静岡県NIE推進協議会

新聞通じ「主権者教育」 県推進協幹事会 常葉高の授業見学

2021年04月21日(水)付 朝刊


 NIE(教育に新聞を)に取り組む県NIE推進協議会(安倍徹会長)は20日、静岡市葵区の常葉大常葉中・高で幹事会を開き、新聞を用いた現代社会の授業を見学した。
 実施したのは「リニア中央新幹線工事と大井川水問題」を調べている同高の2年生。オンラインの意見交換会や署名活動などに取り組む県立大の女子学生の記事を読み「社会課題を人ごとと思っていない」「同世代が興味を持つきっかけを作っている」などと感想を述べた。塚本学教諭(NIEアドバイザー)が「自分ごと」という言葉に着目。社会課題を自分ごととする「主権者教育」を紹介する別の記事につなげ、生徒は若者の社会参画のあり方について意見交換した。
 幹事会には県内の教育委員会や新聞社の関係者らが出席し、2021年度の事業計画案を承認した。

 

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グループワークで意見交換する生徒=20日午後、静岡市葵区の常葉大常葉高

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=実践8校 成果と課題(上)

2021年04月03日(土)付 朝刊


 教育に新聞を活用する取り組みを展開する県NIE推進協議会(安倍徹会長)はこのほど、2020年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。実践指定校として2~3年間活動してきた西伊豆町立田子小、伊豆の国市立韮山南小、静岡市立清水飯田小、吉田町立自彊小、湖西市立白須賀小、清水西高、常葉大付属橘高、浜松西高の8校の担当教諭が、取り組みの内容や成果、課題を説明した。全8校の発表概要を2回にわたり紹介する。前半は西伊豆田子小、伊豆の国韮山南小、静岡清水飯田小、吉田自彊小の4校。
 

■情報伝達力向上に効果 西伊豆町立田子小 土屋由子教諭 落合つかさ教諭
 小規模校であることを強みとして全教職員でNIEに取り組み、自分の学びを他の人に理解してもらう力、情報伝達力の向上を目指した。新聞が子どもたちの身近なものになるような環境づくりから始め、授業での活用、学習ツールとしての定着を進めた。
 1年生の授業では新聞から季節が分かる写真を探し、そこから感じたことを書く活動を行った。児童は写真が同じでも、いろいろな表現があることを学んだ。社会科で特色ある地域の暮らしについて学び、新聞形式でまとめた5年生は新聞のレイアウトや見出しを手本にし、読者の興味を引き、分かりやすくなるように生かした。
 児童は自分の思いを分かりやすい文章で書き、情報の取捨選択もできるようになった。情報伝達力の向上にNIEが大きな効果を発揮したと感じる。

 

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■環境問題の視野広がる 静岡市立清水飯田小 小川訓靖教諭
 知識や体験、社会事象などがつながり、自己の中で再構築、系統化されていく「喜び=目標達成から生まれる自信」を味わうことが、知識獲得や語彙(ごい)力向上、豊かなものの見方を育むことにつながると考え、そのための資料やツールとして新聞を活用した。
 「なぜ水は飯田にとって宝なのか」をテーマにした総合的な学習の締めくくりに新聞を用いた。地元の川にはごみが多いと気付いた児童に海洋プラスチックに関するいくつかの記事を提示した。地域から世界的な環境問題へと視野を広げ、自分事として考えられた。
 毎週1回、共通の記事を読んで要約し、自分の考えを書いてまとめる活動も行った。家庭学習としても取り組み、知った事実や考えを家族に伝える児童も多く見られた。新聞への抵抗感が薄れ、親しみを抱くようになった。

 

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■多面的に考える力養う 吉田町立自彊小 大柳知穂乃教諭 森祐介教諭
 校内研修にNIE教育を効果的に絡めることにより、本校が目指す「対話を通して、より客観性のある考えをつくる授業」に迫ろうと考えた。各学年、道徳科とそのほか各教科の重点単元に絞り、身に付けさせたい力を押さえた上で記事内容を選定して活用した。
 4年生の道徳科では、発達障害のある子が特別席でJリーグを観戦するという記事について考えた。児童が多面的、多角的に考える姿が見られた。授業以外にも日常的に新聞を身近に感じる環境づくりを進めた。いつでも新聞を見られるようにし、新聞切り絵作家を招いた授業で新聞に対する親しみを育んだ。
 児童からは「内容が面白くて思うことがたくさんあったから、学習に役立っていると思う」などの感想があった。子どもの成長と教員の授業力向上につながった。

 

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■自分なりの考え深める 伊豆の国市立韮山南小 山本順也教諭
 「自分の考えを深め、広げるNIE」をテーマに実践を重ねた。新聞は情報を詳しく知ることができ、時間をかけて何度も読み直せる良さがある。世の中の出来事に対する関心が高まり、考えを深め、広げていけるのではないかと考えた。
 児童が新聞をいつでも手に取れることを第一に考え、昇降口に新聞コーナーを設置した。ジャンルを決めずに教員が興味を持った記事も掲示し、児童がいろいろな出来事に関心を持てるようにした。近くに付箋を置き、記事についての感想を書けるようにもした。これによって自分なりの考えを持つ子が増え、考えを深めることにつながった。
 関心が高まれば成果が表れることは実感できたが、自主的に新聞を読む児童はまだ少ない。授業で新聞を計画的に取り扱うことが今後の課題になると感じた。

 

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■紙面授業 理科 シラスに混じる生物 島田樟誠高 近藤正先生

 春の風物詩として、静岡県ではシラスがその一つに挙げられます。近年は不漁続きで心配ですが、幸いに今年も県内のシラス漁が解禁になり、新聞紙面でも大きく取り上げられました。
 シラスは、主にカタクチイワシの稚魚です。県内では釜揚げシラスとして売られているのをよく見掛けます。カタクチイワシの稚魚は群れで生活していますが、イワシだけを狙って取るのは困難でさまざまな生き物が混獲されます。
 それらは、独特な形をしているものが多くチリメンモンスターと呼ばれて観察会が行われています。私も以前、授業で扱うためにシラス漁の混獲物を業者の方からいただき、朝から晩までピンセットでつまみ続けたことがあります。その中からは、魚類だけでなく甲殻類、頭足類、底層を引いたわけでもないのに貝類まで出てきました。さらに詳しく調べていくと、この小さなチリメンモンスターがあの成体になるのかという驚きがある一方で、種を判別できないこともありました。知識や経験が不足していることは否めませんが、ウナギがそうだったようによく知られている生物の子どもがどんな形をしているのか、いつどこで産卵するのかいまだに分かっていない場合があるのです。
 何の子どもかを明らかにするためには、海で採集した標本から少しずつ小さく未熟な個体を見つけてつなげていくか、親から卵をとって飼育した結果と比較をする必要があります。DNAを調べることができればより正確に種を判別することができます。購入したシラスからよく知られた生物の子どもが初めて発見されることも十分に起こり得ます。まだ誰も知らないチリメンモンスターの正体を明らかにするのは、これからシラスを食べるあなたかもしれません。

 県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(48)想像力を深める契機に

 20年ほど前、筆者が教員を目指し再入学した大学では、鳴門教育大学の大学院生との間で行われる「遠隔授業」という科目がありました。大学院でさらに深く学ぶ現職教員もいて、そうした院生と大学3年生が、徳島と京都を映像を介してつなぎ、チャットを使って教育に関して討論するというものでした。それが現在のオンライン授業の先駆的な取り組みであったことを、最近の記事を読み込む中で振り返りました。
 新聞に日常的に接していく意義は、読者が過去の自身の体験を振り返ったり未来の社会の姿を思い描いたりと、想像力を深めるきっかけを与えてくれることです。
 そのような新聞に興味をもった生徒の1人が、この春メディアを研究する大学に進学しました。彼は総合学習の一環であった筆者のゼミ活動に参加し、静岡新聞社を訪問した際にも記者の方の話に熱心に耳を傾け、より積極的に新聞を探究していました。
 彼の進路に一つのきっかけを与えた新聞の魅力、想像力を深める魅力をこれからも伝えたいと思います。
 (静岡聖光学院中・高・伊藤大介)