一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内教諭の実践
=社会へ関心持つ窓口に

2013年09月22日(日)付 朝刊


 私がNIE実践指定校の担当として、静岡大学教育学部付属静岡中学校で取り組んだ際のテーマは『新聞は社会の窓口』でした。この視点は公立中学校で教べんを執っている今でも、変わるものではありません。
 学校教育における最も重要な役割のひとつは、子どもたちの学力定着です。そのためには、新聞を教科の学習目標と関連させることにより、対象世界に対する関心を高め、多面的・多角的に物事をとらえる力が育まれるものと考えています。また、NIEの実践が浸透するには、息の長い実践の積み上げが大切であり、さまざまな教科が窓口となって子どもたちを育んでいくことが大切であると考えます。
 この継続によって子どもたちが、新聞記事から自分と社会とのかかわりを見つけ、それを基に自分の考えを創ったり発信したりしていくのです。また、子どもの発信や交流の手立てとして新聞記事を活用することで、子どもの学びが価値づけられ、子ども自身が学ぶ喜びに浸ることができるのです。
 この喜びがきっかけとなり、もっと社会に目を向け、よりよい社会を築いていこうとする、公民的資質の育成とともに、生きる力を育むことにつながっていると思われます。このようにNIEには、子ども自らが主体的に判断し、表現しようとすることで、日常の世界をより豊かに受け止めることができるチャンスが潜んでいるのです。
 NIEの実践指定校でない今も、新聞を活用した授業を行える背景には、地域の新聞販売店のご厚意があります。学校と地域とが連携し合い、子どもを育んでいける環境にあることを幸せに感じています。これからも息の長いNIEの実践とともに、よりよいものを求め、子ども自らが社会に対して「問う」授業を提案していきたいと考えています。

(長田裕次/御殿場高根中)

県内アドバイザー講座
=記事テーマ別封筒で分類

2013年09月15日(日)付 朝刊


 夏休みが明けて、いよいよこれからNIEの実践を行うという学校も多いだろう。では、実際に学校現場でNIEを導入する場合、どのような準備と心構えが必要なのだろうか。
 大切なのは、新聞を利用して何を導くのか、という教員全体の共通認識である。年度初めに掲げる「学校目標」に即した、導入の目的を明確にしておきたい。目当てさえはっきりしていれば、学年が違う・他教科であるというアプローチが異なっても齟齬[そご]をきたすことはないだろう。教員同士の連携が確認できたら、生徒の活発な活動を促すシステムを構築せねばならない。具体策としては委員会活動に取り込むことが現実的だ。新規にNIE委員会を作っても良いが、既存の委員会、とくに図書委員会の分担に設定するのが妥当と思われる。
 さて、NIEの実践が始まると、大量の紙の物流に驚くことだろう。重要な情報の宝庫として、大切な限りある資源として労力と資源の無駄を省くメカニズムを設計せねばならぬ。ことに運搬の負担は大きいので、当番化し順番制にして不公平感をなくす努力をしないと、新聞教育に対していらぬ恨みを買いかねない。
 配布された新聞は全校の知的共有財産である。ゆえに一人が・自分のためだけに、記事を探すのは時間的ロスが大きすぎる。一日分の新聞における情報量は文庫本一冊にも相当するので、探すことに対する、つまりは読むことに対する嫌悪感を醸成してしまう恐れがあるのだ。迅速な情報探索の読解力を育成する目的以外は、分類を共同作業の一環として位置付けるのが賢明であろう。
 分類の具体的方策としては、小論文のテーマごとに封筒を用意すると良い。大きめの封筒に、切り抜いた記事をどんどんアトランダムに詰め込んでいこう。封筒という分類スポットを用意することにより、仕分け作業の能率化が図れる。
 また、自分のテーマだけを追求するのではなく、複数のテーマを念頭に置きつつ手作業をすることにより、広い視野の育成にも役立つ。大勢の人間が沢山の記事を切り抜いてくるので、もちろん重複するだろう。しかしだからこそ、気兼ねなく自由に持ち出しが可能となり、活用度が高まる作用も期待できるのだ。 進路が実現した後、その記事切り抜きは重要な紙媒体のアーカイブとなる。きちんと保存するよう、予め指導しておくべし。授業進度にピンポイントで都合の良い記事が掲載される訳ではないので、記事のデータベース化は必然の作業である。この紙媒体としてのデータベースの保存場所として、最も効果的なところが図書室ではないか。冒頭の図書委員会の活用という発想は、この保存と活用場所が根源となっている。
 最後に各自で切り抜きをした後・情報を探索した後、の整理について書いておきたい。必ず新聞を奇麗に畳むこと。これは絶対条件の最重要事項といえる。切り抜かれてあちこちに穴が開いた新聞は、確かに揃[そろ]えにくいのだが、一枚の新聞が発行されるまでにどれだけ多くの人が関わって来たのか、その大変な苦労を認識させたい。
 また、情報に対する感謝の念や本来は有料であるべき新聞が善意によって無料あるいは低価格で提供されている実態を確実に生徒に伝えるべきである。知見は無償ではなく、持っていても活用できなければ宝の持ち腐れとなってしまう。また、データは善悪両方に活用できてしまうので、モラルの陶冶[とうや]も同時に為されなければならない。
 終局的にきれいに畳まれた新聞を、どこにまとめて置くのか。リサイクルの場所までどのように運んでいくのか。最終処分のところまで流れを確認し、きちんとした指導を行いたい。畳んだ新聞は運搬しやすい状況で保存するべきであるし前述のごとく当番制にして負荷を均一化する工夫も肝要である。最も気を配ることは、長期的に継続できるユニットの設定である。
 今後ますます新聞という情報の集合体は、その活用の場を広げていくだろう。学校現場でも実践躬行[きゅうこう]の方法を模索しなければならない状況になるに違いない。そのためには、担当教員の負担集中を軽減し、教員と生徒、家庭が一体になった取り組みが望ましい。学校の実態に即した、地に足のついた長いスパンでのNIEが可能となるよう、切に願っている。
(実石克巳/静岡市立高)

県内教諭の実践
=伝え合い感性を育む

2013年09月08日(日)付 朝刊


 この夏、NIE全国大会静岡大会に参加させていただいた。初の試みとして全体会でのパネリストに起用された子どもたちの活躍ぶりには、本当に驚かされた。中にかつて同じ学校に在籍したお子さんの姿があり、以前から優秀ではあったもののさらなる成長ぶりに触れることができた。「新聞」を介しそれぞれの立場で実践を重ねられる方々は皆、他への配慮にあふれる中で自身の意見を述べられ、「新聞」のもつ視野を広げる力・感性を育む力をあらためて感じた。
 新学期などに時々活用するのが、興味を持った記事を伝え合う活動だ。多岐にわたるジャンルの膨大な量の記事の中から子どもたちが選んだものを通して、その子の感性を見て取ることができる。
 また、選んだ記事を伝え合う際、記事を選んだ視点などの理由をタイトリングさせることで、その子自身が自分と、記事を介した事象・地域・人々とのつながり、自分自身の感性を見つめることができる。そうして作成した資料をもとに伝え合う活動を行うことで、子どもたちは互いの感性を響き合わせる。
 本年度から山間地に位置する小規模校に勤務しており、たった2人の子どもたちとの授業となることが多い。先日、算数の活動で競い合う場面が生じることを伝えると、「じゃあ、競争じゃなくて協力ってこと?」と、あどけない表情がきらりと光った。低学年の幼い子どもたちに、これほどまでに意をくみ取る感性が育っていることに感動し、思わず涙が出た瞬間だった。新聞から活字を拾えるようになるには今少し時間が必要な彼らだが、新聞紙面の写真からは、きっとたくさんのことを感じ取り、疑問を見つけ、目を輝かせて語ってくれることだろう。近いうちに彼らと、新聞を介して感性を響かせ合い、伝え合ってみたいと思っている。
(白鳥かつら/静岡清沢小)

県内アドバイザー講座
=他校を参考に活動工夫

2013年09月01日(日)付 朝刊


 「他校でどんな取り組みを行っているのか」を子どもたちが知る機会はとても少ないと思います。テレビなどの報道もありますが、見逃すことが多く、詳しく知ることもできません。

 〈新聞で学校を活性化〉
 こんな時には、新聞が役立ちます。新聞には、さまざまな学校の取り組みが数多く掲載されています。特に地方版は、学校行事や授業、児童・生徒会活動などの取り組みの様子や子どもたちの活躍を詳しく紹介しています。どれも個性的で魅力的です。しかも、いつでもどこでもじっくりと読むことができます。
 これらの記事は、学校の取り組みをさらに魅力的で効果的なものにしていくヒントになります。実践への勇気も与えてくれます。

 二つの例を紹介します。
 【記事①】は牧之原市の牧之原中学校の記事です。いじめをなくそうと生徒会が全校生徒に呼びかけて五つの誓いをつくり、高札に掲げました。子どもたちが主体的に自分たちの問題を解決しようという取り組みは参考になります。

 【記事②】は焼津市の大富小学校の記事です。大富小では、子ども自身が危険を回避する力を身につけようと、体験型防犯講座「あぶトレ!」を行いました。こんなトレーニング方法もおもしろいですね。
 これらの記事を子どもたちに提示し、一緒に取り組みを考えてみましょう。大切なことは、紹介された取り組みをそのまま行うのでなく、自校の実態に合ったものにすることです。
 このようにして、学校が新聞記事から他校の取り組みを知り、参考に教育活動を工夫できます。新聞の新たな活用方法として、学校の活性化に大いに役立つと思います。

 〈新聞を使って発信〉
 他校の取り組みを知ると同時に、新聞に自校の取り組みや子どもたちの活躍が紹介された場合には、別の大きな効果があります。「子どもたちの自己肯定感が高まる」「学校の教育活動への理解が深まり、地域・家庭との結びつきが強まる」などの効果です。
 私の勤務する川根中学校でも新聞紙面による発信に力を入れています。「川根中ならではの特色ある教育活動を新聞に取り上げてもらう」、「子どもたちが読者欄への投稿を積極的に行う」などの発信を行っていますが、地域・家庭の皆さんから、「新聞で見たよ。いいねえ」と声をかけられ、喜びや幸せを感じます。学校を力強く支援していただいていると実感できます。子どもたちの投稿も多くの人から褒められ、自己肯定感が高まっています。

 〈懸け橋となる新聞〉
 新聞には、地域・家庭の皆さんと学校との懸け橋になる大きな力があります。「新聞が学校の応援団になる」とも言えるこの新聞活用は、7月に行われたNIE静岡大会で提言された「やさしいNIE」の柱の一つです。
 私自身、長い間「やさしいNIE」を勧めてきましたが、学校と新聞社が互いに子どもたちを育てる意識を共有していこうとする「やさしいNIE」に可能性を感じます。
 今後も、「学校や子どもを応援する記事」「子どもに未来の夢を育む記事」「子どもに積極的な生き方を紹介する記事」などが新聞に掲載され、学校のすてきな取り組みが全国に広がっていくことを心から願っています。

(矢沢和宏/島田川根中校長)

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