一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内アドバイザー講座
ノーベル賞、記事から学ぶ

2012年10月27日(土)付 朝刊


 iPS細胞を開発した京都大学の山中伸弥教授が、ノーベル医学生理学賞を受賞することが決まりました。このニュースは、新聞各紙の10月9日朝刊一面トップを飾り、その日及びそれ以降、各種の関連記事が掲載されました。
 高校「生物基礎」の単元「遺伝子とその働き」の発展学習として、iPS細胞研究を取り上げたいものです。今回のノーベル賞を伝える一連の新聞記事を用いて、急速に進展する生命科学研究の成果に関心を持たせたいと思います。
 10月9日の朝刊などの記事とワークシートを用意して、研究について質問し、答えを記事から捜してシートに記入するよう指示します。
 最初に「iPS細胞とはどのような細胞だろうか」と問います。記事①によれば、正式には人工多能性幹細胞(inducedPluripotentStemcell)といい、「皮膚などの体細胞に遺伝子を組み込み、さまざまな細胞になる能力と、ほぼ無限に増殖できる能力を持たせた細胞」とあり、記事②には「分化した細胞を、受精卵のような何にでもなる状態に初期化」した、とあります。生徒の学習状況に応じて、適宜補足説明するとよいでしょう。
 次に、iPS細胞の活用が期待されている分野について問います。記事②③から、iPS細胞研究は、再生医療や病気の仕組みの解明、薬の効果を調べる実験など、幅広い分野で役立つ可能性があることを読み取らせます。
 山中教授の研究の道のりや人柄にも目を向けます。山中教授は、挫折してもあきらめず、病気を治すことに役立ちたいという志を持ち続けて、iPS細胞づくりを成功させました(記事③)。受賞会見では、国や研究仲間や家族など、周囲への感謝の言葉を繰り返しています。記事を読んだ生徒が、自分の目標に向かってあきらめずに努力し、周囲への感謝を忘れないようにしたいと考えることを期待して記事を読ませます。
 iPS細胞を実際の治療に結びつける上では、医療に使ってもよい水準の安全な細胞を作る方法その他の課題があります(記事②)。生徒の中には、今後、生命科学研究を志す者もあるかもしれません。iPS細胞研究の今後と、社会との関わりについて考えさせてみるとよいでしょう。
 新聞記事は、高校生でも理解できる言葉を使っており、短時間で要点が把握できるように、編集が工夫されています。テレビと異なり、線を引いたりする手作業を行い、じっくり読んで、考えることができます。今回のノーベル賞のように、授業と関連がある大きなニュースがあるときは新聞を活用したいものです。

(吉川契子/静岡中央高)

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 ノーベル賞を報じた新聞

投稿でもの言える人に

2012年10月21日(日)付 朝刊


 「人間が生きて行くためには世界観と処世訓が必要だ」、日経コラム春秋で井上ひさし氏の言葉を知った。NIE取り組みの目的はこの言葉に尽きると思う。

 私の継続的な取り組みは、静岡新聞「ひろば(投稿欄)」への投稿を奨励していることだ。静岡新聞を選ぶ理由は、「10代」のコーナーがある、字数400字、謝礼の図書カードで書く意欲を喚起できる、掲載されると隣人・知人から声を掛けてもらえる、等々が教育的だと考えるからである。

 国語の授業を通して投稿に至るまでの過程を紹介する。書かせるタイミングは、教材を終えた後、テスト返却後、自習時間、学校内外で大きな出来事があった後などだ。設定時間は20分間。作文用紙はA4判リポート用紙、罫線の高さは9ミリ。文字数は目標20行・最低15行。制限時間で回収。時間で書き終われない生徒はその日のうちに提出するように指示。未提出者には注意と減点を言い渡す。15分間、筆記具の音だけの集団になったらしめたものだ。集団の力が個人を後押しして、書けない生徒はほとんどいなくなる。この中から、面白いと思う文章を投稿要項に合うように清書させて投稿させている。選ばれた生徒は勇んで清書してくる者が多い。以上が、今の私の取り組みである。

 学習指導要領で言われ続けてきた「言語活動」が活発にならないのは、臆病な精神が原因だと考える。何かを言うと必ず反論が起こる。反論に耐える忍耐力。反論に再反論する勇気。反論を受け入れてより高次の意見に高める寛大さ。これらの覚悟を持たせることを「言語活動」の出発点としたい。

 投稿することで「もの言える人」「もの聴ける人」への変容を目指せるのではないか。「あなたにとって働くとはどういうことですか?」「原発の再稼働をどう考えますか?」の質問に、「分かりません」という高校生では情けない。日本の民主主義を育てる意味でも大事なことだと考えて取り組んでいる。

(小杉幸一/遠江総合高)

県内アドバイザー講座
「キャリア教育」との連携

2012年10月14日(日)付 朝刊


 NIEを活用する上で、最も有効な方法の一つとしてキャリア教育との連携が挙げられる。企業でインターンシップを行い、勤労観や職業観を養う目的のものだが、このような教科書が存在しない学習にこそ新聞は威力を発揮するのだ。
 キャリア教育を実施する際、有力な指針となるものが、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」=図=である。その情報によると、企業が人材を採用する上で最も重視するのは、知識量や理解力ではない。チームで作業ができるコミュニケーションアビリティーやストレス耐性力、さらに自分で考え行動する能力だという。
 このような力を育成するため、学校現場ではさまざまな工夫を凝らすのだが、新聞を利用し、なおかつグループ学習を取り入れると効果的である。グループ学習のコツは前回に記述したが、今回は事前・事後のリポート作成をグループで行い、新聞形式で作成・発表することをオススメしたい。何よりも新聞スタイルの実用的な面はその一覧性にある。筆者の体験からも言えることだが、授業参観などで学校を訪れた保護者は必ず、掲示物を読む。しかし、ひしめき合っている教室の後ろや廊下からは、細かなリポートに目を通すことはできない。ところが模造紙に新聞形態で発表されていると、非常に見やすいのだ。これは、いかに有意な情報でも享受されなければ価値がない一例と言える。
 リポート作成をグループで行うと、チームで働く力・目標に向けて協力する姿勢を養うことに役立つ。編集の際に自分の意見を述べる発信力、他人の意見を受入れる傾聴力、自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する情況把握力が育成されるだろう。図にあるような、社会で働く上では最も重視される能力の修養が全て含まれていると言っても過言ではない。昨今、共同作業を苦手とする生徒が増えているが、意思疎通の能力とストレスコントロール力を獲得せねばならない意味を認識させ、自己改革を促す必要がある。
 キャリア教育のカリキュラム作成、及び実施には次の省庁のホームページが参考になるだろう。

 ★文部科学省が推進する「学校教育におけるキャリア教育」
 ★厚生労働省のプロジェクトで「学校教育領域におけるキャリア形成支援」

 どちらも経済産業省とタイアップしての企画なので、NIEと組み合わせ、効果的活用してみてはいかがだろうか。
 実際のところ、教科教育ではカリキュラムがぎっしり詰まっており、授業内にNIEを追加する余裕がないのが現状であろう。しかし実社会で求められている能力が、関心・意欲・態度・話す・聞くという人間関係構築分野にまとまっていることはもはや明白である。学校では子どもたちに思考・発信の元になる知識・理解、読む、書くという教科の基本をしっかりと指導し、その基本にのっとった上で社会人基礎力などが要求する力を身に付けていくべきである。

(実石克巳/静岡市立高)

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地震を調べ、新聞に興味

2012年10月07日(日)付 朝刊


 昭和61年11月21日。教員になって3年目のこと。勤めていた東伊豆町の小学校の体育館でバレーボールをしていた。ドーンという音と大きな揺れに体育館から飛び出すと、大きな噴煙が空に向かって昇っていった。伊豆大島三原山の噴火だった。その夜は高台にある自宅から、赤々と燃える炎がよく見えた。その光景は今でも目に焼き付いている。そのころ伊東沖を震源地とする地震が何度もあった。
 まだ伊東の群発地震が続いている時に、「大陸は動く」という国語の教材に出合った。地震や噴火を題材にして教科書と関連させて学習を進めたいと考えた。子どもたちは、役場に写真を借りにいったり、地震防災センターのパンフレットを取り寄せたり、網代の測候所に電話で聞いたりと主体的に学習を進めていった。
 その学習の一番のよりどころになったのが、新聞記事だった。子どもたちは、図書館に行って、記事を探し、集めてきた。難しい言葉もあったが、親や教師に聞き、内容をつかんでいった。自分が住んでいる地域に関係のあるということが意欲を持たせたのだろう。
 この子たちの新聞への興味は広がり、毎日コラムを視写したり、記事を読んだりするようになった。そんな折、「親子の話題が増えたんですよ」と保護者の一人が声を掛けてきた。新聞を仲立ちに共通の話題ができたのだという。
 新聞の良さのひとつは、道草を食えることである。インターネットは、ピンポイントに調べていくが、新聞は、さまざまな記事が目に入ってくる。そのことが、子どもたちの話題を広げるのに大きな役割を果たしたのだろう。
 学級担任を離れて8年目になった。あのころに比べると、子どもたちが新聞を読まなくなったように感じる。世の中のことを深く考えようとしていたあの子どもたちを思い出し、もう一度新聞を使って子どもたちの心に火を付けるような実践をいつかしてみたいと思っている。

(芦川幹弘/富士宮富士根南小教頭)

県内アドバイザー講座
投稿で文章力を磨く練習

2012年09月30日(日)付 朝刊


 ■柔軟な発想で
 最近、新聞に投稿する若者が増えています。「読者の投稿コーナー」は小学生や中学生、高校生でも投稿可能です。10代の若者の投稿枠を設けている新聞も多くあります。
 文字数は400字程度です。短い文章ですので、自分の伝えたいことを簡潔にまとめ、推敲[すいこう]していく過程が文章力を磨くよい練習になります。
 また、投稿した自分の意見に対して、新聞紙面上で反響があったり、返事がきたりして、意見交流ができることもあります。もちろん、投稿が掲載されれば、多くの人から認められ、自己肯定感が高まりますし、図書カードなどの謝礼も魅力があります。
 投稿された子どもたちの意見には、大人が無理だと決めつけていることが恥ずかしく思えるような、柔軟で新しい発想があります。この点は大いに認めていきたいと思います。

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 ■テーマ決める
 投稿のテーマを、各教科のねらいに即したテーマに設定すれば、授業での学習内容を深めたり、振り返ったりすることもできます。社会の様子や身近な出来事、学校生活で感じたことなどをテーマにすれば、総合的な学習や道徳、学級活動などでも実践可能です。
 子どもたちに新聞を読ませ、関心をもった記事からテーマを設定して書かせることもお勧めです。その際、記事の感想だけでなく、自分からの提案・提言にまで踏み込んで書くよう指導します。そうすると、社会への関心や新聞への関心がより一層高まります。

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 ■コラム参考に
 投稿文を書くための学習には、新聞のコラムや4コマ漫画が参考になります。コラムは音読したり、書き写したり、段落の構成や文章の構成を考えさせたりして利用できます。また、4コマ漫画は、吹き出しに言葉を入れたり、簡単な物語文に直させたりします。こうして、読み手を引きつける起承転結を意識した文章構成や伝わりやすい文章構成などの工夫を学ぶことができます。

(矢沢和宏/島田川根中校長)

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