静岡県NIE推進協議会

月刊NIE@しずおか(第5号)
=今を知り視野広げる

2013年03月02日(土)付 朝刊


 本年度NIE実践校に指定された浜松市北区の三ケ日中(青木篤郎校長、424人)。2年生の社会科を担当する小川高明教諭は2月下旬、現状を知った上で「いろいろな視点から物事を考えてほしい」と新聞記事を活用した北方領土の授業に取り組んだ。

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 □授業拝見
 ■北方領土問題を別の立場で議論-浜松・三ケ日中(VOL.2)
 「今日はロシア側から問題を考えてみよう」。前回の授業で、北方領土の位置や旧ソ連による占拠が始まった歴史を学んだ生徒たちに、小川教諭は学習課題を伝え、プリントを配り始めた。1種類は、北方領土の一つ択捉島の記事。もう一方は、ロシア北クリル諸島(千島列島)のパラムシル島が取り上げられていた。
 小川教諭は、班ごとに違う島の記事を配ったことを告げ「それぞれの島の『現状』と『主張』を読み取って」と指示した。生徒たちは目印を付けながら記事を読み、班員と相談して1枚の模造紙に意見をまとめた。
 模造紙が一斉に黒板に貼られると、日本との領土問題を背景に開発が進む択捉島と、領土問題がないため経済援助が少ない廃れたパラムシル島との違いが明らかになった。生徒たちは、領土問題の有無が与える島への影響を知り、鈴木龍一さんは「ロシアにとって(北方領土が)重要な島になっているとさらに強く感じた」と話した。
 くしくも授業は、森喜朗元首相がロシアを訪れ、プーチン大統領と領土問題について意見交換した翌日だった。小川教諭はこのニュースの記事も紹介し「いよいよ国家間で領土問題が動き出した」と伝え、「今後の新聞記事にも注目して調べていけば、解決策が見つかるのではないでしょうか」と授業を締めた。
 生徒たちは年度当初から、興味のある記事の論評やスクラップを続けている。「興味関心を持ち、『これからも見ていきたい』という気持ちが起きれば授業は成功」と振り返る小川教諭。北方領土に関する記事が、取り上げられることを期待している。
 (次回は6月1日)
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島の「現状」や「主張」を記事から読み取る生徒たち=2月22日、浜松市北区の三ケ日中


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 □実践指定校教諭インタビュー=静岡城北小・漆畑浩明教諭

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 ■どんな授業 
 6年生の国語の授業などで、新聞を教材として活用している。昨年はオリンピック関連の記事を廊下に張り出し、「新聞オリンピック」を企画した。児童は①関心度②写真のインパクト③見出しのインパクト④内容の面白さ―の観点から点数をつけ、記事の「金、銀、銅」を決めて紹介し合った。そのほか、朝の活動の15分間に、それぞれの興味で記事を選び、要約や感想をまとめた。

 ■手応え・課題 
 新聞には自分で選んで読める楽しさがあり、個性が出る。さまざまな文章をざっくり読む力も高まったように思う。道徳の授業では、いじめに関して各界の著名人が子供たちにメッセージを書いた記事を扱った。参観会の時間を利用したことで、家庭でもいじめ問題について話すきっかけになった。児童にとって身近な記事を使い、いかに「生きる力」を育むのに結びついた授業を展開していくかが重要。そのためにはまず教員自身が新聞をよく読む努力をしたい。

 ■静岡大会に向けて
 来年度に出会う子供たちにとって必然性のある授業を、普段通り、楽しい雰囲気で進めたい。「面白そうだね」「やってみたい」と思ってもらえれば。
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 ▽静岡城北小
 静岡市葵区北安東。児童685人。末高義美校長。指定1年目。

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 □実践指定校教諭インタビュー=島田金谷中・野中知行教諭

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 ■どんな授業 
 全ての教科で年に1度は新聞を取り入れるようにしている。
 社会科では死刑判決を求める被害者の声と、無期懲役確定後に無罪になった「足利事件」を取り上げた二つの記事を示し、死刑制度の是非を考える材料にした。
 数学では節電の記事をテーマに、各電力会社のピーク電力量と節電する割合などから連立方程式の問題を出題した。国語では「おくのほそ道」を学ぶ導入として、物語の舞台になった寺の歴史を紹介する記事を活用した。

 ■手応え・課題 
 身近な問題に絡めることで学習内容と時事問題の関連性に気付かせ、生徒の興味を引き出せた。社会を見る目も養える深い学習につながった。ただ、授業に沿った旬な記事を探すのは難しい。教員も日頃から使えそうな記事を探しながら新聞を読む必要がある。

 ■静岡大会に向けて
 他の実践校の取り組みを参考にしたい。生徒がもっと新聞に触れる機会を増やすことが課題。新聞は中学生にとっては難しく、まずは慣れてもらうことが大切。
 教える側にもかみ砕いて伝える技量が求められる。今後も教員や生徒の声を聞きながら進めていきたい。
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 ▽金谷中
 島田市金谷栄町。生徒520人。森睦美校長。指定3年目。

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 □実践指定校教諭インタビュー=常葉学園高・塚本学教諭

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 ■どんな授業 
 地歴・公民の授業では、興味のある新聞記事を切り抜いて自分の意見をまとめるスクラップノート作りを進めている。
 また昨年は、沖縄県・尖閣諸島を巡り冷え込む日中関係について、村上春樹氏の寄稿や解説記事を素材にしたディベートを行った。新聞を通じて知識や情報を得ながら、話し合いによって多様な視点や意見に気付き、考えを深める狙いがある。

 ■手応え・課題 
 継続的にニュースを追うことで時事問題への関心が増し、身近な話題から国際社会、政治経済へと視野を広げている。今後はスクラップした記事の傾向を振り返る「自己分析シート」を作成し、生徒自身が興味ある分野を再発見するきっかけにしたい。
 一方で、記事の内容理解に必要な語彙[ごい]力の不足を感じる。
 英語や国語の授業にも活用されているが、教科書の進度との兼ね合いもあり、学校全体として取り組むまでには広がっていない。

 ■静岡大会に向けて
 明るく活発な生徒の姿とともに取り組みやすい実践例を示したい。また、他県の先生たちとの意見交換を通して、ともに学ぶことを楽しみにしている。
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 ▽常葉学園高
 静岡市葵区水落町。生徒693人。木村美知子校長。指定4年目。

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 ■新聞教材の授業「面白い」65%超-実践校児童生徒を調査
 日本新聞教育文化財団(現日本新聞協会新聞教育文化部)が、2009年度にNIE実践校となった248校の児童生徒に実施した調査によると、新聞を使った授業について、小学生の84%、中学生の65%、高校生の66%が「面白かった」と答え、子どもの多くが新聞を魅力がある教材と捉えていることが浮かんだ。
 授業で時事問題やニュースを取り上げることには、小学生の75%、中学生の66%、高校生の73%が肯定的にみており、「NIEの授業を受けて好きになったこと」(複数回答)では、小学生の54%、中学生の42%、高校生の48%が「文章を読むこと」と回答。小学生の49%は「調べて知ること」も挙げた。
 一方、教員への調査でNIEを通した子どもの変化について尋ねたところ、「新聞を進んで読む」が75%、「記事について友人や家族と話す」72%、「自分で調べる態度が身に付く」68%-が挙がり、学習意欲の向上に役立つことなどが裏付けられた。
 NIEを実践した授業は、小学校で「国語」が69%に上り、次いで「社会」62%、「総合学習」60%の順。中学校は「社会」が31%で最も多く、「総合学習」25%、「道徳」と「国語」がそれぞれ18%で続いた。

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 □NIEワークシート
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 (静岡新聞社発行のガイドブック「新聞でこんなに学べる」より)
 ※毎月第1土曜に掲載します