一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

期間を限らず長い目で

2012年09月23日(日)付 朝刊


 NIE実践校として、御殿場南中学校で1年間実践に取り組んできました。取り組み始めた当初は、授業の中にどう新聞を活用していけばよいか戸惑い、NIE報告会や研究会などに参加させていただくことで、新聞活用の具体的な実践を教えていただきました。
 実践1年目は「新聞に触れ、新聞に親しむ」ことをテーマとして実践を重ねていきました。新聞を読んでいる生徒は中学3年生で42%。半数にも満たなかったため、新聞に触れる機会を多くすることが喫緊の課題だと考えました。各学級に静岡新聞が1部ずつ届くことと、NIE実践校となり、複数の新聞が届くことも実践の追い風になりました。
 朝の会や帰りの会で新聞記事を自分で選び、要約と意見を発表したり、新聞の構成について学習し、修学旅行について班ごと新聞にまとめたり、静岡新聞主催のコンクールに応募したり、道徳で新聞記事を最初に取り上げて題材に迫っていったりするなど、新聞の活用方法は実に多様でした。
 本年度、御殿場南小学校に異動になり、1年生を担任しています。実践指定から外れ、低学年ということもあり、漢字の多い新聞を活用するのは難しいのが現状です。しかし、ふとある冊子が私の元に届きました。静岡新聞発行の「新聞でこんなに学べる」。小学校版の新聞活用ハンドブックです。そこには、1、2年生の生活科で新聞を活用できる例などが数多く掲載されていました。今一度、新学習指導要領解説書を読んでみると、明記された「新聞」という言葉の数は43にもなります。生活科にも一つ明記されていました。
 昨年度までの中学校での実践は中学3年間で終わりではなく、それ以前の小学校、それ以後の高校につながっていくということ、社会を見る目を養うということは何も短期間で終わるものではないということを実感しました。新しい環境に入った本年度も、新聞を取り入れていきたいと思います。

(菅野陽子/御殿場南小)

県内アドバイザー講座
気に入ったらスクラップ

2012年09月16日(日)付 朝刊


「金メダルはねらっていた。夢じゃなくて、目標だった。ただ、これがぼくの価値じゃない。これからの人生がぼくの価値になるので、恥ずかしくないように生きていく」。ロンドンオリンピックのボクシングで48年ぶりとなる金メダルを獲得した男子ミドル級村田諒太選手の言葉です。
 新聞を読んでいると、「この言葉はすごい」「この記事は何かに役立ちそう」と思うことがあります。後で「あの記事を使いたいのだけれど、どこにいったかな」ということがないように、取り組んでほしいことを児童生徒、保護者、教師に分けて紹介します。

 【児童生徒の皆さんへ】
 まずは気に入った記事を切り抜きましょう。その後、ノートに順に貼っていくと、記事を探すのに便利です。気づいたことやどうしてその記事を切り抜いたかなどメモしておくと、記事を使う際に役立ちます。書くことにとらわれすぎると負担になり長続きしませんので、あくまでも記事が主役でいいと思います。特集記事や大きな事件の記事などは、切り抜かずにその面をファイルに入れるのもいいでしょう。
 夏休みに毎日一つ新聞記事を切り抜き、その記事と自分の生活とのかかわりを日記に書いた子を教えたことがあります。期間を限定することで、途中で投げ出すことなくやりとげることができ、社会の動きを学ぶおもしろさが分かったと喜んでいました。

 【保護者の皆さんへ】
 このニュースについてぜひとも誰かと話したいという経験は、多くの人がしていることと思います。そんな時、新聞を広げながらお子さんと話をしてみませんか。読書好きな子が知らないうちに大人向けの本を読むようになるように、新聞の魅力に気付けば子どもたちは自然に新聞を広げるようになります。おいしい料理でも食べず嫌いの子がいます。新聞に何が載っているかを知らない子に「新聞を読め」と言うのではなく、「ここを読んでみたら」と声をかける方が読む気が増すはずです。
 新聞を読むことに興味をもった子には、記事をとっておけば役立つことを教え、スクラップを勧めましょう。学年が進み、お子さんの興味のある分野が明確になれば、テーマを決めて切り抜きをすると手作りの事典を作ることができることを教えるのもいいと思います。

 【教師の皆さんへ】
 新学習指導要領で、小学校の段階で逆三角形の文型やリード文や見出しの役割を教えることになりました。この点を指導することが新聞活用の基盤になります。新書版の本1、2冊分の情報量があり、社会の動きを網羅的に載せている新聞は、大人でも全てを読み切るのは難しいと思います。写真や見出しからだけでもニュースの概要を知ることができるのが分かれば、読めない漢字があるという抵抗もかなり減るのではないでしょうか。朝の会等で「今日のニュース」のコーナーで新聞記事を発表する取り組みは多くの学校で行われています。記事全てに振り仮名を振り、読むことに四苦八苦している子どもを時折目にします。新聞の表記の特性からすれば、記事の最初の部分を読めればいいということを教えれば子どものやる気も増すはずです。
 子どもが興味をもちそうな記事を切り抜き、教室に掲示することができれば、新聞に興味をもたせるだけでなく、スクラップの仕方のヒントを教えることにもなります。

(山崎章成/浜松曳馬小)

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 【写説】2012年8月13日静岡新聞朝刊

同一コラム、広がる関心

2012年09月09日(日)付 朝刊


 家庭学習に新聞コラムの視写を取り入れるようになってから15年近くたつ。昨今はコラム視写の効果がずいぶん話題になるようになってきた。個々で行う視写の利点としては、次のようなことが挙げられる。
 ①簡潔でわかりやすい文体が身につく②漢字ノート等に書き写すことで、原稿用紙の使い方が身につく③意味調べを行うことで語彙[ごい]が豊富になる④そのとき話題になっている事柄に関心をもつきっかけになる⑤中学生には意外と読めない字もあるので、家人に聞くことで、家庭でのコミュニケーションのツールとなる。
 年度末に行っている「どのような学習方法が自分の力を伸ばしたか」というアンケートにも、生徒自身がこれらを実感するコメントが見られた。
 これまでは生徒各自で行っていたものを、昨年度からは学年全体で同じコラムを使っての視写を行ってみた。その結果、こんな会話が聞かれるようになってきた。
 「先生-、こないだのコラムで立川の孤独死のこと読んで、おばあちゃん心配になって電話しちゃいました」
 「調べたらその立川市って前の月にも孤立死あったんだって」
 「私、孤立死の記事ばっかりスクラップしてみたよ。結構あってびっくりした」
 「へえー、静岡はどうなのかな」
 学習集団全体で同一のコラムを扱うことで、家庭や地域へのつながりや関心が広がるだけでなく、学習の方向性に広がりが見られた。また、単純なことではあるが、書き上がった視写を級友と見比べることで原稿用紙の使い方の間違いに自然に気づいたり、感想を述べあうことで、お互いの感じ方の違いを知ったりする材料にもなる。
 コラムだけでなく、記事、投書欄から広告まで、新聞は幅広く使える生きた教材。これからも活用方法を考えていきたい。

(大村友乃/静岡籠上中)

県内アドバイザー講座
"絶滅"と環境保護考える

2012年09月02日(日)付 朝刊


 小中学校の理科の授業や、高校の生物の授業で、生物多様性や生態系に関する学習があります。このとき、自然環境保全の大切さを理解させる必要があります。
 自然界では、多様な生物がつり合いを保って生活しています。しかし、人間活動の影響で生態系のバランスが崩れ、絶滅に追い込まれる生物種もあります。その現実を直視し、生物絶滅に至る原因を知り、絶滅させない方策を児童生徒に考えさせたいと思います。一つの種が絶滅してしまうということは大気や水が汚染されるなど、自然環境が悪化していることを意味します。多様な生物が生息している自然環境は、人間にとっても健康を保つ上で良い条件なのです。
 ここに4枚の絶滅種・絶滅のおそれのある種に関する新聞記事があります。これらを授業で提示して生物絶滅について児童生徒とともに考えてみましょう。
 今年8月28日、ニホンカワウソが絶滅種に指定されました(記事①)。記事から絶滅の原因を読み取ります。「毛皮目的の乱獲と河川の汚染により激減した」とあります。
 なぜ、乱獲してしまったのか、河川の汚染の原因は何かを、児童生徒に考えさせます。乱獲の原因は、経済的利益を優先して、資源保護に十分配慮が行き届かなかったであろうことが考えられます。河川の汚染の原因に、生活排水があることを、水質浄化の仕組みなどもあわせて説明します。人口が増え、これに伴って浄化設備がすぐには整わず、河川に汚れた生活排水が流れたことにより、エサの魚やエビが減り、不衛生にもなり、生きにくくなったと考えられます。ニホンカワウソを絶滅させないためにどうすれば良かったのかを問いかけます。
 次に、記事②-④を提示します。いずれも静岡県内に生息している絶滅が危惧されている生物、コアジサシ・アカウミガメ(遠州灘海岸)、ベッコウトンボ(桶ケ谷沼)についての記事です。これらはニホンカワウソと同様、水辺に生息している生物です。「保護活動が行われています。保護のため私たちが実施できることはありますか?」と、児童生徒に聞いてみます。ごく身近な地域の場合、実際に保護活動に参加できる、という子どもたちもいるでしょう。身近な地域でなくとも、児童生徒の家庭から排出される生活排水が、これらの生物たちの生息環境に悪影響を与えている可能性もあります。大量の生活排水が排出されると、十分浄化されずに河川へ、河川から海へと流れていきます。汚れた水をたくさん出さないで、各自が水をきれいにするように心がけることも、今後、この生物たちがニホンカワウソと同じ運命をたどらないよう、保護することにつながるのだと教えてあげるとよいでしょう。
 静岡県内では、絶滅のおそれのある生物の観察会が新聞に広報されることがあります。参加可能であれば、安全に気をつけて、生物保護に十分配慮し、直接観察すると一層理解が深まります。

(吉川契子/静岡中央高)

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 (「アドバイザー講座」は隔週掲載します。)