一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内教諭の実践
=日本語の習得にも活用

2013年03月24日(日)付 朝刊


 学校教育におけるNIEは、期待される次世代の社会人を育成するために大きな役割を担っている。留学生のための日本語教育においても、新聞は良き教材として利用されてきた。言うならばNIEは、日本語教育においても、すでに実践されてきているとも言える。当、日本語学校の大半は、アジアからの留学生で、大学、大学院、あるいは専門学校に進み、各自の来日の目的を果たすべく努力を重ねている。日本語の新聞を読みこなすには、年2回実施される日本語能力試験N1程度の日本語力(高校3年相当)が必要である。今は、インターネット上の母語で、いち早くニュIスを検索できる時代である。また留学生が日本の新聞をとる、ということは無い。そんな彼らではあるが、異国の地にあって、母国の記事を目にすれば、日本語のレベルなど関係なく、吸い込まれるように紙面に目を走らせる。そんな留学生の姿を、私は何回も見てきた。「読みたい」というニーズは、日本語学習の原動力である。
 当校では上級になると、新聞の中から興味のある記事を学生自身が選び、内容を要約し、発表のためのハンドアウトを作る。今年度は、従来の方法にプラスして、自分の意見をまとめることを課した。第二、あるいは第三言語として日本語を習得中の彼らにとって、かなりの負担になるはずである。しかし、パソコンに打ち込まれた文章「私の意見」には、母国の関係する国際情勢や、日本のトンネル崩落事故のニュースなどについて、留学生ならではの鋭い意見を見ることができた。しかしながら、全部の学生がそれだけの日本語力を有しているわけではない。大きな事件があった時、写真を見せ、習得範囲の日本語で会話の授業に発展させることもできる。
 日本語教師である私は、これからも新聞をタイムリーに上手に使って、より楽しく、効果的な日本語教育を行いたいと考えている。7月に開催されるNIE全国大会静岡大会は、日本語教育の立場からも興味深いものがある。
(高橋光子/国際ことば学院日本語学校講師)

県内アドバイザー講座
=生徒に会わせたい人探す

2013年03月17日(日)付 朝刊


 私が勤務する川根中学校では、さまざまな人と出会い、「自分の可能性を最大限に生かす積極的な生き方」を学ぶ機会を数多くつくっています。「人から直接生き方を学ぶ」ことは最も効果的な学びの一つです。

 ■人の紹介記事を活用
 その出会いをつくるために、新聞の「人物紹介」の情報は大いに役立っています。新聞には、「自分の可能性に挑戦する、前向きで、すてきな生き方」を紹介するタイムリーな記事やコラムがたくさん載っています。記事は生き方を学ぶ良い資料ですが、子どもたちに記事の人物と直接出会わせれば、一層効果的です。
 この出会いで、子どもたちは驚き、感動しながら、自分を見つめ、「自分らしい積極的な生き方」をじっくりと考えます。この学びは、小学校から高校の全学年、総合的な学習や道徳、特別活動などで可能です。

 ■記事を基に人物探し
 まずは、子どもたちの実態を整理し、育てたい力(ねらい)を絞ります。そして、関連しそうな人物が新聞に紹介されていれば、新聞以外の情報も収集し、適切な人物か判断します。適切ならば、その人物に学校の教育活動への協力を依頼します。私の経験では、ほとんどの方が喜んで学校に協力してくださいます。

 ■出会わせ方の工夫
 人物と子どもたちとの出会わせ方には工夫が必要です。一方的に話してもらうのでなく、「実技の披露」や「座談会形式」、「インタビュー形式」、「ワークショップ形式」、「体験活動」を組み合わせるなど、ねらいに合わせて考えます。

 ■具体的な実践の例
 川根中の例を紹介します。
 【記事①】は、地域活性化に取り組むタウンマネージャーの児玉絵美さんを紹介したコラム『この人』です。川根中の総合的な学習のテーマは、「地域を見つめ、地域活性化の提言をする」ことです。その発表会に講師として児玉さんを招き、子どもたちの発表の価値づけや新たな視点での地域活性化についての講話をお願いしています。
 【記事②】は、神楽に関心を持つシェリー・クラークさんの紹介です。川根中では、「笹間神楽の伝承活動」を行っています。シェリーさんには、伝統文化の大切さや笹間に暮らす理由について語ってもらいます。
 【記事③】は、日曜日に連載されている「しずおかさん家」です。この作者で、家族や静岡の風土・文化をほのぼのと描く漫画家の広田奈都美さんには、生徒を応援する漫画を描いてもらっています。それを掲示物やホームページに活用し、子どもたちの活動を価値づけ、応援しています。「川根茶」の大ファンでもある広田さんが学校へ来てくださる時には、四コマ漫画を利用した起承転結の文章の書き方や職業を通した生き方を学びます。
 ほかにも、小学時代から静岡市路上喫煙防止条例の制定に努力した大石悠太さんの記事を見て、実際に大石さんを社会科の授業に招き、政治参加の在り方や生き方を学ぼうと計画しています。
 このように、「子どもたちに出会わせたい人物を見つける」という視点での新聞活用をおすすめします。
(矢沢和宏/島田川根中校長)

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県内教諭の実践
=関心高める「風」を送る

2013年03月10日(日)付 朝刊


 本校は島田市にある小さな学校です。「人は本来自由である」ことを大切にし、校則やルールなど外からの規制ではなく、自分自身で考え判断し行動する力を持つことができるように、また一人ひとりの個性が大事にされ互いの在り方が尊重される場所を目指し、日々試行錯誤しながらさまざまなことを試みています。数年前からの新聞を使った取り組みもその一つです。
 「自由」を共有するためには、ある程度の常識や考え方が下支えとして必要になります。特に本校は不登校の経験やさまざまな事情を背景に抱えて入学する生徒も多く、自分の外の世界がどのようになっているのかを知らない者も少なくありません。そこでHRや授業で新聞記事を紹介したり掲示するなど、各職員で工夫をして多種多様な「風」を送り、社会に関心が持てるようにしています。また近年は70%以上の生徒が大学進学を果たしていることから「読む・書く・伝える」という基礎的な力をいかにつけるかが課題となっており、進路選択を控える3年生を中心に、社説を読み、専門的な用語を調べたり内容をひとことでまとめる学習も始めています。
 まだ各HRや授業でできるところから始めている状態のため、3年間通しての体系的な実践まで深められていないことが現状です。さらに学びの場から遠ざかっていた生徒も多く、習熟度の違いもあり、私自身は当初時事問題を取り上げる事に対して「ハードルが高いのではないか」と不安を抱えていました。しかし実際に社会科の授業で記事の読み比べをし意見を聞いていくと、「もう一度学びたい」と入学してきた生徒たちの意欲、興味関心の高さ、可能性の大きさを制限していたのは教員側だったことに気付かされました。もしかしたら生徒たちの自由を不自由にさせているのは大人側なのかもしれません。
 まず大人が新聞を開く楽しさを知り、新聞だからこそ得られる学びを共有できるように、今後も新たな出会いに期待し新聞と向き合う日々です。
(川路智世/島田実業高等専修学校)

県内アドバイザー講座
=低学年から身に付く学習

2013年03月03日(日)付 朝刊


 小学校の低学年では、一般紙の新聞記事そのものを使うことは少ないものの、NIEのノウハウがさまざまな形で生かされています。次の表は、低学年の教科書から、NIEにかかわる内容を抜き出したものです。どんな学習が行われるのか、概要を説明します。

 【大事なことを落とさずに:5W1H】
 国語の学習で、「大事なことを落とさず」に話したり、聞いたり、書いたりする学習をします。この力は、国語だけでなく、全ての教科・領域で役立つとても大切なものです。では、大事なことを落とさないためにどんなことに注意すればいいのでしょうか。その手がかりになるのが、5W1Hです。
 新聞記事は、「正確に、分かりやすく、大切なことをきちんと伝える」ために、5W1H「いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」の要素を落とさず記述します。この6点を落とさずに話したり、聞いたり、書いたりすれば、大事なことを落とさずにすむというわけです。
 5W1Hは、小学校だけでなく、中学、高校、大学、さらには社会に出てからも重要になります。そんな重要なものを小学校の低学年のうちに身に付けることができるのは、素晴らしいと思いませんか。

 【調べ方を学ぶ:取材の仕方】
 観察や見学、インタビューの仕方などの調べ方を学ぶのは、新聞記者の取材方法から学ぶことができます。1年生のある国語の教科書では、大事なことをメモするために、「いつ」「どこで」「何が」「どうしたのか」を書くようにと指摘しています。また、ある生活科の教科書では、質問したいことを事前に考えておく大切さを掲げています。
 これらは、新聞記者が取材前に下調べをし、読者により分かりやすい記事を書くために価値ある情報を得ようと取材する手法と本質的に同じです。調べ学習を行う際、「新聞記者になったつもりで調べてきてね」と呼びかければ、子どもたちの意欲もきっと増すと思います。

 【絵や写真から学ぶ:写真】
 ある国語の教科書では、「絵を見て、どんなところかをそうぞうし、お話を作りましょう」と呼びかけています。この学習を発展させ、一般紙の紙面から気に入った写真を選ばせることをお勧めします。紙面は読めなくても、小学校の低学年の子が興味を引く写真が見つかれば、この学習は成立します。新聞の写真は、記事で最も伝えたいことを映像化しているので、記事の中身を知る手がかりとすることもできます。

 【新聞作り】
 多くの人に読まれることを第一に考えましょう。事実と意見を区別し、一番言いたいことが一目で分かるように書くことが大切です。新聞作りは、情報を収集し、整理・発信する方法を学ぶことができます。

(山崎章成/浜松曳馬小)
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