NIE関連記事

第18回NIE全国大会静岡大会
=公開授業-静岡の「学び」生き生き 

2013年07月27日(土)付 朝刊


 新聞を教材として活用するNIE(エヌ・アイ・イー)を考える第18回NIE全国大会静岡大会は最終日の26日、静岡市で公開授業や実践報告を行い、閉幕した。閉会式では、▽NIEの意義や魅力、実践の発信▽「やさしいNIE」を意識した新聞づくりと環境づくり▽新聞とデジタルとの連携・共存―の3点を柱とした「静岡提言」を発表し、NIEの定着化に向けて努力を誓った。

 ■「感想」と「意見」の違い検証-島田高
 ▽授業者 高島美玲
 ▽助言者 実石克巳(静岡市立高教諭、NIEアドバイザー)、大野正利(産経新聞社静岡支局長)
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 高島教諭は3年生の生徒約40人を前に、新聞の切り抜きを活用して1学期に行った現代文の授業を再現した。
 1カ月間の電気代を500円に抑える節約生活の関連記事を生徒に示し、「『できるわけがない』は単なる感想」と強調。「意見」との違いを突き詰めて考えるよう求めた。
 生徒は、興味を持った記事とそれに対するコメントの一覧表を友達と交換。「意見」が成立しているかどうか検証し合った。スクラップノートから最も伝えたい記事を一つ選び、なぜ記事に興味を持ったのかも説明した。
 富士山の山体崩壊による津波の危険性を扱った記事を選んだ堀本菜美さん(18)は「これまでの防災対策では対応できない。山体崩壊の話は新聞を読むまで聞いたことがなかったので、関連機関からの情報をもっと出してほしい」と話した。
 高島教諭は「根拠を持って考えることが大切」と呼び掛け、頭を鍛えるトレーニングをこれからも続けてほしいと生徒に期待した。

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新聞のスクラップを示して、意見を述べ合う島田高生=静岡市駿河区

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 ■歴史と社会を結びつけ考察-常葉学園高
 ▽授業者 塚本学
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 フランス革命で登場するロベスピエールの功罪について、「テロリズム」をキーワードに現代社会と結び付けて考察し、生徒により深い理解を促す授業を展開した。
 塚本教諭は今年1月の「アルジェリア人質事件」の記事や、専門家が寄稿したテロに関する解説を用意した。「誰もが追い込まれた時はテロリストになり得る」「テロが成功すれば建国の英雄になる」などの文章を読ませた上で、「恐怖政治をしたロベスピエールはテロリストか?」と生徒に問い掛けた。
 生徒は「ロベスピエールは当初、弱者を救おうと革命に参加したはず」「結局は弱者を抑圧したからテロリストになるのでは」などと意見を発表した。
 塚本教諭は「努力しても目標が実現できない社会では、人は攻撃的になる」とまとめ、「さまざま立場からテロを考えてみることが大切」と呼び掛けた。

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 ■新東名テーマ経済効果討論-川根高
 ▽授業者 中園亮平
 ▽助言者 小谷和之(県総合教育センター指導主事)、海野俊也(静岡新聞社経済部長兼論説委員)
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 新東名高速道の開通による経済波及効果について、肯定、否定の立場に分かれてディベートを行った。生徒は自分たちに有利な情報を新聞などで収集し、討論に臨んだ。
 肯定派は「観光客の増加」「渋滞緩和や事故の減少」などの経済効果を主張した。否定派は「東海地震で崩れたら建設費を取り返せない」などと述べた。
 反対討論では、速度超過違反などが大幅に増えたとする記事から「安全な道路とは言えない」とする否定派に対し、肯定派は「新東名は津波被害を受けないように山側に建設された」などとニュースをもとに反論した。
 来場者の拍手の大きさで判定し、肯定派の勝利となった。中園教諭は「多くの意見が出て活発な議論だった」と講評した。

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 ■自分で考える習慣を-島田金谷中
 ▽授業者 油井和哉
 ▽助言者 実石克巳(静岡市立高教諭、NIEアドバイザー)
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 油井教諭は東日本大震災の原発事故で全国的な問題になった放射性物質を取り上げた。まず、県産農産物に影響が及んだ記事を示し、ふだん目にすることが少ない「暫定規制値」などの用語を生徒に挙げさせた。
 その上で、「セシウムは危険なものだろうか」と問題を提起した。生徒は副教材の資料などを使って個々に調べ、班ごとに意見を集約した。
 各班から「放射性セシウムからは人の細胞を傷つけるガンマ線が出ている」「国の規制があるから危険なもの」「(放射性)セシウムそのものが本来は天然にはなかった」などの発表があった。
 「茶葉が暫定規制値を上回っても、お湯を入れて飲む状態ならば規制値を下回るのでは」と、踏み込んだ考察もあった。
 油井教諭は「人は難しい問題にぶつかるとパニックになりやすい。放射性物質は一口でいえば危険だが、なぜ、どう危険かを理解することが大事。周りに流されるのではなく、まず自分で考える習慣を身に付けよう」と生徒に呼び掛けた。

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「放射線について考えよう」をテーマにした島田金谷中の公開授業=静岡市駿河区池田のグランシップ

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 ■雇用の在り方15年前と比較-付属静岡中
 ▽授業者 野沢康夫
 ▽助言者 内田恵(静岡大教授・付属静岡中校長)
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 3年生38人を前に野沢教諭はまず、正社員を目指している「派遣切り」に遭った男性の気持ちが書かれた2012年の新聞記事を取り上げ感想を聞いた。
 「選ばなければ仕事がある」と考えていた男性の言葉に着目した生徒は「安定した仕事は選ばなければ就けない」「早いうちから自分がなりたいことを決めることが必要」などと感想を話した。
 次に野沢教諭はステップアップや可能性を求めて派遣社員を希望する人が急増した1997年の新聞記事を示して意見を募った。生徒は派遣社員のプラス面として「知識や技術を伸ばせる」「自分に合う仕事を探せる」、マイナス面として「『派遣切り』におびえなくてはいけない」「安定していない」などと意見を出し、雇用の在り方や自分の職業観などを養った。

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 ■政治の「なぜ」記事読み探す-浜松三ケ日中
 ▽授業者 小川高明
 ▽助言者 杉山秀勝(浜松引佐南部中校長)
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 小川教諭は政治を学ぶ授業の導入場面で、今後の学習で生徒が探求したい課題を見つけ出すことにNIEを活用した。
 最初に「一票の格差」「リコール」「補正予算成立」「町長選挙」を題材として扱った四つの記事を生徒に紹介し「関心のある記事を選んで読み、『なぜ』と感じる疑問を探そう」と呼び掛けた。
 3年生24人は各自で選択した記事を読み込み、内容をワークシートに簡潔にまとめた後、疑問点を列挙した。他の生徒の意見も聞くためグループになって話し合った。
 生徒は「なぜねじれ国会になったのか」「参議院で否決されても、衆議院の可決が優先されるのはなぜか」などと次々に疑問点を出し合った。
 最後に、今後の授業に生かす生徒の疑問点を小川教諭がまとめて授業を終えた。

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 ■教科組み合わせ活用-静岡中田小
 ▽授業者 中村都
 ▽コーディネーター 赤池幹(神奈川県・埼玉県推進協議会NIEコーディネーター)
 ▽助言者 林寛子(中日新聞東海本社編集局長)
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 5年生は社会と国語、総合学習、図工を組み合わせ、半年がかりで静岡の魅力を発信するポスターを制作している。公開授業ではポスターに必要なキャッチコピーを練った。
 「興味を引くキャッチコピーはどんなもの?」。新聞広告を掲げた中村教諭が問い掛けると、児童は「覚えやすい」「リズムがある」と答えた。次に、特産イチゴやみかんの紹介文からキャッチコピーを考えた。キーワードに線を引き、グループごと表現を練った。
 静岡の知名度の実態を示す新聞記事を読む学習からスタートした。富士山や静岡おでんなどテーマを設定し、個々にアピール文を作った。
 「駿河湾の深さ『日本一でしょ!』」「静岡県民の常識をぜひ」―。授業の最後に、アピール文からキャッチコピーを仕立てた。今後は、新聞のカラー部分を中心にしたポスターを作り、県のイベントで展示する。
 会場からは「子供が主体的に取り組んでいた」「新聞全体を活用した、教科横断的な取り組みが新鮮」などの感想が出た。

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文章からキーワードを見つけ、キャッチコピーを練る静岡中田小児童=静岡市駿河区

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 ■読む人で違う記事の感じ方-静岡城北小
 ▽授業者 漆畑浩明
 ▽助言者 八木ゆかり(静岡市教委学校教育課指導主事)
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 漆畑教諭は、サッカー日本代表の今野泰幸選手と東日本大震災で同じサッカーチームの友人を津波で失った宮城県の中学生との交流を紹介した記事を題材にした。5年生の児童32人は見出しが隠された記事を国語の授業で事前に読み、自分で付けた見出しを発表した。
 児童の見出しを今野選手に注目したものと中学生に焦点を当てたものとに分けた漆畑教諭は、「同じ記事を読んだのに注目した場所が違うのはなぜだろう」と問い掛けた。
 グループに分かれて話し合った。児童は「記事の同じ文章を引用しても見出しが違う」「新聞は読んでいる人によって感じ方が違う」と意見を述べ、記事は読者によって読み取り方、感じ方が異なることを実感した。
 最後に他の児童の意見も参考にもう一度、見出しを作り直した。

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 ■記事や図使いごみの削減案-静岡安西小
 ▽授業者 沢田智之
 ▽助言者 柴田敏(静岡市教委学校教育課指導主事)
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 ごみの減量に向けてできる取り組みを児童一人一人が新聞記事を根拠に発表し合った。
 沢田教諭はまず、三保松原(静岡市清水区)の清掃活動を取り上げた記事を提示。「誰がなぜ掃除をしているのかな」と問い掛けると、児童から「三保の人たちが世界遺産に登録されたのに汚いと思ったから」などと活発な意見が出た。
 児童は、ごみの削減に関連した記事や図を使ってまとめたポスターを、グループ内で紹介し合った。
 衣類回収ボックスの設置や生ごみの肥料活用など、さまざまな記事を参考に「自分の家で出た食品トレーやペットボトルは、スーパーの回収ボックスに入れる」「リサイクルについて詳しく調べ、多くの人に紹介したい」などと、ごみの削減に向けたアイデアを発表した。