一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内教諭の実践
=自治体の防災対策理解

2013年08月25日(日)付 朝刊


 東日本大震災後、生徒たちの防災の意識は高まりました。地震が起きてからの避難経路やどんな対応が望ましいのかしっかりと頭に叩き込まれています。
 しかし、生徒たちは、個人で命を守ることには、限界を感じています。また、自治体は私たちのことを考えているのか否か? など不安を抱いています。そのため、今回のように新聞を使った授業展開を思いつきました。
 使用したのは、平成25年6月28日付静岡新聞朝刊1面掲載の県第4次地震被害想定と市町村ごとの予想被害状況です。生徒が住んでいる吉田町は、最悪約5千人が亡くなると掲載されています。吉田町の人口は約3万人です。この計算でいくと、最悪6人に1人は命を落とすとされています。生徒たちは、ショックを隠しきれなかったようです。「6人家族の中で1人が死んじゃうなんて嫌だよ」。「家が海の近くだと、もっと被害が大きくなるんじゃないかな」。それぞれ不安の声を上げていました。
 生徒たちは、「地震が起きることは仕方がない」。「それに、沿岸部に住んでいる以上、津波の被害は避けられない」。「だが、もっと被害を減らせる、もっと助かる方法がある」と、それぞれ考えを口にしていました。
 そこで、平成24年9月28日付静岡新聞朝刊の新聞記事を提示しました。「吉田町に津波避難タワーを設置する」記事です。
 先に述べた予想被害想定は、津波避難タワーの設置がない数字であることと、自治体は死亡者数0を目指していることも伝え、今回の授業は終了しました。
 新聞を使った授業で吉田町の防災意識と対策が理解できたと思います。そして、安心してもらえたように思います。さらに、新聞記事から学んだことを家に帰って話題にし、取り組みを理解してもらいたいと思います。災害が起きても建設中の津波避難タワーの存在を頭に置き、多くの人々の命が助かることを強く願っています。
(三宅めぐみ/吉田中)

県内アドバイザー講座
=発達に応じ反復学習を

2013年08月18日(日)付 朝刊


 小学校5年の国語科では、低中学年で新聞の機能について学習したことをもとに、実際に家庭で読んでいる新聞紙を使ったさまざまなな学習をします。5年生までに、NIEの三つの要素①新聞の機能学習②新聞記事の活用③新聞作りの全てを学習することになるのです。

 【新聞の読み方を考えよう】
 新聞記事は、「いつ」「どこで」「だれが」「何を」「なぜ」「どのように」したかを伝える報道文です。新聞は、質の高い情報を読者に伝えようとするために、読み手の気持ちを考えた見出しや写真、図表などが使われていることを学習します。ある教科書では、同じ出来事でも、一般紙とスポーツ紙、地方紙と全国紙では書き表し方がが違うことを紹介しています。

 【新聞記事を読み比べよう】
 新聞記事は、同じ事実を伝える記事でも書き手のねらいによって書き表し方が異なることがあります。見出しやリード文を比べたり、写真が伝えたいことは何かを考えたりすることを通して、書き手の意図を読み解く大切さを学習します。
20130818図.jpg
 【新聞を作ろう】
 小学校に限らず、中学、高校、大学でも新聞作りは何度も行われます。それにもかかわらず、新聞と他の作文、日記、報告文などと表現方法が大きく違うことを時間をかけて学ぶ機会はないのが現状です。新聞の仕組みや書き表し方の特徴、図や写真、解説の載せ方、レイアウトの仕方などを学年の発達段階に応じて繰り返し学習したいものです。こうした学習を踏まえて、ある教科書では、新聞を作るために①編集会議で内容を決める②取材をする③取材した内容をもとに記事を書く④記事についての自分の考えを書く⑤書いた記事を読み合い、言葉や文章を直す学習を紹介しています。

 【コラムを書こう】
 自分 の思うことを読み手によりよく伝えるために、ある教科書では、次のようにコラムの書き方を紹介しています。①知らせたい情報の中から書く話題を決める②自分の考えの根拠をはっきりさせる③文章全体の筋道や構成を決めてから書く。

 【メディアとのつき合い方を学ぼう】
 新聞やインターネット、テレビなど、メディアの特徴を理解し、それぞれの良さを生かして活用する大切さを学習します。こうした学習は、一つの教材の学習にとどまらず、今まで紹介してきたNIEの学習同様、すべての教科領域に役立てることができます。

 【4こま漫画を使って話を作ろう】
 起承転結を学ぶために、バラバラにした4こままんがを並べ直したり、会話文を考えたりする学習をします。漢字が多く記事を読むことが難しい子どもでも、4こままんがを使うことで抵抗を減らすことができます。まんが以外にも写真や図表などを使って学習することも可能です。
(山崎章成/浜松曳馬小)

県内教諭の実践
=自己表現の交流の場作り

2013年08月11日(日)付 朝刊


 天竜特別支援学校の生徒たちと一緒に、壁新聞作りや新聞の声の欄をはじめとしてさまざまな投稿に応募したこと。高等部棟のピロティーに配達された新聞をすぐに活用できるよう整理し、それをベースに図書コーナーを設置したこと。NIE担当として何をしたらよいのか暗中模索しながら子供たちと一緒に活動した時から、早10年の歳月が経過しました。あの頃の子供たちとは年賀状のやり取りが続いており、今でも小説を書いたり、表現活動を続けているとの便りを目にすると、懐かしさがこみ上げます。
 活動自体は、私が現在勤務している浜北西高校に移ったために、1年限りの付き合いでしたが、今もなお私の取り組みの核となっています。私は今2年生を担当していますが、学年の取り組みとして週末課題で隔週、新聞コラムの要約と意見文を課しています。現代文の補習時、記述問題をどう答えてよいのか分からないとの質問がよく出ます。設問の要求事項を頭に入れ、筆者が主張のために用いるキーワードを繋ぎ合わせてゆくと答え易いと伝えています。言葉を繋[つな]ぎ合わせること、そのためには文章を要約し、意見を書く練習が必要です。その継続のために新聞コラムは必須アイテムになっています。
 また学年通信を年30回以上発行することを自分に課して8年目になりました。生徒たちの声を主体に作っており、HR委員長や学年で活躍した生徒に原稿を依頼します。彼らはそれを快く受けとめ、ほとんどの者が期日よりも早く私の元へ届けてくれます。過去2回、そんな3年間の彼らの活動を卒業時に縮刷版にして全員に渡しました。多感な3年間の記録として残ってくれればという思いで、学年の協力を得て贈りました。
 今年の2年学年通信『自己を拓く』も第16号を数えます。卒業時に何号になるのか楽しみであると共に、彼らがこの浜北西高校でたくさんの表現をしていくことを切に願っています。
 NIEとの出合い、それを仲立ちとして得た生徒たちとの出会いは私の宝物です。
(後藤昌則/県立浜北西高)

県内アドバイザー講座
=富士山の雲から気象学ぶ

2013年08月04日(日)付 朝刊


 世界遺産に登録された富士山。登録を機に富士山についてのさまざまな情報が、連日、マスコミにより報じられています。子どもたちは時代の流れに敏感です。富士山に一層関心を寄せ、もっと知りたいと思うのではないでしょうか。
 地球の自然が作り出した富士山。理科学習に役立つ記事をスクラップしておき、授業で紹介すると良いでしょう。
 富士山を描いた絵画には、さまざまな雲が描かれています。富士山を見上げるとき、季節によって変化する雲と富士山の織りなす風景の美しさに心を打たれることは今も昔も同じなのです。
 雲は、重要な気象情報をもたらします。天気予報がなかった時代、人々は空を眺め、雲の形や厚さを観察し、風、暖かさや湿っぽさを肌で感じ、経験的に天気予測を行って来ました。
 富士山周辺地域では、「富士山が笠をかぶれば雨」という天気のことわざがあります。河口湖測候所の研究によれば、富士山に笠雲の出た日または翌日に、雨の降った確率は72%でした(統計期間は昭和8年から27年)。昔も同じ条件であったとすると、富士山の笠雲天気予報は、現在のように気象情報が発達していなかった昔の人々にとっては有益な情報であり、暮らしを助けてくれたことでしょう。
 小中学校の理科教科書に、お天気に関することわざ、観天望気を調べる提案があります。富士山の笠雲の観天望気を写真入りで紹介している教科書もあります。
 富士山の笠雲の写真が、新聞に掲載されることがあります(資料①)。その前後の天気欄と共にスクラップして台紙に日付順に並べます。
20130804図1.jpg

 天気の学習の時に、笠雲の写真を子どもたちに見せて、笠雲を見たことがあるかを問います。次に、天気の変化を天気欄から読み取ります。天気図を、時系列で見ます。その際、低気圧や前線に着目します。そして、お天気変化の原因を考えてみます。
 さらに、今後、子どもたち自身に富士山にかかる雲を観察するよう指示します。笠雲が現れたらスケッチを取ったり継続時間を調べたり気づいたことをメモするよう勧めます。
 富士山とお天気にまつわる忘れてはならない出来事として、富士山測候所の無人化があります(資料②)。

20130804図.jpg
 中央気象台(現気象庁)は昭和7年、富士山頂で通年の気象観測を始めました。昭和40年には「台風の砦」と呼ばれた世界最大級の気象レーダーが設置され、観測技術は進歩しました。苛酷な環境の元で気象庁の職員が交替で気象業務にあたりました。
 我が国は台風等により、度々甚大な気象災害に見舞われてきました。被害を防ぐために富士山頂の気象観測が果たした役割は大きかったのです。
 現在、各種の気象情報が容易に入手できるようになりましたが、それに至るまでに大勢の人々の、労力があることを知らせたいと思います。富士山頂観測のエピソードも授業では紹介したいものです。
(吉川契子/静岡中央高)
 ※(「アドバイザー講座」は隔週掲載します)