一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

「風車」配置で討論活発化

2012年06月24日(日)付 朝刊


 新聞紙面を利用した発表や、実際の新聞作りなどの実践を行うと、グループでの話し合い活動が附帯することが多い。言語活動の充実を目指す場合、グループ討論は取り入れやすい教育方法であろう。しかし実のところ一部の学校を除いて、このような話し合い活動で学習効果が上がるとは言えないのが現実だ。話す力も聞く能力も低下している現状で、どのように授業に取り入れていったら良いのだろうか。
 まず、ディベートだからと言って活発な討論が展開される、と期待しないこと。自分の意見を話す・他者の考えを聞く・要約して書くという基本からスタートすべきだ。そのためには、司会を順番制にする・記録用紙を作るなどという下準備が欠かせない。
 次に、グループ形成を4人以下にすること。下図のように、生徒同士が相対する形で机を並べるのではなく、風車型になるよう机の配置を工夫してみよう。机の置き方を変えただけで、すこぶる効き目があるのでオススメだ。
 筆者は実際に自分の授業で、対面配置と風車型のポジショニング成果を比較してみた。学習はフリートーク形式の話し合い活動で、さまざまな解釈を把握するもの。開始から発声に至るまでの時間・個々の発言回数をカウントしたが、格段に発話数は増加した。問題点は、生徒が喋[しゃべ]っている中身が果たして本当に実のあるものかどうか分からない、ということだが。
 また、簡単で良いので必ずワークシートを作ること。誰の発言か・どのような趣旨か、という事実を記録する枠が必要。この覚え書きが書けていれば、「聞くこと」ができたと判断する。とにかく、他人の話した内容をメモするという習慣を身につけさせたい。
 さらに、日本語で討論するとしばしば自分の意見を否定された瞬間に感情的になる可能性が高い。これを避ける意味で、英語で行う方法もある。英語だと頭の中で英文に直すというタイムラグが生じるため、感情が抑えられる。これこそ、言語教科である英語と国語のチームティーチングとしておあつらえ向きではないか。それも難しい英語ではなく、Why/Becouse/For exampleの繰り返しで構わないだろう。
 さて、実際の授業で「聞くこと」の力を養うことは難しい。なんとなれば、本当に聞いているのかいないのか・聞いていても分かっているのかいないのか、を客観的にはかる尺度が存在しないからだ。では、話す・書くとリンクさせながら、聞く力をどのように獲得させるのか。
 新聞を利用して、「聞くこと」の能力を鍛錬するためには「ヒアリング新聞」がオススメだ。朝読書の何回かを「ヒアリング新聞」に回すのはいかがだろうか。教員が新聞を朗読し、生徒に聞いたままを書き取らせてみよう。普通の日本語を聞き取ることの難しさに、生徒はがくぜんとするはずだ。新聞記事は義務教育修了の国語力を目安として書かれているので、言葉理解のレベル確認ができる。慣れてきたら読み手を生徒と交代し、聞きやすい話し方の訓練にも応用すべし。仕上げとしてこれらの音読教材に、賛否両論が真っ二つに分かれている旬の記事を選択しよう。紙面的に賛否両論を併記しているパターンも良し、テーマをめぐってネットにて激論が交わされているコンテンツも有効だ。前述の風車型机配置でディベートに取り組ませよう。同じ進路希望者で班を作りグループ学習を行うと、連携も深まり、知識も増え、小論文や面接対策に劇的な効果をもたらすに違いない。
(実石克巳/静岡市立高)

20120624図.JPG

「批判的思考力」を育成

2012年06月17日(日)付 朝刊


 私が、前任校の清水西高校で取り組んでいたNIE活動を紹介します。今後の高校教育におけるNIE活動推進の参考になれば幸いです。
 清水西高校では、教科「公民」の中に、学校設定科目として「新聞講読」の授業を設け、3年次の選択科目のひとつとしています(平成24年度現在)。学校設定科目ですから、決められた教科書があるわけではなく、新聞記事を利用したNIEの授業そのものと位置づけられるわけです。
 私は、「新聞講読」の授業で、批判的思考力の育成を一貫したテーマとしていました。批判的思考力の定義は諸説ありますが、私自身、①事実を正確に捉える力②捉えた事実を多面的、多角的に考察する力③論理的な根拠を持って結論や判断を導き出しそれらを表現する力の三つに整理し、①から②そして最終的に③へと段階を追って到達していくことが批判的思考力であると考えました。
 授業では、新聞記事を利用しながら、人間が誕生する瞬間から死に至る間に、生命に関して起こり得る問題を扱いました。
 例えば、出生前診断という事象があります。出生前診断がどのようなものなのか正確に捉えること、出生前診断を行うことによって起こり得る問題を考えること、また、その長所・短所を考えること、そして、最終的に出生前診断を行うことに賛成するのか反対するのか自ら判断し、その判断を自分なりに論理的に表現すること、この事象を通しての批判的思考力をこう考え、こうした力を身につけさせたいというねらいを持って授業を展開しました。この授業のまとめには、ディベートや意見交換を行い、この問題に対して多様な考え方があることを生徒たちに実感させるようにしました。
 来年度より新学習指導要領が完全実施となり、公民科でも課題探究学習と言語活動の充実が強く求められています。そうした要請に応え得るのがNIE活動であり、批判的思考力の育成ではないかと私は考えています。

(野沢博文/県教委教育政策課)

県内アドバイザー講座
見出し考え表現力を磨く

2012年06月10日(日)付 朝刊


 今回は、「新聞記事の見出しから学ぶ」実践を紹介します。見出しの重要性を理解しながら、簡潔で的確な表現や人を引きつける表現など、表現力を磨く言語活動が組まれています。
 対象は小学校高学年~中学生・高校生で、国語や総合、学級の時間などで行うことができます。
 まず、新聞記事の見出しを比較する活動から入ります。北島選手の記事は一例です。最近の新聞から探すとなおよいと思います。

               ◇……………………◇

 

 ◆「水泳世界選手権200㍍平泳ぎの記事の見出し」
 ・A紙=北島 銀 復活への序章
 ・Y紙=北島 失速 「銀」〔平成23年7月30日付朝刊より〕
 ※北島康介選手が銀メダルを獲得した記事。

 

 新聞記事の「逆三角形の構造」については、教師が具体例を示しながら説明し、見出しの重要性を理解させます。
 グループでの二つの活動は、各自の考えをもつ時間を確保してから、紹介し合います。記事を見せる場合には、拡大投影機などの視聴覚機器を利用するとよいでしょう。
 見出しを考えさせる活動は、生徒にぜひ紹介したい記事を読ませる絶好の機会です。普段から心がけて記事を探しておきましょう。そして、生徒が付けた見出しは大いに認め、称揚するとよいと思います。
 最後の「授業に見出しを付ける」活動は、この実践に限らず、すべての授業で可能です。言語表現を磨き、言語活動の充実を図りながら、短時間に授業の振り返り・学び直しによる定着をねらう活動としてお勧めします。ぜひ実践してみてください。

(矢沢和宏/島田川根中校長)

20120610図.jpg

※(アドバイザー講座は 隔週掲載します)

広がる自分の世界実感

2012年06月03日(日)付 朝刊



 初めにお断りしておきたいことは、「一緒にNIE 県内教諭の実践」というタイトルですが、今年4月の異動で大井川高校から「県庁」勤務になっていますので、現在「教諭」ではありません。ですが、今までNIEの実践を続けてきた者として、多くの方々にNIEの魅力を知っていただき、実践に取り組んでほしいと思っています。
 私の実践は簡単です。新聞の中から興味・関心のある記事をクリッピングし、その記事に対する感想や意見をまとめる、作業としてはこれだけです。ですから、新聞さえ手元にあれば、すぐにできます。テーマを設定すれば、どの教科でも対応可能です。ポイントは、続けることです。続けていくうちに、長い論理的な文章を読む訓練ができ、漢字や言葉を覚え、勉強の基礎となる読解力が身につくでしょう。感想や意見をまとめることは、文章を書く練習にもなります。私は学校での実践で、何度も生徒の変化を感じる瞬間に出会いました。
 変化の激しい現代においては、自ら考え、探し、選択することで、現時点で最も適切だと思われることを、自分で決める力を身につけることが大切です。その時、世の中のことを知らないと適切な判断ができません。そこで、新聞の出番です。
 紙の新聞の良さは、何よりも一覧性が高いということです。仮に宿題としてこの作業をやらなければならない時、記事を選ぶためにしぶしぶ新聞を広げても、結果的にはさまざまな記事を目にすることになります。やがてそれまで興味がなかった記事に目が止まるようになるはずです。それこそ、自分の世界が広がる瞬間なのです。世の中のことを知ることで、意思決定の判断材料が自分の知識として蓄積されていくのです。
 そうして蓄えた知識を使って、さまざまな場面で適切な意思決定をおこない行動することで、自分自身の道がひらけ、ひいては社会を良くすることにつながっていくと信じています。NIE活動には、そんな可能性があると思います。
(川上努/県経営管理部法務文書課)