静岡県NIE研究会

県NIE研究会員座談会
-教科の目標見据え実践 大会を機に工夫さらに

2013年07月25日(木)付 その他


 第18回NIE全国大会静岡大会を前に、県NIE研究会定例会に参加した中学校教諭、高校教諭らが座談会を行った。日ごろの取り組みや、課題、悩み、さらに全国大会への期待などについて、教員を目指す大学生も交え、意見交換した。

 ■取り組み-視写、投稿、スクラップ
 ・村田さん 日ごろのNIEの活動内容と、手応え、成果を紹介してください。
 ・大村さん 15年くらい、コラムの視写を続けています。正確に写して、読み仮名を全部書かせる取り組みと、意味調べ。慣れてきたら要約をしよう、200字以内で意見を書こう、という形にします。それから毎朝、学活でニュースを紹介させることも行っています。
 ・小杉さん 私は国語の授業を通して、静岡新聞の「ひろば」に投稿することを奨励しています。400字程度なら、ほとんどの生徒が書けるようになっています。たまに紙面に載ったりすると、それが励みになって、集団として前向きに取り組めるようになっています。自由に書かせるのは無理だと思います。最初は半ば強制します。書くことが嫌にならなくなる、という壁を越えないと、書けるようになりません。ポイントは最初の5分間。しゃべらせないようにします。沈黙の5分。それが過ぎれば、後は流れ出します。
 ・福井さん 中学3年の社会科を担当しています。公民学習の現代の社会を捉えるという部分、それから入試対策として、時事問題にも興味を持たせたいということで、3年の担当になったら、NIEをやってみたいと思っていました。とっかかりとして新聞スクラップを子供たちに4月に投げ掛けました。週2回ぐらいのペースで気になった記事を選んで、要約する、それに対する意見を書いていくという取り組みを継続していって、どうなるかなというのを探っているところです。発表する様子や、スクラップを見ていると、思ったより意欲的に調べている子とか、それに対するコメントも的確に捉えている子が多いですね。それを続けていく中で、力がついています。公民学習は9月から。授業の中でも憲法、裁判、選挙など、トレンドな話題として使っていきたいと思っています。

 ■新聞に要望-親へのアピール必要/大学に出張授業を
 ・村田さん スクラップの話が出ました。他の方はどうでしょう。
 ・大村さん 新聞を取っていない家庭が年々増えています。朝の会で「ニュースでトーク」という取り組みをしています。以前は必ず新聞記事を使いなさい、と言っていましたが、新聞を取っていないという子供が増えたので、口頭だけで、となっています。

 ・村田さん 大学生の村松さんはどうして研究会に参加しようと思ったのですか。
 ・村松さん 言語活動と、メディアリテラシーという視点で、卒業研究をしていこうと思ったときに、NIEの活動が目に止まりました。私自身は小中高とずっと、パソコンを使っていたので、なぜ、わざわざ新聞を使うのかな、という疑問があり、そこから調べていこう、と思い、参加しました。それを自分なりにまとめて、教師になったときに使えればいいかなと思っています。
 
 ・村田さん 行政、新聞社への要望をお願いします。
 ・小杉さん 教科書教材と今日性のある新聞記事をつなげていきたいと思います。必ずどこかで結び付くと思います。
 ・福井さん 新聞社はNIE自体の普及に向けてPRもしていると思いますが、もっと裾野が広がるような、積極的なアピールをしたら、と思います。新聞を取っていない家が年々増えています。スクラップする上でそれが一番ネックです。新聞社が新聞の提供をしてくれると、ありがたいですね。それから、TPP(環太平洋連携協定)など、うまくメリット、デメリットを、子供が見ても分かるような、特集のようなものがあると、もっと活用できるかなと思います。
 ・大村さん 私は、あるものの中から、自分で選んで実践をするので、特に要望ということではありませんが、使う側からすると、新聞社の意見がはっきりしていたほうが、見出しにしても、読み比べがしやすいと思います。社説なども、特色があると使いやすいですね。
 ・小杉さん 家族の中で、熱心に新聞を読む親がいたり、おじいちゃんがいたりすると、積極的に読む子が多い、という印象があります。だから、NIEは小さい子を持った親にも必要かなと思います。親が読む姿を見て、そんなに面白いのかなと、子供心に思うのではないでしょうか。

 ・村田さん 授業だけではなくて、親へのアピールも必要になってくる、ということですね。
 ・村松さん 最近、大学で法教育といって、弁護士会が大学生相手に、こういう授業があるんだ、ああいう授業があるんだとやっているので、ぜひ新聞社も大学に来て、新聞ってこう使うんだよとやってくれると、それだけで、少しは違うか、と思います。

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座談会出席者(右から)=村松輝紀さん(静岡大教育学部4年)、小杉幸一さん(県立遠江総合高教諭)、福井秀和さん(静岡市立服織中教諭)、大村友乃さん(静岡市立東中教諭)、村田敦さん(静岡市教委主席指導主事)
 

 ■課題-考えさせること大事 労惜しまず教師率先
 ・村田さん 悩み、課題は。
 ・大村さん 投書をさせようというときに、投書欄はどうしても本名が載るので、それを嫌がる子がすごく多いですね。変なふうに使われて、有名になったらどうしようとか。匿名性にすごく慣れているので、そこはちょっと考える必要があると思います。新聞に載ることが必ずしもうれしくないようです。
 ・小杉さん そこは乗り越えるべき壁だと思います。必ず、人の目を意識して書きなさい、と言っています。それから、憲法改正問題などを取り上げるとき、憲法9条の賛成、反対、どっちにしても、子供を通じて、親からの反論がたぶんあると思いますが、それを教員が怖がっていてはいけないと思います。憲法改正は大きな問題になっていますから、知らないと就職試験も困るだろうということで、憲法改正賛成か、反対かで書かせました。そのときには、私はこうですよ、ということを、はっきり伝えました。

 ・村田さん 投書も、何のために書くか。それがないといけないと思います。先生がやらせている、だけでは無理。高校生は実名掲載を喜びますか。
 ・小杉さん これは指導の仕方次第。中学でも、大人でも一緒。本当に指導しようと思ったら、スクラップも投書も教員自身がやることが必要だと思います。自分の名前が新聞に出ると、どういう気持ちになるか。私は月1回出すように心掛けています。スクラップも自分で実際作っています。教員が取り組む上でのネックは、その労力。スクラップを作るのも面倒だし、投稿する場合、たった400字とはいえ、何とか載せたいなと思うと、それなりに苦労します。そこがポイントかなと思います。
 悩みは、結局は時間との戦い。教科書中心に進度も学年で決まっていますし、どの教科、どの科目、どの時間でNIEを扱うか、ということが悩みになります。多くの人がやった方がいいとは思っているのに、踏み切れないのはそこだと思います。
 ・福井さん 憲法問題や選挙など、社会科は一番NIEに取り組みやすいと思えます。その一方で、公教育という側面もあります。自分の考えを当然持ちながら授業もしますが、どっちが正しい、というふうには言えません。意見を持たせる、考えさせるということが大事なのかと思います。
 それから、大人でも難しい内容を子供がどこまで読み取れるか。最近、静岡新聞も工夫してくれて、親子向けの「YOMOっと静岡」があります。ああいう紙面はなるべく授業で活用したいなと思います。
 ・村松さん 僕もスクラップをやっています。週1回ぐらいですが、自分が興味を持った記事を切って、200字ぐらい感想を書くことと、読めない字を赤で丸を付けて、意味を調べるということをやっています。子供とボランティアで接することがあるので、それをその子供と交換しながら、意見交換します。記事を取り上げるまではいいのですが、その後の漢字の読み方の指導など、先生方はどうしているのかなと思います。
 ・大村さん コラムの視写をやらせるときに、全部読み仮名を付けさせます。そうすると家の人と会話をせざるを得なくなります。
 ・村松さん 大学生はほとんど新聞を取っていません。僕は図書館に行って読んで、週に1、2回、コンビニで新聞を買ってくるというパターン。結局、ネットが大学生の媒体の一つなので、そこでニュースを見て、おしまいです。

 ・村田さん 漢字が読めない、ということに対する対策は。
 ・小杉さん 私は、コラムを全部ひらがなにしてしまいます。それを漢字とひらがなの使い分けで書きなさいと。高校だと非常にいい勉強になります。中学でやっても面白いと思います。自習のときなどに非常にいい課題になります。生徒も喜んでやります。

 ■期待-一歩踏み出す契機に
 ・村田さん 全国大会への期待にはどんなことがありますか。
 ・大村さん 私たちだけでなく大会に参加する皆さんも、悩み、課題を感じながらやっていると思うので、そういう中でどういう実践をしているのか、を知りたいですね。
 ・小杉さん 生徒も教員も忙しい。生徒も部活があったり、委員会があったり、教員も科目や進度で制限がある中で、無理なく取り組めるような、そういうやり方を知りたいと思っています。
 ・福井さん NIEに取り組むとっかかりの部分、一歩踏み出すきっかけがつかめれば、と思います。大会に来る人は大体ちょっとやってみようかな、という気持ちはあるはずです。
 ・村松さん 今回のテーマは「やさしいNIE」。今までやってこなかった人に対しても、どのようにやるのか、どういうふうに教えていくのか、というのを見て、実際に生かすということを見たいですね。小学校の教員を目指しているので、小学校の実践を見たいと思っています。
 ・小杉さん 教科書と新聞をどう結び付けるか。基礎、基本は教科書。それに肉付けするのが新聞。両方が必要で、うまく絡み合っていくといいのですが、現場はどちらかというと、基礎、基本の教科書で手いっぱいという状態です。ただ基礎ばかりやっていれば膨らむかというと、そうではないから、やはり新聞をいかに絡めるか、ということだと思います。普通の科目の中でどう取り入れるか、ということについてヒントがあるといいなと思います。
 ・大村さん ネットニュースが勢いを伸ばしている中で、紙媒体はここが強い、ということや、新聞の良さが分かれば、と思います。

 ■言語活動充実の手段
 ・村田さん 教育委員会の立場として最後に一言。学習指導要領に言語活動の充実、ということがあります。そのために必要なのは、一つは教科として言語に関する能力を高めていくことであり、それから思考力、判断力、表現力を育んでいく、ということ。NIEというのは、言語活動の充実のための一つの手段であるということで取り掛かっていくことが大事です。
 今、小中高で新聞が教材としてあるので、まずは新聞に触れさせる、手に取ってみる、ということが一番大事かなと思います。そこから、新聞の機能、中身の読み取り、活用ということにつなげていきます。間違ってはいけないのは、一番大事なのは教科の目標の達成ということ。そのための一つの手段として言語活動の充実があり、その手段がまた新聞活用ということ。ぜひ教科の目標を達成するために、こういう手段を有効に使っていただければと思います。そこが新聞の活用の上で一番大事なことだと思います。