静岡県NIE推進協議会

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=実践4校 成果と課題

2018年03月03日(土)付 朝刊


 県NIE推進協議会(安倍徹会長)はこのほど、2017年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。15年度に実践指定校の指定を受けた東海大付属静岡翔洋小、16年度に指定された森町立森小、裾野市立富岡中、浜松市立可美中の全4校の担当教諭が取り組みの内容と成果、課題を報告した。
 

■教育目標につなげる-東海大付属静岡翔洋小 松本傑教諭
 実践指定校に指定される1年前から職員が新聞の教育活用を自主的に始め、計4年間取り組んだ。実践指定校に指定されて生じた大きな変化は複数紙が届くこと。記事の内容や写真など、教室で子どもと比較することができるようになった。
 重要なのは新聞の教材化ではなく、教育目標を達成すること。国語の授業では好きな新聞記事をスクラップして要約し、感想を書いている。保護者からは「学年が上がるにつれて新聞を読む力の深まりが伝わる」との声が寄せられた。
 1年生は幸せを感じたニュースを探す「ハッピーニュース」に親子で取り組み、5年生の公開授業では新聞記事をテーマに学級討論を実施し白熱した。
 新聞は子どもと社会をつなぐ懸け橋。今後も効果的に扱い、国語力や情報リテラシーの育成とともに道徳心を養っていきたい。

 

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■地元の記事が身近に-森小 兼子万紀郎教諭
 実践校に提供される新聞の1面は印刷して昇降口に、森町に関する記事などは職員室前にスクラップして掲示した。毎日の更新は負担が大きいという課題はあったが、大きなニュースがあると子どもたちが食い入るように見ていた。
 図書室前には新聞閲覧スペースを設けた。1年目は読まれた形跡がなかった反省から、2年目は図書委員が読んでほしいページを開いて置いたところ、立ち止まる児童が見られるようになった。
 低学年は新聞を使って文字の読み方や見出しの付け方を学び、中学年は森町に関するスクラップや防災がテーマの新聞制作に取り組み、高学年は新聞社見学や朝の新聞スピーチを実践した。児童にとって新聞が身近なものとなり「楽しい」との反応があったのが成果。一方、本校は読書習慣が不十分なため、じっくり新聞を読む時間の確保が課題となった。

 

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■学校全体で取り組む-裾野富岡中 加藤りよ教諭
 本校では教員4人がNIE委員会を組織し、2年間学校全体で取り組んだ。毎月最終週にNIE週間を設け、朝の時間に記事を読んで感想を書き、グループで意見交換した。11月末には18歳選挙権や部活動週4日制度をテーマに全校で討論するNIE集会を実践。最初は恥ずかしがって意見が出なかったが、最終的には時間切れになるほど白熱した。
 NIEに関する校内アンケートをとったところ、7割の生徒がNIEを機に社会の出来事に関心を持つようになったと回答。「授業の新聞活用はいいこと」と答える生徒が9割に達するなど、前向きな意見を得られた。
 NIE週間のテーマは教員がこれまで選んでいたが、今後は記事を生徒自身が選ぶのも重要。生徒も教員も学校の勉強と社会の動きを切り離しがちだが、新聞がつなぐ役割を果たしていると感じた。

 

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■考えまとめる力付く-浜松可美中 村松聡一郎教諭
 昨年度は18歳選挙権が引き下げられたため、参議院選挙への関心向上を目標にNIEを実践した。政治への興味を深めるために、3年生有志によるNIE実行委員会を設置。朝夕刊を読めるNIEコーナーを図書室に設けたり、興味を引くニュースを生徒が校内放送で紹介したりした。
 3年生の社会科では、18歳選挙権施行日の各紙を比較して情報リテラシーを学んだほか、政治に関する記事のスクラップに意見文を書く取り組みを継続した。最初は感想だけだった内容が次第に意見文へと質が高まり、記事の内容を自分自身と結びつけてまとめる力が身に付いていった。
 今回の実践で、生徒がニュースを話題にする機会は確実に増え、教師の意識も高まるなどの効果があった。しかし部活や行事との両立が課題。今後は校区の小中学校でNIEを連携し効果を高めたい。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(12)=春休み時事教材を準備
 もうすぐ春休みです。先生方は実践を振り返り、新年度への希望に胸を膨らませていることと思います。そんな今だからこそ、NIEを実践する上で取り組んでほしいことを紹介します。
 まず、いつ、どんな記事や写真が必要であったか整理しましょう。桜エビの天日干しの記事は4年社会科で、インフルエンザ関連の記事は保健や学級活動で使えたなど、思い当たる記事があるはずです。切り抜くことができた記事は貴重な財産になります。スクラップしておき、手に入らなかった物は備忘録などにメモをしましょう。
 次に、新しく指導する学年が決まったら、年間指導計画や教科書の最初から最後まで目を通しましょう。何を指導するかイメージがわいたら、どんな新聞記事があればいいか洗い出します。季節を伝える記事や身近な市町の動きなど、日々の新聞は、今を学ぶ学校教育にとって情報の宝庫です。より多くの情報をタイムリーに使うためには、それなりの準備が必要になります。
 (浜松与進北小・山崎章成)

 

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■紙面授業=英語-劇中にも移民問題 焼津高校 栗田裕三先生
 米国のトランプ大統領が1月中旬、移民制度に関する会議の席上、アフリカやカリブ海諸国からの移民を汚い言葉で中傷した、というニュースは新聞でも大きく報じられ、国際的な反発を呼びました。
 今年、生誕100年を迎えた20世紀を代表する音楽家、レナード・バーンスタインの代表作の一つに、ミュージカル「ウェストサイド物語」があります。二つの不良グループの対立を軸に、許されない恋を描いた名作です。この背景にあるのが、移民問題です。対立する不良グループは、古くからの移民のプアホワイト(ポーランド系)と、新興移民のプエルトリコ系。人種の違いなどにより対立は根深く、それが悲劇をもたらします。
 作品の中でも、この移民問題が分かりやすく表現されています。
 例えば「R」の発音。ポーランド系とプエルトリコ系で違うことがはっきりと分かります。プエルトリコ系が歌う名曲「アメリカ」では人種の違いを強調するためか、これでもかというほどの巻き舌の発音を聴くことができます。
 また、こうしたアメリカ社会が抱える問題が背景となっているため、舞台版では「Thebulletsflying(弾丸が飛び交う)」のように過激な単語も使われていますが、映画版では「Thenativessteaming(住民は暑さにうだっている)」と少し控えた表現になっている部分がいくつもあります。
 半世紀以上前に作られたものですが、こうした問題は現在でも深刻な課題のままです。このようなことを考えながら鑑賞すると、さらに深く楽しむことができます...と言いたいところですが、いったん始まるとバーンスタインの音楽の魔力で、たちまち物語の世界に引き込まれてしまいます。
 このように一つの作品でも、意識すればさまざまなことを学び、味わうことができるのです。

 ※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。