静岡県NIE推進協議会

よき「紙民」目指そう 記事読み比べ判断力を養う-徳島でNIE全国大会

2014年08月10日(日)付 朝刊


 □県内アドバイザー、参加教諭ひとこと
 ■実石克巳教諭(静岡市立高、NIEアドバイザー)
 徳島大会では幼稚園から大学、特別支援学校や地域社会までと幅広い発表がカリキュラムされていた。今までは高校教育や学校図書館活用など、特定分野を深く掘り下げての全国大会参加であったが、徳島では全ての発表に触れることを己に課してみた。そして、あちこちの会場を回って見えてきたことは、すなわちNIEの主役は児童・生徒なのだという当たり前のことである。生き生きとした子どもたちの姿こそ、NIEの神髄なのだ。

 ■中村都教諭(静岡城北小、NIEアドバイザー)
 授業で「新聞に慣れる」ことはNIEの入り口であり、自分から「新聞に親しみ」新聞のおもしろさが理解できるようになると、本来のNIEの活動に入っていくことができる。しかし現状では、教師は子どもたちをその入り口まで導いて手を離しているように感じる。NIEは生涯学習と捉えているので、新聞に主体的に向き合うことができる子どもを育成していきたい。以上のことから、今大会での基調提案を興味深く聞かせていただいた。

 ■川上博教諭(東海大付属翔洋高)
 新聞は、「読む力」「書く力」「伝える力」「比較する力」を養うことができる。学校におけるNIEの授業は、すべての教科で活用できる。近年、教育のICT化が急速に進む。デジタル媒体との連携も必要になるだろう。新聞を購読する家庭が減少している今だからこそ、身近な学校に新聞がある環境を整える必要があるのだろう。これからも、NIE学習を通じ、生徒が「賢い市民」となれるよう創意工夫をしていきたい。

 ■野田修教諭(静岡高松中)
 大会では、教科だけでなく学校と地域が結びついたNIEのよさが報告されました。とりわけ、新聞から考えたことを伝える点に力をおき、子どもの人間関係の育成やコミュニケーション能力を高める取り組みに大きな可能性を感じました。今後は、即効性を求めるのでなく、着実に活動を継続しながら裾野を広げ、新聞を身近に感じさせながら、社会で生きていく力を自然と身につけさせていくことを心掛けたいと思います。

 ■矢沢和宏校長(島田川根中、NIEアドバイザー)
 昨年のNIE静岡大会で提言した、だれでもどこでも、楽しくて長続きする「やさしいNIE」の方向性は徳島大会でも確実に継承されていた。「子どもに意欲をもたせるNIE」をテーマにしたシンポジウムや「新聞に慣れ親しむことから学びが広がる実践」を中心にした発表・公開授業などに、「やさしいNIE」の具体がよく表れていた。静岡県でも、自信をもって「やさしいNIE」の実践に取り組んでいくことが大切だと確信できた。

 ■山崎章成教諭(浜松曳馬小、NIEアドバイザー)
 NIEの研修では、どのように新聞を使うかという手段の段階でとどまってしまう傾向があります。徳島大会は、NIEの目指すもの・根幹を研修対象とし、何のために新聞を活用し、どのような力を育てることが可能か子どもの姿で示された素晴らしい大会でした。情報過多の時代に生きる子どもが、適切な情報を選択し、より正確に判断し、自己実現する力を身に付けさせることができるNIEは、今後ますます重要になってくると思います。

 ■吉川利行教諭(浜松平山小)
 NIE全国大会に初参加させていただき、実践を継続的に進められている先生方や、新聞関係者のよりよい教育活動を目指そうとする熱意に圧倒されました。オックスフォード大学の苅谷先生の講演や、公開授業、実践発表等から、新聞を効果的に活用することで、子どもたちのコミュニケーション能力や情報活用能力がより高められる可能性を示唆していただき、多くのことを学ぶことができた実りの多い2日間でした。

 ■塚本徹教諭(金谷高)
 全国大会は昨年に続いて2度目の参加で、今回は全日程に参加させてもらった。1日目のシンポジウムではNIEの授業を受けた元児童・生徒のコメントが新鮮だった。優等生すぎるきらいはあるが。パネリストに女性が少ないのも不満だ。2日目は、高校での実践をたくさん見聞きしておなかがいっぱい。でも昨年の本県の実践の方が力強かった。一つ決めたことがある。新聞社の記者の方にぜひ出前授業を頼んでみよう。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=社会の動き関心高く NIE静岡大会から1年

2014年08月02日(土)付 朝刊


 「『学び』発見-ふじのくにから『やさしいNIE』」をテーマに、静岡市駿河区のグランシップで開かれた第18回NIE全国大会静岡大会から1年。県内を中心に1300人余りが参加し、パネル討論や公開授業、実践発表などが展開された同大会は、県内の教育現場に何を残したのか。県内NIEの現状を追った。

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 ■実践指定校に名乗り-富士田子浦小
 本年度、県内で新たにNIE実践校に指定されたのは9校。例年、県教委、市町教委の推薦を受けて実践校となる学校が大半なのに対し、本年度は自ら申請した学校が6校と3分の2を占めた。富士市の市立田子浦小も名乗りを上げた一校だ。「全国大会の前後、新聞紙面で大会に関する記事が非常に丁寧に掲載されていた。それを読み、NIEに学校として取り組みたい、子どもたちが社会に関心を持つきっかけにしたいと強く思った」と半田博子校長。
 具体的な展開は主幹の望月敏行教諭が知恵を絞った。指定校には4カ月間、県内発行7紙が配達される。これをどう生かすか。望月教諭が考えたのは、「保護者を巻き込む」ことだった。
 ボランティアに手を挙げた20人余りの母親が交代で"登校"し、図書室で新聞をスクラップしている。切り抜くのは「子どもたちに読ませたい記事」。切り抜いた記事にはコメントが添えられ校舎2階のNIEコーナーに掲示される。
 同校は既に富士市教委から、学習指導研究指定校に指定されていた。NIE実践指定校の活動が加われば、間違いなく教師の負担は増す。「教師が記事に関心を持って、教材の幅を広げられれば、教師にとっても大きなチャンスになる」と、半田校長は教師の意識改革を期待する。

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毎日、交代で集まり、「子どもたちに読ませたい記事」を切り抜くボランティアの母親ら=富士市の田子浦小

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 ■気になる紙面を掲示-島田高
 昨年の全国大会で、島田市の県立島田高3年5組(当時)は公開授業を行った。「大勢の人の前で授業を行ったことは、生徒たちに強烈な印象を残したようだ。一生の思い出になる、と言っていた生徒もいた」と、担当の高島美玲教諭は振り返る。
 同校は2011年度から3年間、実践校に指定されていた。校舎の一角に設けられた「NIEコーナー」には、指定が終わった今も節目節目の新聞紙面が掲示されている。「昨年までのように頻繁には変えられないが、気になる紙面があるときに変えるようにしている」と高島教諭。足を止めて新聞に見入る生徒も多い。
 今年、3年の担任になった教諭は、「新聞交換ノート」を始めた。前の生徒が貼った記事を要約し、コメントを加え、自分が気になった記事を貼った上で次の生徒に回す。読解力向上などとともに、他の生徒の目の付け所を知ることで、興味、関心の幅を広げることも狙いの一つという。
 また、今年他校から赴任してきた教諭は、大学に関係する新聞記事を教室の壁に貼る試みを続けている。高島教諭は「『NIEコーナー』などがあることで、新たに来た先生も新聞を活用した活動に取り組みやすい空気が校内に広がっているのかもしれない」とみる。

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NIE実践校の指定終了後も、「NIEコーナー」には節目節目の紙面が貼られ、生徒も足を止める=島田市の島田高

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 ■「論評ノート」続け成長-浜松三ケ日中
 2012年度に実践校に指定された浜松市北区の市立三ケ日中。担当の小川高明教諭は、「社会に対する関心の薄い生徒たちに、新聞記事を通じて、社会の出来事、社会の動きに関心を持ってもらいたいと思った」と、取り組み始めたころの思いを振り返った。
 まず、気になる記事を左ページに貼り、感想、コメントを右ページに書く「論評ノート」を生徒に作らせた。12年度は尖閣諸島問題、沖縄へのオスプレイ配備問題などが紙面をにぎわせていて、生徒たちも興味を示した。
 その一方で小川教諭は首長のリコール、無投票多選などの記事を提示し、政治の仕組みへも生徒の気持ちを引き寄せていった。
 そして昨年の全国大会での公開授業も経て、今年3月に卒業していった生徒たちは、2年間にわたって「論評ノート」を作り続けた。次第にノートは充実し、ネット通販に関する記事に対して、三ケ日地区内の商店への影響を論ずるコメントまで書かれるようになった。「NIEを通して、生徒たちは明らかに成長したと思う。少なくとも社会の動きに対する関心は高まった」と小川教諭。
 同校は本年度も全国大会枠で指定が続く。授業での展開は2学期からになるが、既に小川教諭は集団的自衛権に関する各紙の記事を用意しているという。「3年生は既に興味を示している」と手応えを感じている。

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三ケ日中で取り組んだ「論評ノート」。2年間続ける中で、多くの生徒に成長が見られたという

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 ■NIE楽しくやさしく(8)=親子で楽しむ新聞の世界
 8月に入り、夏休みもいよいよ本番。小学生や中学生の子どもをお持ちのご家庭では日頃の家庭生活のリズムが大きく変化し、特に、慌ただしく過ごしていた朝の時間が一変したのではないでしょうか。
 朝の果物は金、朝食は一日のエネルギー源などと言われるように、朝は私たちに一日の活力を与えてくれる大切な時間です。同様に、毎朝家庭へ配達される新聞も私たちへ大きなパワーを与えてくれています。
 近年、小学生向け、中・高校生向けの新聞も発行されていますが、家庭へ届けられる新聞は決して大人専用ではありません。新聞は堅苦しく難しいものではなく、「情報の宝箱」であり、情報を得る一つの手段になるものであるということを子どもに実感させることが大事です。
 そこで夏休みにはぜひ、親子で一緒に新聞を開き、見る、読んでみるという「新聞を楽しむ時間」を位置づけ、ごく普通に新聞を開くことが習慣化できるようにしたいものです。
 親子で新聞を楽しむことをファミリーフォーカスといいます。欧米や韓国で盛んに取り組まれている家庭でのNIEです。例えば、一緒に並んで新聞に掲載されている写真の素晴らしさを語り合ったり、気に入った写真や記事があったら切り抜いたりします。さらに気になることは親子で一緒に調べたり、博物館や公園、図書館などに出かけたりして「知る楽しみ」をふくらませます。また、夏休みの自由研究のテーマを見つけるきっかけをつくることもできます。まさにファミリーフォーカスは、新聞をみる楽しさや面白さを発見する機会となり、親子のコミュニケーションも豊かにします。
 大切なことは、保護者の方がさりげなく新聞に親しむ機会をつくり、つかず離れず、強制せず、一緒に楽しむことです。「新聞って楽しいね」-こんな言葉が子どもから発せられたら親としても最高の喜びです。
 この夏休みに、親子で一緒に楽しむ新聞の世界の扉を開けてみてはいかがでしょうか。
 (安藤雅之・常葉大大学院教授)