静岡県NIE推進協議会

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載
=切り抜きつなげ思い紡ぐ

2014年01月04日(土)付 朝刊


 ■自分と静かに向き合う時間/被災地で生まれた「ことばの貯金箱」-渡辺裕子 
 宮城県を中心にNIE普及に努めている元中学校教諭で「ことばの貯金箱」提唱者の渡辺裕子さんに、取り組みを紹介してもらった。
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 昨夏のNIE静岡大会で、「ことばの貯金箱」のワークショップをさせていただいたのですが、その後、全国あちこちの学校から「学校でさっそくやってみたら、子どもたちがとても喜んで取り組みました」と、うれしい便りが届きました。
 さてさて、この「ことばの貯金箱」ですが、「好きなことばをいっぱいためて、『ことばの億万長者』になろう!」というキャッチフレーズで始まります。そもそもは、東日本大震災の翌年、仮設住宅内集会所からスタートしました。その後、小学校や中学校の授業で取り上げられるようになって、今、学校や地域でじわじわと広がっています。

20140104.jpgのサムネール画像

 新聞の見出しや広告には「この言葉いいなぁ」というのが結構あります。しかし、それらは読み終わってしまえばそのまま古紙回収に消えてしまう。考えてみればもったいない話です。
 ならばいっそのこと、切り取って箱の中にためておこう。もちろん、ためっぱなしではつまらない。たまった言葉を紙に貼り、それを手掛かりに自分の思いを書いてみるもよし。語彙[い]は増えていくだろうし、言葉のセンスも磨かれる。一つ一つの言葉との出合いで言語活動は大きく広がっていく。何より言葉を通して自分と向き合うことができればこんなに素晴らしいことはない。そうだ、その箱は『ことばの貯金箱』としよう! こんなことから始めたのです。
 まずは、古新聞(広告なども)でいいのです。好きな言葉を切り抜いていきます。もちろん、記事や写真、漫画などでもOKです。切り取ったら、「ことばの貯金箱」(中が見える透明の瓶やボックスが最適)に入れていくのですが、ただ黙って入れても面白くありません。ここは、遊び心を込めて大きい声で「チャリーン!」と元気よくです。
 さて、いっぱい貯まったところで、次は、好きな言葉をいくつでも好きなだけ色画用紙の上に貼ってみます。でも、貼るだけではなんだか物足りない。そんな時は、そこに言葉を紡いでみるのです。吹き出しをつけ、今どきのツイッターのように、自分の気持ちを自由につぶやいてみるのです。

 好きな写真やイラストを加えたり、詩や川柳、短歌を添えるのも楽しい。何が駄目という縛りは一切ありません。ひとつの言葉をきっかけにして、思いのままに自分を表現していき、最後は、出来上がった作品をみんなで見せ合うのです。会話が弾みコミュニケーションがどんどん広がっていく中で、不思議なことにいつしか自分の心が解放されていくのが分かります。
 「ことばの貯金箱」で出会った子どもたちは、いつしかみんな笑顔になっていきます。子どもたちと接する中で、静かに自分と向き合えるこのような時間が、実はとても大切な時間だったのだと、あらためて気づかされました。
 「チャリーン、チャリーン!」の合い言葉が日本中の学校にこだまして行ったら、みんながきっと笑顔になれる...。そうすれば、いじめだってきっと無くなると思うのです。「ことばの貯金箱」のもう一つのキャッチフレーズに「ことばは人を傷つけるためにあるのではなく、人を幸せにするためにあるんだと思う...」があります。「ことばの貯金箱」を通して、このメッセージが、日本中の子どもたちに届くことを願ってやみません。
 (NIE教育コンサルタント、白鷗大講師)

 ▽わたなべ・ゆうこ
 宮城テレビ放送アナウンサーを経て、仙台市公立中学校教諭に。2007年3月に退職。05年に「地域NIEキャラバン隊」を結成し、宮城県内各地の公民館などを巡回、新聞をツールに異世代間のコミュニケーションづくりを手がけている。

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 ■NIE楽しくやさしく(1)=新聞を読む姿格好いい
 子どもの頃、私は大人の新聞を読む姿に憧れていました。電車を待ちながら新聞を読む姿、縁側で新聞を大きく広げてゆったり読むお年寄りの姿に、いつか自分もあんな格好で新聞が読めるようになりたいと思っていたのです。しかし一方で、新聞ってそんなに面白いの、いったい新聞に何が書かれているんだろうという興味や疑問も抱いていました。
 最近は、新聞ではなく小さな液晶画面をのぞく大人の姿があふれています。きっと今の子どもたちは私が抱いたように、早く自分のタブレット等を持って画面をのぞきたいと憧れているのではないでしょうか。
 情報化社会の進展とともに、私たちの目に映し出される社会の光景・状況は大きく変化しました。自分の知りたい情報をピンポイントで何の労力もなく瞬時に入手することができるようになったのです。しかし新聞との触れ合いがないのではありません。日本新聞協会によると新聞は9割以上の人が読んでおり、新聞の普及度は世界のトップクラスであると報告されています。また日本で発行されている日刊紙全体の個別配給率は94・9%とほぼ全家庭に配達され、新聞は生活には欠かせないものとなっているのです。
 周知のとおり新聞は、日々の動きを伝える「ニュース面」と、くらし・家庭、科学、文化等の「フィーチャー面」で構成されています。また紙面にはたくさんの文字情報に加えて写真やイラスト、グラフ、広告等も掲載されており、「鳥の目」のようにものごとを時代的背景や地球規模でとらえたり、「虫の目」のように一人一人の喜怒哀楽を知ったりすることができます。まさに新聞は生きた情報の宝庫なのです。
 子どもの頃の私は、新聞から社会の矛盾や問題に気づき、地域や国や世界の行方に関心を持ち、社会の在り方や人の生き方に対して、今にも声をあげようとする大人の生きざまを見ていたのかもしれません。生きた情報を活用する「モデルとしての大人」の姿の復活を願わずにはいられません。
 (安藤雅之・常葉大大学院教授)

 ▽あんどう・まさゆき
 1961年、岐阜県生まれ。上越教育大大学院修了。常葉学園大付属橘小教頭、同大教育学部准教授、同大大学院准教授、教授を経て現職。専門は教育方法学・社会科教育学・生活科教育学。日本エネルギー環境教育学会理事、日本学校教育学会理事、静岡市教育委員会点検・評価委員。県NIE研究会会員。


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 ■2月22日に実践報告会
 県NIE推進協議会は2月22日午後2時から、NIE実践報告会を静岡市駿河区登呂の静岡新聞放送会館で開く。2年間の実践指定を本年度終了する8校のうち富士宮東高、焼津大村中、静岡サレジオ小の担当教諭がNIEの成果や課題を報告する。参加希望者は2月15日までに、県NIE推進協議会事務局<電054(284)9152>に申し込む。参加無料。