静岡県NIE推進協議会

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=新聞通じ表現力向上 新規実践校が抱負

2019年08月03日(土)付 朝刊


 日本新聞協会はこのほど、2019年度のNIE実践指定校を全国で545校決定した。県内では、県NIE推進協議会が推薦した新規7校、継続7校が決まった。実践校には一定期間、県内で発行される7紙が無料提供され、NIE活動で活用される。新規7校に活動への抱負を寄せてもらった。

 

■多角的に物事捉える力育む 伊豆の国韮山南小 山本順也教諭
 読書好きな子が多く、休み時間になると、図書室前に行列ができている姿をよく目にします。活字に慣れ親しむことはよくできていますが、新聞はというと、読んでいる子どもはほとんどいません。
 だから、新聞をすぐ手にとって見られるようにしたり、新聞を見て考えたことを、朝の会でスピーチする時間を設けたりするなどして、新聞を身近に感じられるような環境を整えていきたいと思います。
 新聞を読むことで、世間に目を向けられるようになり、物事をいろいろな角度から考えてみる力が高まることを期待しています。また、新聞を身近なアイテムとして活用できるようになればと考えています。

  

■社会とつながる効果に期待 吉田自彊小 三津山一世教諭

 NIEの実践を始め、強く感じていることは、児童の新聞への興味の高まりです。本校は、18学級ありますが、全学級で、新聞コーナーを作り、日常的に新聞を読む環境を整えています。
 また、毎週金曜日の朝活動では、新聞ワークシートを活用し、社会で起きている出来事について、自分の考えを持ち、伝え合う活動に全校で取り組んでいます。児童は、毎週楽しみにしています。
 さらに、道徳の授業で新聞を活用することにも全教員で取り組んでいます。教員自らが多くの新聞記事から児童の実態に合う記事を選び、教材化することは、労力が要ります。しかし、社会と児童をつなぐ効果があるのではないかと、全職員で研修しています。これから、よりよい実践で、児童の学びの充実感を育んでいきたいと思っています。

 

■多くの言葉や考えと出合う 湖西白須賀小 加藤健太郎教諭
 「次の日、桃太郎が鬼を倒したことが村中に広まりました。中には、桃太郎とむすめを結婚させたいという人も少なくありません。~中略~年老いた両親に代わり、およめさんがくるくると働きました。~中略~それはそれは、かわいい赤ちゃんでした。~中略~」
 これは、6年生の家庭学習の一つで、児童が昔話の続きを考えたものです。「少なくありません」「くるくると」「それはそれは」など、一つ一つ言葉を選んで使っており、言い回しが見事です。
 本校では、朝活動に「言葉の時間」を新設しました。NIEの実践を通して、児童が多くの言葉や考えと出合い、新たな気付きにつながる取り組みをしていきたいと思います。

 

■役割に着目し生活で生かす 浜松城北小 稲田晴彦教諭
 本校は、新規校として2学期から本格的に始動できるように、現在取り組む内容を検討、準備しています。児童の中にも、新聞を定期購読していない家庭が増えていて、新聞離れが感じられます。
 そこで、中心的に進めていきたい内容は、新聞がこれまで果たしてきた役割を見つめ直す取り組みです。新聞が配達されるところから着目し、新聞がもたらす豊かな情報やその情報がもたらす効果はもちろん、読み終わった後の新聞が再利用されるところまで学習できればと思います。
 日本人の生活に溶け込んできた新聞がこれまで果たしてきた役割をクローズアップするとともに、今後も新聞を生活の中で生かす手立てを見つけだすことができればと願っています。

 

■五輪・パラ後の課題考える 小山中 寺田公紀教諭
 本校がある小山町は、来年開催される東京五輪・パラリンピックのロードレースの会場となっています。しかし、本校の生徒の様子を見ると、まだまだ盛り上がりに欠けているような現状があります。
 そのような現状の中で、今回、実践指定校となったことは本校にとってはチャンスだと捉えております。毎日の新聞に五輪・パラの記事が載っており、それを授業で扱うことで生徒の五輪・パラへの興味・関心を高め、五輪・パラ開催後の問題点などを考える機会になるのではないかと考えております。
 また、たくさんの新聞記事に触れ、生徒たちがその記事から自分たちが解決しなければならない課題を見つけ、自分たちで解決策を考える姿勢を養っていけることを期待しています。

 

■情報リテラシー身に付ける 浜松西高 吉田忠弘教諭
 公立小中高校の学校図書館への新聞配備に財政措置が採られるなど、教育現場における新聞の重要性がますます高まってきております。本校でも、新聞閲覧台に6紙を用意し、生徒・教職員に提供されています。
 現在では、さまざまなメディアが普及しており、それらが提供する情報に対して、その信ぴょう性や有益性などを判断し活用する力、いわゆる情報リテラシーを身に付けていくことがますます強く求められています。
 「ネットのニュースだけで十分」といった意見も聞かれますが、新聞を使って、「記事を正確に読み取り、その内容を要約し、それに対する自分の意見を持ち、他者に伝えていく」を繰り返すことによって、前述の能力を育む一助となればと考えております。

 

■世の動きに自分の意見持つ 常葉大付属橘中・高 塚本学教諭
 2020年のビッグイベントといえば東京オリンピック。その熱狂が通り過ぎたころ、大学入試が大きく変わります。1990年から30年にわたって受験生の学力を"測定"してきたセンター試験から、「思考力・判断力・表現力」中心の新テストへ変更します。
 生徒が置かれている環境もこのように変わるのですから、これを機会に生徒たちに、新聞を通じて社会や世の中の動きに関心を持たせたいと考えています。そして、調べ考えることで自分の意見を持ち、それを表現できるようにしていきたいと思っています。
 他者の意見を知り、自分の考えを深化させる喜びを味わい、生徒も教員も楽しくNIE活動を行っていきたいと思っています。

 

■2019年度NIE実践指定校
 【新規】伊豆の国市立韮山南小、吉田町立自彊小、湖西市立白須賀小、浜松市立城北小、小山町立小山中、浜松西高、常葉大学付属橘中・高
 【継続】(2年目)西伊豆町立田子小、静岡市立清水飯田小、菊川市立菊川西中、清水西高(3年目)富士宮市立西富士中、川根本町立本川根中、静岡聴覚特別支援学校

 

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県NIE推進協議会総会でNIE活動の抱負を語る新規実践指定校の教諭=6月、静岡新聞放送会館

 
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■紙面授業-日本史 国司に重要 神社参拝 富士見中・高 宮原一将先生

 先月下旬、参議院選挙が行われ、連日新聞で大きく報道されました。現代の日本では、議員や首長は選挙で決まります。でも、選挙でリーダーが選ばれるようになったのは明治になってからです。奈良時代以降、地方を治めるために六十余りの「国」が置かれていました。今の静岡県には伊豆国[いずのくに]・駿河国[するがのくに]・遠江国[とおとうみのくに]の三つの国がありました。国のリーダーは「国司[こくし]」といい、朝廷から派遣されていました。
 では、その国司にとって最優先の仕事とは何だったでしょうか。それは「神社への参拝」です。国司は赴任後、まずその国の神社に参拝するのが慣例でした。「政」は「まつりごと」とも読みます。当時のリーダーにとっては、神様をおまつりし、豊作や世の平安を祈ることが大切な仕事でした。私の趣味は神社巡りですが、国司にとってはそんな気楽なものではなかったようです。
 では、国司が参拝するのはどのような神社だったのでしょうか。答えは「国内の有力な神社全て」です。最も有力な神社を「一宮[いちのみや]」といい、国司はそこから順番に二宮[にのみや]、三宮[さんのみや]...と巡っていきます。富士見中・高がある駿河国の場合、一宮は富士宮の浅間大社、二宮は由比の豊積[とよづみ]神社、三宮は清水の御穂[みほ]神社です。平安初期の駿河には22の有力な神社がありました。万一これらを全て巡るとなれば、車も電車もない時代ですから、ほかの仕事ができなくなってしまったことでしょう。
 そこで登場したのが「総社[そうじゃ]」です。総社は国の全ての神様を集めた神社で、参拝すれば全ての神社を回ったことになりました。駿河国では、平安時代に静岡浅間神社(の中の神部[かんべ]神社)を総社としました。
 では、最後に宿題です。伊豆と遠江の一宮・総社はどこでしょうか。調べてみてください。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(29)一覧性がもたらす効果

 「小さな子どもたちには、NIEはできない」という概念を打ち破るべく、新聞コラージュを推進するきっかけとなったのが、現在、本紙夕刊「窓辺」を執筆中の新聞切り抜き作家マスダカルシさんとの出会いです。
 本紙日曜別刷り「週刊YOMOっと静岡」に、マスダさんの「見つけたチョキチョキ新聞アート」が掲載されています。それは、1枚の紙面に詰まっている情報の中から必要なものを取り出し構築する活動です。アートなので、本来は「考える図工・美術」として大変価値のあるものです。しかし、色・形・質感などの情報リテラシーとして捉えると、NIEの考えに基づき新聞アートの技法を取り入れた新聞コラージュは、語彙[ごい]が少ない子どもたちにとって学びの手法となります。
 新聞には文字だけでなく、写真・広告などもカラフルに紙面を飾っています。漢字が読めなくても、言葉の意味が分からなくても、小さなころから新聞に触れ、慣れ親しんでいくことで視野が広がり、自身で情報を取捨選択していく素地となります。
 これは、新聞の一覧性がもたらす大きな効果だと言えます。
 (静岡井宮小・中村都)