一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内アドバイザー講座
=さまざまな取り組み共有

2013年10月27日(日)付 朝刊


 「書道の授業で新聞記事を活用している」と聞き、取材しました。今回は、この実践を中心に、アイデアあふれる、楽しい新聞活用の事例を紹介します。

 ■記事を「書」にする
 実践者は県立吉田高校に勤務されている高柳一先生です。吉田高校を訪れると、あちらこちらに書道作品が掲示されています。その作品が質の高い文化を象徴し、とてもよい学びの環境をつくっています。
 吉田高校では、選択教科や書道部で、おもしろい活動を行っています。新聞を読んで、ハッピーニュース(心があたたまる、勇気が湧いてくる記事)を選んで感想を書き、その感想を凝縮したり、一部分を取り出したりして書に表す取り組みです。内容だけでなく、文字の字体や配置、余白などを工夫して自分の思いを表現します。【写真1、2】
 作品はどれもハッピーニュースらしく、幸せな気持ちが伝わってくるものでした。一つ一つの作品に見応えがあり、作品の意味や背景を考えずにはいられませんでした。
 高柳先生は、「活動を通して生徒が新聞に親しみ、読解力の向上や新聞を読む習慣につなげたい。そして、活字から、考える力や創造力を高めたい」と話されていました。
 このハッピーな思いを表した「書」は、はがきサイズの額に入れ、「サンクスカード」と称してお年寄りの皆さんにプレゼントしたとのことです。「幸せのお裾分け」というわけです。
 【写真3】は、吉田高校書道部の活動の様子です。撮影した日は、文化祭前で制作に忙しそうでしたが、部員のみなさんは、「書くことが好きで、書いているときは、自然と集中できる」と話し、生き生きと活動していました。

 ■取り組みが受賞
 高柳先生が藤枝東高校に勤務されていた時には、新聞記事から感じたこと・考えたことをコメントにまとめ、それをさらに「漢字一文字」に凝縮し、書にしたためる実践もされていました。このような新聞活用もあるのです。
 この取り組みはたいへんにユニークで高い評価を受け、ハッピーニュース大賞では特別賞に選ばれ、全国表彰されました。
 これを応用し、工夫すれば、新聞記事を読んで「詩や俳句、短歌を創作する」「絵を描く」「作曲、演奏する」「創作ダンスを踊る」「寸劇(会話)をつくる」ことなどもできるのではないでしょうか。記事にある写真からでも、さまざまな取り組みができそうです。

 ■新聞の活用方法は無限
 このように、新聞の活用方法は無限で、さまざまな分野で可能です。「NIEは社会科や国語科で…」と始めから決めつけないで、あらゆる活用方法を自由に探ってみましょう。NIEに「こうあるべき」「こうしなくてはいけない」はありません。「やれそうなことを楽しく」が「やさしいNIE」のモットーです。
 例えば、「天気図を切り抜き、パラパラマンガにする」「訃報欄を集め、傾向を分析する」「記事の見出しでしりとりをする」「最も短い(長い)見出しを探す」「四コママンガをばらばらにして順序を考える」「テレビ欄からニュースを読み取り、当時の社会を考える」など、さまざまな取り組みが考えられます。

 ■魅力的な実践を広める
 各自で工夫した取り組みを新聞やインターネットなどで紹介し合って共有し、新聞活用の可能性を広げていきたいと思います。思いついた取り組みを、ぜひ川根中学校の矢沢までお知らせください。
 (連絡先は川根中学校ホームページ参照)

(矢沢和宏/島田川根中校長)

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県内教諭の実践
=未来につながる学び創造

2013年10月20日(日)付 朝刊


 「漁師さんは心で泣いている」。5年生水産業の学習で「福島北部沖で9割捨てる試験漁」という新聞記事に一人の子が書き込みました。また、以前扱った「主権回復の日」の記事を取り上げ、怒りの拳を振り上げる沖縄の人の気持ちと似ていると書いた子がいました。「なんでこんなことになっているの? 僕は腹が立ちます」と本気で語った子がいました。
 新聞記事には考える種がたくさん散りばめられています。そこにはたくさんの「問い」が立ち上がってきます。どうしてそういうことが起こっているのか、自分の生活とどうつながっているのか、自分には何ができるのか、そんな心の働きは大切な学力であると私は考えています。
 問いに対する解は一つではありません。問いを探るうちに、新しい問いが生まれてきます。友達との対話から新しい価値も生まれてきます。これからの時代を生きる子どもに、さまざまな情報を関連づけて問いを立てる力、その問いを探りながら新たな問いにつなげていく力をつけたいと思います。
 また、新聞は論理的思考を高めると同時に、感性も豊かにします。冒頭で紹介した子どもの姿にそれが表れています。他者に思いを寄せて自分事として考えることは、知性と感性が相互に磨かれていくことだと思います。
 ESD(持続発展教育)を実践している本校は、今年度「ユネスコスクール」の認定を受けました。今学習している事柄が、未来につながっていることを実感できる学びの創造を目指しています。そこには新聞の活用が有効です。
 今何が起こっているのかを探ることは、未来を考えることになるからです。新聞は決して難しいものではなく、自分と世の中のつながり、未来とのつながりを実感できる楽しい素材です。低学年でも写真などを活用して、親しめるような工夫ができます。校内には、日常的に新聞に触れ合えるように、新聞の掲示コーナーをつくりました。次の授業ではどの新聞記事を使おうかと、私自身が楽しみながら今日もスクラップをしたいと思います。
(四條秀樹/富士岩松北小)

県内アドバイザー講座
=親子で記事切り抜こう

2013年10月13日(日)付 朝刊


 夏休みに、「親子で新聞スクラップに挑戦しよう!」と題した講座を行いました。親子の触れ合う機会が多い夏休みに、記事をスクラップする活動を通して子どもたちに新聞の面白さを体験してほしいと願って行った講座です。
 講座に参加した子どもは、小学生だけでなく4歳の子もいました。大人でも読めない漢字がある新聞を、小学生や未就学の子が理解することは無理なのではと思われませんか。確かに記事そのものを読み解くことは無理でも、写真に注目すれば何を言いたいのか分かるものがいくつもあります。
 スポーツ面には活躍した選手の写真が掲載され、どのチームがどんな勝ち方をしたか予想がつきそうです。社会面には楽しそうなイベントの写真が掲載され、自分の生活経験を重ね合わせると理解が増します。「写真で5割、見出しで7割、リードで9割」という言葉があるように、記事全てを読まなくても写真や見出しから記事が伝えたいことを理解することができるのです。
 読めない漢字があっても新聞からニュースを知るこつとして、新聞は、前の日に起こったさまざまな出来事が網羅的に載っているので、一字一字読むのではなくざっと目を通し、何が起きたかを知った後は興味がある記事をじっくり読めばいいことを確認し、スクラップの例をいくつか紹介しました。
 後で使いそうな記事を切り抜きスクラップするオーソドックスなパターンをはじめ、感想やポイントだと思う所にラインマーカーで着色したもの、一つのテーマに関わる記事を続けて切り抜いたもの、四こま漫画に五こま目を付け加えるものなど、いずれも小学生が作ったものです。
 私の説明の後、早速1枚スクラップ作りに親子で挑戦してもらいました。どの子も新聞をめくり、切り抜きたい記事を探し出しました。気に入った記事を見つけると親子で話し合う姿が見られるようになりました。どんな視点でその記事にしたのか、記事から何を感じたのか、まとめ方をどうすればいいのかなど話題は尽きません。こうして2時間近くの講座もあっという間に終わりました。
 スクラップを作り上げた飯尾真歩さん(4)は、紙面から夏祭りの写真を探し出し、「まつりだいすき」という見出しを付けたスクラップを作り、「私も浜松まつりが大好き。みんなでいろいろなお祭りに出たいなあ。好きな写真を切って、感じたことを書くのが楽しかった」とつぶやきました。お姉さんの歩埜華さん(6)は「好きな写真を選んで、工夫して貼るのが面白かった」と教えてくれました。二人と一緒に講座に参加したお母さんは、妹のワークシートへ「祭りの記事を一生懸命集め、大事に切り抜く姿に年齢は関係ないんだなあと思いました。これからも新聞に興味を持ってもらいたいと思います」と感想を書いてくれました。
 読書の秋です。皆さんも親子で新聞を読んでみませんか。
(山崎章成/浜松曳馬小)

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親子新聞スクラップ講座で、できあがった作品にコメントを書き込む飯尾さん親子

                       =浜松市中区の新聞販売店

県内教諭の実践
=役立つ実感持たせたい

2013年10月06日(日)付 朝刊


 家康公が平和な世を築くために出版した駿河版、中村正直の「西国立志編」など、静岡は日本の活字・出版文化、文明開化、そしてNIE発祥の地ですね。NIE全国大会静岡大会では新聞の有効活用により、児童・生徒の生きる力を育てる実践に触れることができ、大変感銘を受けました。また、公開授業を行った教え子にも再会でき、立派な姿とご縁に感激しました。吉田松陰の松下村塾では教え子と共に見聞きした情報をまとめた「飛耳長目録」を教材にしましたが、今でいう新聞スクラップノートですね。新聞は信頼度の高い情報源で、速報性、一覧性に優れた身近で魅力的な教材です。教科書と実社会をつなぎ、思考・判断・批判・表現力を磨き、生徒の自己深化と対話を生み出してくれます。新聞スクラップは教材研究の楽しみも倍増させてくれます。
 創立102年目の本校は素直で明るく、心優しい生徒たちに恵まれ、入学後の〝伸び率ナンバー1〟の学校であると感じます。教職員は記事に関する3分間スピーチ、小論文指導での課題、修学旅行の事前研修や生徒による壁新聞など、各教科をはじめ、多様な場面で活用しています。担当する現代社会の授業では「マララさん、国連で初演説」(7月14日付)の関連記事を教材に、同世代の少女の生き方や教育について考えさせ、グループで意見交換をしました。日本史では「歩み続け、今―作家・瀬戸内寂聴さん」(9月6日付夕刊)を読ませ、「私たちが日本の未来を引っ張っていかなければ」等の感想もあり、心に響く記事に出会えたようです。また、図書館にNIEコーナーを新設しました。読書と新聞を両輪に言語活動を充実させたいと思います。担任としては毎朝、新聞を持参し、自由に閲覧できるようにしました。知識活用の場をつくり、「役立つ」実感を持たせたいです。
 読者欄「ひろば」に投稿した本校生徒の文章を読み、そのみずみずしい感性、伝えたい純粋な思いに感動しました。生徒とより良い社会を築くため、そして親、家族をはじめ、生まれ育った故郷を大切にする教育を実現するため、日々精進していきたいと思います。
(小杉明史/清水西高)

県内アドバイザー講座
=宇宙への興味を引き出す

2013年09月29日(日)付 朝刊


 9月は、宇宙関連の大きな2つのニュースが話題になりました。ひとつは日本の新型ロケット「イプシロン」の打ち上げ成功、もうひとつはアメリカの探査機ボイジャーが太陽系外に脱出したこと、です。
 これらのニュースをテレビなどで見聞きしている児童生徒もあると思われます。しかし、テレビニュースを視聴したのみでは、内容のごく一部しか印象に残らないと思います。要点がコンパクトにまとまっていて、きれいな写真や図が使われている新聞記事を活用し、記事を読めば、子どもたちの心に内容が印象深く残ります。児童生徒の実態を知っている先生方がわかりやすい言葉にかみ砕いて説明したり、内容に関する質問をして答えを記事から捜すなどの方法も適宜取り入れると良いでしょう。授業中に紹介する時間がなければ、教室や廊下に掲示しておき、興味を持った生徒に、休み時間などに解説することもひとつの方法です。
 「イプシロン」のニュースは、「YOMOっと静岡」では大きな扱いで報じています(記事①)。子どもたちには読みやすい「YOMOっと静岡」の記事を見せ、静岡新聞の記事(9月15日朝刊)から補足資料を探して説明する方法もあります。
 「イプシロン」ロケットの発射の写真を見ただけで、大人でもわくわくします。記事に、ロケットが飛ぶしくみは風船と同じ、とあります。風船を教室に持参して、膨らませて手を離し、飛ばして演出すると、子どもたちが興味を持ちます。風船遊びは、過去に何度も行っているかもしれませんが、教室内で勉強の内容と関係があると意識付けすることにより、学習内容を身近に感じさせることができます。なお、風船を使用するとき、子どもたちがはしゃいで思わぬけがをしないよう十分注意する必要があります。
 ロケットには人工衛星が搭載されており、上空で分離しています。生徒たちの日常生活に、人工衛星が役立っている例を考えさせると良いでしょう。日常生活に恩恵をもたらす宇宙開発ですが、コストがかかります。高い性能とコスト削減を両立実現したロケット開発のエピソードも興味深いものです。
 一方、米航空宇宙局(NASA)の探査機ボイジャーが、1977年の打ち上げ後、36年間に及ぶ長い長い旅の末に、太陽系を完全に出たことが確認されました(記事②)。天文分野の学習では、宇宙の広大さを知らせたいものですが、この記事を読めばきっとそれが実感できることでしょう。教科書には、ボイジャーが撮影した写真が使われている場合がありますので、記事を紹介することにより、親近感がわくかもしれません。地球外生命体へのメッセージを搭載していることに、子どもたちは興味を持つことでしょう。
 多くの子どもたちが、宇宙に興味を持っています。理科学習に対する興味を深めるために、このような記事をスクラップして、授業の年間計画にこだわらずに、気軽に紹介すると良いでしょう。

(吉川契子/静岡中央高)

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