一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内教師の実践
=広く浅くできることから

2013年07月28日(日)付 朝刊


 NIEの実践校として、わたしが取り組んだのは、10年以上前、県内唯一の島の学校、熱海市立初島小・中学校でのことでした。研修主任として、また5・6年複式学級4人の担任として、子どもたちといろいろなアプローチをしました。学校教育目標と結び付けて目標を設定した上で、次のような実践に取り組みました。

 ▽5W1Hを意識して話したり聞いたりする。
 ▽新聞のスクラップを行う。
 ▽朝の会や帰りの会で気になった新聞記事についてスピーチする。
 ▽フリーソフトを使ってパソコンで本物さながらの新聞をつくる。
 ▽新聞の表現方法や写真の撮り方などについて、プロの新聞記者に来ていただき話を聞く。
 ▽子どもたちがNIEについての学習成果を全校児童生徒の前で発表したり、学校のホームページに載せたりする。
 ▽新聞記事を教科や道徳に生かして授業を工夫する。

 どれも今は当たり前に実践校では行われており、実践も進化していることと思いますが、当時は試行錯誤しながら、取り組みました。
 全国の研修会等に出させていただいたときは、NIEについて非常に研修を深められている先生が多く、刺激を受けると同時にここまではなかなかできないと感じたことも覚えています。
 私は、1年間しか実践校で取り組むことができませんでしたが、考え方としてずっと意識してきたことがあります。それは「情報の送り手として受け手を意識して表現すること」「情報の受け手として送り手の意図を考えること」です。同じ事実でも発行者の立場によって全く違う記事になることは、よく実践でも取り上げられます。
 多くの学校がNIEについて理解する機会は決して多くないと思います。広く浅くというスタンスでNIEを捉え、できることから実践が広がっていくとよいのではと考えます。

(本間靖人/熱海多賀小教頭)

県内アドバイザー講座
=新聞で毎日速読訓練を

2013年07月21日(日)付 朝刊


 さて、前回は「センターテスト対策新聞」作成に向かって、生徒が筆者を取材し始める模様をお伝えした。今回はその続きである。
 「先生、現代文って何をどう勉強していいか、全然分からないんですけど」
 「よし、それでは基本から説明しよう。まず、評論も小説も、その問題文の字数は約4千字もあるのだぞヨ!」
 「ええっ! 原稿用紙に直すと、10枚もある」と、驚いている。
 「そう、実に長い。時間配分を考えると25分で読み、考え、解答しなければならない。だからとにかく、速く正確に内容を把握する読み、つまり、【速読】に慣れておかなければならんのである」
 「速読ったって、そんなの、どうすりゃできるようになりますかね?」
 「それには毎日、新聞を読む訓練が最も効果的だ。記事を読んだら、新聞とは違う見出しを考え、実際に書き出してみることだ」
 「見出し、ですか?」
 「そう、見出しを考えることで内容把握の力がつく。言い換えれば文章のポイントを探し出し、表現言い換えの練習になるのさ」
 「ウ~ン、なんとなく納得できるような気がします」
 「なんとなく、ではない。明日からやるのだ。で、小説問題だけどね」
 「先生、何だかんだ言いながら、実は語りたいんじゃないんですか」
 「やかましい。それが教員ちゅうもんじゃ」
 「ハイハイ、分かりました。で、その小説問題なんですが、よくある登場人物の心の中なんか、説明するの不可能じゃないですか、他人なんだし」とうそぶく。
 「だから、君は得点できんのだ。小説は【意味読】、すなわち分析的に読むことを心掛けねばならぬ」
 すると、どうも不審げに、たまに結構興味深い内容のものもあるのですけど、などとつぶやいている。そこで、筆者はいつもの物語を読むスタイルで感情移入して読むと、ミスを誘導するワナにはまってしまう。問題は、そういう風に作られているものなのだと説明を続けた。
 「センター試験には、答えを導き出す確実な確証が問題文の中に必ず存在するのだ。勝負は、いかに短時間でそれを本文から発見できるかだと心得よ」と、諭してやると、やっと得心いったのかウンウンとうなずきながら聞いている。
 「次の評論問題はだなぁ、【簡読】が大切だ」
 「ハァ、簡読って何ですか? 先生、気分良く言葉作ってないですか」
 「わかっちゃった? ま、要するにだ、簡単に言うと、問題になっている部分を主語・述語・目的語の関係に整理する。つまり簡潔化し、それぞれのパーツごとに正否を確認し易くする作業をせよ」
 「フムフム」
 「また、先に設問をチェックして全体を把握し、本文を読みながら逆接と断定表現には印をつけていくこと。さらに何回も繰り返し出てくるキーワードは○で囲っておこう」
 「なんか、現代文ってのも意外にやることたくさんあるんですね」
 「オオ、君の口からそのような言葉が聞けるとは。私のアドバイス力も大したもんだな」
 「先生、なんか1回ずつ自画自賛が入りますね」
 「当たり前だ。君が褒めないんだ。自分で自分を褒めるしかないだろうが」
 「古典もお願いします」
 「おい、今スルーしたろ。まあいい。単語は現代と古文とで意味の異なるもの、複数の意味を持ち文脈に応じて使い分けるものを覚えよう。文法と和歌の修辞法、敬語の習得は必須条件だよ。古典の基礎的知識を仕入れるためには、名作を漫画化したシリーズ物がある。漫画しか読まない君にはうってつけだろう」
 いやあ、それほどでも、とナント照れているではないか。「漢文ではな、再読文字は全部覚えておけ。否定・受身・使役は頻繁に出題されるので詳細な復習が必要だ。頑張れよ。そしてこれをちゃんとした新聞形式で発表して、皆に役立ててくれよ」と話を終えた。
 「任せてください、先生。いい新聞になりますよ、多分ネ!」。なに、ちょっと待て、多分じゃマズイだろ、と追いかけたが、すでに彼の姿は昼休みの喧騒[けんそう]の中に消えていた。
(実石克巳/静岡市立高)

県内教諭の実践
=社会の授業理解に一役

2013年07月14日(日)付 朝刊


 本校は素直な生徒が多くいます。昨年は1年生、今年は2、3年生の社会科を担当しています。昨年1年間の授業のまとめを生徒に文章で表現してもらいました。最初の頃は社会科に対する苦手意識を持っている生徒が8~9割いましたが、その意識に変化が現れていました。そのきっかけの一つとして新聞活用の授業があります。
 例えば「地理では静岡県や日本だけでなく世界の国々について学び今までより視野が広がりました。ニュースを見るだけで、その国の様子を知っているためおもしろかったです。一番変わったことは、前よりも新聞を読むようになったことです。授業で新聞を取り扱ったのがきっかけで確実に新聞に目を通す機会が多くなりました」や「社会の授業で地理と歴史を習って小学校より覚える内容が多くてたいへんでした。でも、新聞を作るのはすごく楽しく、内容をよく理解することができました」などです。新聞を活用することは、授業の内容に興味を持つことができる、自ら進んで新しいことに関心を持ち視野を広げることができる、得た知識を活用して表現することができるなど、これからの社会科授業の目的に合っています。
 実践指定校として、10年前の湖西中学校での活動から、その後も白須賀中、鷲津中でも必要に応じて新聞を活用してきました。1980年代後半から90年代前半の世界的に大きな出来事があり、将来、教員か新聞記者になって新聞記事で伝えたいと思っていました。現在は、教員という立場で伝えることができています。
 教員として初任地である引佐南部中から新聞活用を行う授業研究に力を入れ、現在まで継続して活動させていただけることに感謝しています。新聞記事を通して生徒や教職員、新聞社の方々など新しい出会いがあるのがNIEの取り組みの一番の楽しさではないかと思います。
 本校は素直な生徒が多くいます。昨年は1年生、今年は2、3年生の社会科を担当しています。昨年1年間の授業のまとめを生徒に文章で表現してもらいました。
(浮海伸行/湖西新居中)

県内アドバイザー講座
=テーマ決め「変化」を実感

2013年07月07日(日)付 朝刊


 「金沢でクマ中学校侵入」「福島でクマ襲撃、4人重軽傷」「長野で駅ホームにクマ」など、最近はクマ目撃の記事が数多く見られます。北海道や長野県などでは、3月から5月の目撃情報が膨大な数に上ります。
 数は少ないものの、静岡県での記事もあります(記事①)。ところが、静岡県と他県では、クマ目撃の時期が違っているのです。静岡県では、3月の初めから目撃情報があるのに対して、他県では、5月に入ってからが多いのです。静岡県は温暖という気候の違いが関係するのでしょうか。

 ■野生動物と環境
 クマの他にも、「特急にシカが衝突」など、野生動物が人里に出てきたという新聞記事は多くあります。季節的には、秋から冬にかけて多いようですが、集めた記事の一部を表にしてみました(表)。
 人里に出てきた野生動物に関係する記事を少し長い期間で集めてみると、一つの「環境問題」が見えてきます。野生動物と人とのかかわりです。道路で事故に遭った小動物を見かけることがあります。野生動物が自分たちの住みかから出てくることが多くなり、人間の住みかとの境界がなくなってきたように思います。
 野生動物が人里に出てくる理由はいろいろ考えられます。後継者がいない山間地の農地が荒れて動物の居場所ができたり、開発で山にある自然の食べ物がなくなり、食べ物を探して動物が降りてきたりしているのかもしれません。新聞記事を集めながら、その理由について話し合ったり、調べたりして、身近な問題として実感し、理解を深めるのもおもしろいと思います。

 ■継続して読む
 野生動物以外にも、地球温暖化や大気汚染、水資源、絶滅危惧種の問題など、「環境問題」については、少し長い期間、記事を集めるとさらに理解が深まります。
 この他、選挙の投票率、富士山世界遺産登録、オリンピック開催地誘致、サッカーワールドカップへの道、景気動向、円相場なども、継続して記事を読むと変化や過程がよくわかります。新聞の訃報欄を集めたら、亡くなる方の年齢や性別、地域性などが見えてきたという実践もあります。
 短期間の記事集めの例でおもしろいのは天気予報・気象情報などです。天気図を集め並べてみると天気変化が見えてきます。さらに、「パラパラ漫画」のようにすれば、台風の動きなども手に取るようにわかります(記事②)。

 ■特徴生かし活用
 このように、「テーマを決め、特定分野の新聞記事を継続して集める」ことにより、できごとの特色や変化をつかむことができます。切り抜くなどの加工がしやすく、保存もしやすいという新聞の特徴を生かした活用の工夫です。
 子どもたちには、積み上げのある記事集めを投げかけ、「身の回りの変化」を実感させたいと思います。
(矢沢和宏/島田川根中校長)

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県内教諭の実践
=コラムから多様性学ぶ

2013年06月30日(日)付 朝刊


 私が、NIEに興味を持ち、新聞を授業に活用するようになったのは、以前赴任した学校が、NIEの指定校であったからです。
 私は、日々の授業で実践していることがあります。それは、全国紙、地方紙を問わず毎日掲載される各紙のコラムから話題性があり、社会問題として中学生が考察できる内容のものを選び、視写(コラムの書き写し)や読みを行っていることです。コラムは、筆者の主観的な考えが書かれたものですが、そこから子どもたちは、多様な考えや価値観を学ぶことができるようになります。
 夏休みや冬休みの課題として、新聞スクラップノートの作成を行っています。興味のある記事を切り抜き、ノートに貼り付け、要旨と感想をまとめるものです。あまり制約を設けずに取り組ませています。昨夏は、ロンドンオリンピックに関する記事が圧倒的に多く見られました。
 しかし、中にはテーマを決め、それに関する記事を探し追究する子どもたちもいました。興味や関心のある記事を探すためには、新聞を隅から隅まで見ていく必要があります。新聞スクラップノートの課題を通して子どもたちは、新聞に慣れ親しむことができるようになりました。
 授業では、単元のまとめとして学習内容を新聞形式にまとめる取り組みを行っています。新聞の基本的レイアウトを指導し、新聞形式のフォーマットシートに内容を書き込ませていきます。新聞を編集するためにはさまざまな学力が必要となります。多くの情報から必要なものを選択し、分かりやすく表現していくことは難しいことです。しかし、子どもたちは予想以上に、豊かな表現で新聞を作成することができるようになっています。
 先日、本校では、修学旅行や自然教室が終わりました。どの学年も事後学習として、その取り組みを新聞にまとめています。学校にNIEは、着実に浸透してきているようです。
(久保秀年/裾野東中)