があると考えた。新聞社社員の講義で心構えや取材手法を聞き、生徒間で互いの情報を聞き出す実践演習も行った。
 実際の記事を使って架空の記者会見を設定し、報道発表する会社、新聞記者、会見の様子を報じるキャスターの三役を3学年全員が経験する授業も実施した。質問する記者と答える会社の立場をそれぞれ経験し、記事を十分理解してからキャスター役として説明する。新聞活用力を育成する上で教師と生徒が目指す姿を共有する機会になった。
 「三つの力」を生徒が身に付ける上でNIEが有効な手だてと分かり、教員自身が今後の新聞活用の継続意欲を高めたことが一番の成果と感じている。 

 

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            渡辺貴之教諭 



 <授業の枠超え学校全体で> 静岡市立清水飯田中 赤星信太朗教諭 池田勇太教諭
 本校は古くからある住宅街と新興住宅地の両方が学区にあることで、生徒ごとに多様な背景がある。学力差が大きい生徒集団であることを踏まえ、その改善が求められている。学校の教育活動のあらゆる場面でNIEを活用し、学校をより良くしたいという思いで実践をスタートした。
 担当教諭の専門である国語と社会を中心に新聞を授業に導入し、記事内容の読み取り力や情報収集技能の向上を図った。教室の外に複数紙を比較できる新聞コーナーを設置し、昼の放送では時事関係の記事を紹介することで高校入試の面接対策につなげた。高校に関する記事を集めて3年生の共有スペースに掲示し、進路選択にも役立てた。
 紙自体にも着目し、清掃活動やレクリエーションに古新聞を使用した。取り組みを通じ、生徒の新聞への親近感や評価を高めることができた。多忙な学校現場の状況からNIEの実現には学校全体で取り組む必要性を感じた。

 

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      赤星信太朗教諭(左)  池田勇太教諭

 


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■ 紙面授業 地歴・公民、国語 勉強で培う視野視点 焼津高 坂上太喜先生

 私は、小学生の頃に学んだ日本史をとても面白く感じたことがきっかけで、教員になりました。教職を選んだ理由を聞かれれば、「好きなことを生かせるから」となりますが、では、勉強が得意ではない人にとって学校の勉強は人生で生かせないのでしょうか。

 昨年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃から、ガザで戦争が始まりました。この事実を見て、どちらが悪いか判定してみてください。戦争は小さな子ども同士のけんかではなく、大人同士、国家同士のけんか、紛争です。ただ気に食わないから攻撃をしたとは考えにくいですね。
 例えば、ハマスの人々が元々住んでいたパレスチナにイスラエル人が突然入ってきたら、この戦争の悪者はどちらなのか。そう考えるたびに私は何とも言えない気持ちになってきます。

 地理歴史科・公民科(社会科)の大きな目標の一つに「多面的・多角的な視点の育成」が挙げられています。ハマスによる攻撃と、反撃したイスラエルそれぞれの事情、周辺諸国や欧米の利害など多様な要因を踏まえた上で、この問題を理解しようとする姿勢が多面的な視点です。また、ハマス、イスラエルそれぞれの人々になりきるとさまざまな感情が湧き起こります。その人の立場に立って考えようとする姿勢が多角的な視点です。
 どのような状況においても人々は支え合って生きていくものです。その際、「多面的・多角的な視点」を持つことは不可欠です。高校生の必修科目「公共」は「パレスチナ問題」を扱いますが、日常の暮らしから遠い中東問題を材料に、「多面的・多角的な視点」を学び磨きます。つまり学校の勉強は案外、私たちの生活に役立つ、あるいは役立てる場面が多いと言えるでしょう。
 勉強が苦手な人たちへ。学校で勉強することは無駄にはならず、生きるものなのです。

 県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。