一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内アドバイザー講座
=科学記事を追い壁新聞に

2013年11月24日(日)付 朝刊


 あるテーマの科学ニュースが、継続して新聞に取り上げられることがあります。それらをスクラップしていき、一枚の壁新聞を作成するとよいでしょう。子ども達にグループ作業を行わせると楽しみながら学習できます。
 グループ作業を行う前に、個人個人が新聞記事を読む習慣を身につけておく必要があります。グループで壁新聞を作成し、それらを授業集団分つなげて一枚の大きな壁新聞にすると楽しい作品ができます。
 生徒が興味を持ちそうな内容で、「このテーマの科学ニュースはしばらく新聞に掲載されそうだ」と思ったら、継続してスクラップするように呼びかけます。新聞を購読していない家庭もありますので、学校の図書室などで購読している新聞の切り抜きを予約しておくこともあります。スクラップした新聞記事が、教科書のどの単元に関係しているか調べ、予習復習することで、学習と日常生活との関わりがわかります。
 記事がたくさん集まったら、壁新聞を作成します。模造紙に新聞記事をはりつけて、感想を記入します。関連する教科書の内容を復習し、短い文章にまとめて解説記事風にはりつけたり、イラストを入れたりして、見やすい紙面作りを心がけるように指導します。新聞記事に関するアンケートを取って集計結果を入れるなど工夫すると楽しい作品が仕上がります。
 作成した壁新聞は文化祭などで展示すると良いでしょう。他の方々に紹介するために展示物を丁寧に時間をかけてじっくり作業を行う過程で、学習内容の知識を身につけることもできます。展示物を見た保護者や地域の方々、他の先生からほめていただくと、生徒も学習に自信を持ちます。
 冥王星が惑星でなくなった記事を取り上げた新聞スクラップから、4名の生徒に共同で一枚の壁新聞づくりに取り組ませたことがあります=写真=。私は、個々の生徒の長所を生かした役割分担を決めました。ワープロ作業が得意なM君には、掲示に貼り付ける資料の作成を依頼しました。彼は限られた枠内に、文章の行間を調節し、上手にはめ込む地味な作業を器用にこなしました。絵を描くのが得意なH君は惑星のイラストを描いてくれました。それぞれが上手にできたことは手放しでほめました。後に、M君もH君もそれらの特技を生かした進路を選びました。
 授業で新聞の科学記事を取り扱うことにより、生徒の多様な思考を育てることができると思います。生徒が、自分と社会との関わりを考えるきっかけにもなります。じっくり時間をかけて作業を行うことで、学習内容が日常生活と関わっていることが理解できます。教科書との関わりを明確にすることに留意して、活動を行うことが大切です。
(吉川契子/静岡中央高)

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        冥王星問題の新聞スクラップ壁新聞の一例

県内教諭の実践
=子供たちの感性育てる

2013年11月17日(日)付 朝刊


 私が授業で初めて新聞記事を使ったのは、環境破壊の特集記事でした。今から30年ほど前のことです。学級だよりに載せ、子供たちには、毎回、感想を書いてもらっていました。当時4年生だった子供たちには、新聞記事を読むことは難しかったのですが、興味のわく見出しや思いがけないような写真のおかげで、真剣に読み、考えたことを覚えています。当時は、まだ環境破壊という言葉さえ知名度はなく、エコという言葉も使われていませんでした。その時の子供たちは、40歳。きっと、地球環境のことを、真剣に考えてくれていることでしょう。
 その頃から新聞記事にはお世話になっていますが、今年度、6年生の国語科で「メディア・リテラシー入門」という教材を扱う機会がありました。あらためて、子供たちとメディアについて考える機会をもち、「新聞記事」の何度も読み返すことができるという特徴から、伝える側の意味を読み取る大切さを学びました。
 同じ記事でも、書き手の伝えたいことによって、その記事の扱い方や書かれている内容が変わってきます。小さく扱われている記事に心を動かされることもあれば、記事の内容に、すごく反発を感じることもあります。私のように、学級だよりで紹介しみんなに考えてもらおうとすることには、私の意志が大きく関係します。私の感性が、新聞記事を選ばせているのです。もっとも、多くの場合は、子供の感じ方や捉え方は自由で、子供はどのように考えるのだろうと私の方が知りたい時に使っているのですが。
 ですから、このNIEの活動のように、子供が自分で目に留め見つけてくる新聞記事こそが、本当の意味で子供たちの感性を育てるのだと思います。そして、互いの考えを知り、互いのことが分かり合えるようになるのだと思います。まだ私はNIEの活動に取り組んではいないのですが、絶対やろうと思います。
(福井治枝/熱海第一小)

県内アドバイザー講座
=新聞形式で新刊本紹介

2013年11月10日(日)付 朝刊


 前回9月のコラムにおいて、記事のデータベース基地としての図書室の利用と、生徒の活動を促す図書委員会の活用を提言した。今月はさらに、NIEと学校図書館の密接な連携方法を探ってみたい。
 情報を知識に変換し、実行動において活用できる能力を育成するにはどのような手段・方法をとったら良いのだろうか。学習活動とは終わりのない輪に例えることができる。下図のように情報と知識、そして活用能力の定着は、読み取りというインプットを経て、発表というアウトプットの反復においてなされると考えることが可能だ。吸収と発信はあたかもメビウスの輪のように表裏一体をなすものであり、何回も反復することで、さらなる思考の深化が期待できるだろう。
 従来の教科教育は大量の知識習得を重視してきたが、現在はその教育方針が転換点に来ていることは言うまでもない。情報の獲得が容易になった昨今、重要か否かの判断力とスピード、咀嚼[そしゃく]思考の結果による取捨選択、オリジナルな意見を発表し聞き手に納得させるプレゼンテーション能力が大切なものとして注目されている。
 では、学校の図書館という活動の場で、前述のような情報の取り入れと開示はどう行えば効果的なのだろうか。最初の具体例として、「新聞形式で新刊本紹介」を挙げる。新聞の第1面下部は書籍広告の定位置だ。新聞から書籍情報を入手し、さらにはその書籍そのものを読破した後、脳内において情報の精査・取捨選択を行い、「読んでみたいと思わせる」紹介文を発表してみよう。図書委員会活動の一翼を担わせる面で有効である。
 次にポップアップ作成。『視覚的な効果のあるポップアップを付けると、その書籍の販売率が格段と向上する』。以前、筆者が受講した学校図書館司書研修の講師(現役の書籍店員)の教えである。ということはつまり、学校図書館では貸出率の向上につながるのではないか。この一見的なポップアップ作成は、そのまま新聞の見出し付けの訓練につながるし、2~3行の紹介文はリード文とも言える。図書貸し出しの活性化とともに新聞製作のスキルアップを図ろう。
 最後に図書館で行うリサイタルをコマーシャリングする。現在の勤務校では毎年、クリスマス近辺に図書館において吹奏楽部の小編成バンドとマンドリン部のコンサート、図書委員によるおすすめ本の紹介プレゼンテーションを実施している。非常に高いレベルの内容で、聞きごたえ十分だ。このような図書館独自の活動を行う場合、宣伝が重要な項目となってくるので、実際の新聞広告を参考にして、多くの人々に周知徹底する方法を学びたい。以上のようなさまざまな事例を通じて、興味をいかに惹[ひ]きつけるか、メディアを駆使して好奇心を刺激する術を学習し、実行しよう。関心の持続を保つため、探索意欲を掻[か]き立て、態度に連続性を持たせよう。プレゼンテーション能力の育成と学校図書館の連携。この一見、結びつきの薄い者同士をリンクさせ、活性化を図るのが、新聞教育(NIE)なのである。
 紙媒体の保管場所だけでなく、データベース基地として情報を蓄積や、生徒の情報活動の拠点として、知識のインプットからアウトプットへの変換点として、学校図書館の新たな役割が求められていると言える。しかしそこには、NIEの側からの積極的な働きかけが肝要であり、教育において情報の有効な利用方法という古くて新しい共通の教育目標が存在することを忘れてはならない。
(実石克巳/静岡市立高)

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県内アドバイザー講座
=社会への扉開ける最善手

2013年11月03日(日)付 朝刊


 私の英語の授業では、疑問詞を使って「日本の総理大臣は、誰ですか」「日本で一番大きな会社は、何ですか」など、現在の日本社会について英語で教師から生徒に質問することがある。問われている英語の意味自体を理解できない生徒は珍しいが、答えを知らない生徒は珍しくない。
 新聞やテレビで安倍総理大臣のニュースを目にしない日はない。にもかかわらず多くの中学生は、安倍総理大臣の名前を答えられない。彼らの関心事は、帰宅後のゲームや、ラインで友達と連絡をとりあうこと、学校内での日々の出来事などに集中しているように思える。極めて身近な関心事に膨大なエネルギーを費やす一方、社会への扉に鍵をかけるかのように。インターネットが普及し、生徒が自分と関わる世界を広げつつあるというイメージを私は思い描けない。むしろ、外からは見えにくい狭い世界に入り込んでしまっている中学生が多いことに驚かされる。
 NIEは、生徒に鍵をかけられてしまった社会への扉をこじ開ける最善手だと私は実感している。2011年3月に起きた東日本大震災関連の記事を教室で何度も使わせていただいた。生徒からこぼれる純粋な涙に教師側が感動したりもした。新聞を通して学ぶことは現実を学ぶことであり、血が通っていて温かい感じがする。読売新聞に掲載された「ままへ。」の記事を生徒に読み聞かせ、感想を書いてもらった。これまた涙あふれんばかりの感想であった。中学生が持っている感性が、いかに素晴らしいものであるかは、学校現場でのこうした活動から伝わってくる。
 パソコンやスマートホンが普及し、ますます高度情報化社会が進みつつある今こそ、NIEという活動を通して、心の通った温かい教育実践を広げる時だと私は思う。その意味でNIE活動の広がりは、生徒と現実社会を結びつける教育界の手綱ともいうべきものである。学問、文化、芸術、娯楽など、その可能性は広い。狭く暗い袋小路に迷い込んでしまった多くの若者たちに夢や希望を持たせていただけるよう、今後のNIE活動が多くの場で日常となることを願ってやまない。
(塚本一弘/藤枝中)

月刊一緒にNIE@しずおか(創刊号)第1土曜掲載
=教育見直す良い機会 学力テスト親子話題に 新聞で読解力身に付く

2013年11月02日(土)付 朝刊


 静岡県が全国学力テスト小学6年国語A(基礎問題)で最下位だった問題は、県内の教育現場、さらに家庭にも大きな波紋を広げた。この問題を報じる新聞を囲んで、家族で話し合うこともあるという前静岡市PTA連絡協議会長の尾崎行雄さんに話を聞いた。
 (編集委員・土屋英也)

 ■学力テスト親子話題に 新聞で読解力身に付く-前静岡市PTA連絡協議会長・尾崎行雄さんに聞く
 -子どもたちはこの問題を新聞で読んで、どのように受け止めていますか。
 「高校3年の娘、瑞(静岡英和女学院高)と中学3年の息子、文哉(藁科中)がいますが、2人とも関心はあるようです。息子は基礎学力に関わることなので、対策は考えた方がいいという考え。娘は全国学力テストの経験がないので、ぴんと来ない面もあると話しています」

 -校長名公表をめぐる問題も報じられました。
 「息子は上位でも下位でも、校長名を出すことにどんな意味があるのか分からないと言います。2人が通った小学校が上位に入っていたことは娘も喜んでいました。小規模校なので、密度の濃い指導が続いているのだと思います」

 -この問題の子どもへの影響は。
 「教育関係者がこの問題によるストレスで、子どもに悪影響を及ぼさないことを望むし、本県教育を見直すいいきっかけになったと、プラス思考で捉えてほしい」

 -国語を中心に教育の検証も進んでいます。
 「子どもに付けさせたい学力の捉え方にずれがあったのではないか。本県は、引き出された子どもの考えは全て正解、ということを基本に、表現力を育もうとする。一方、文部科学省が求める学力は、事象に対する明確な答えを出せる力なのだと思います」

 -学力向上の道筋は。
 「主体は学校。向上策を授業にどう取り入れるか、考えてほしい。教育行政は短期、長期両面で支援策を実行してもらいたい」

 -家庭にも大きな役割があるのでは。
 「今年の日本PTA全国研究大会で『教育の原点は家庭にある』と宣言されました。学力は教師の力だけではなく、家庭の教育力にも起因する要素が多分にあると思います。保護者も関心を持つだけでなく、学校と同じベクトルで学力向上に取り組んでほしい」

 -国語力向上には新聞活用も有効。
 「国語力は全教科の学力向上を導くものだと思います。速読、読解力を高めるのに、新聞は身近なよい素材。学校と家庭が協力して、新聞記事を活用した学習を進めることで、国語力を筆頭に全教科の学力向上につなげてほしい。『父さん、3日分の新聞持って来て』と言ってスクラップノートを作る息子の注文に『はいよ』と答え、家族で新聞を活用できることに感謝しています」

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学力問題を報じる新聞を見て話し合う(右から)尾崎行雄さん、文哉さん、瑞さん=静岡市葵区黒俣               

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 ■静岡県の国語教育=学力調査活用、授業修正を(高木まさき・横浜国立大教育人間科学部長)
 静岡市で生まれ育った私には、本年度の全国学力・学習状況調査において、静岡県の小学6年生の国語A問題の結果が全国最下位だったとの知らせは大きな驚きでした。そこで「学習指導要領(国語)」作成や昨年度まで「全国的な学力調査の在り方等の検討に関する専門家会議」に関わった経験を踏まえて、感想を述べさせていただきます。
 まず当然のことながら、本調査の結果は児童には何の責任もありません。データで見る限り、早寝早起きや宿題をすることなど、きちっとした生活習慣が身につき、地域の行事やボランティアへの参加の割合も高く、立派なものです。
 では学校の指導はどうでしょう。実は学校の先生方もがんばっています。児童の考えを引き出す発問の工夫、話し合い活動や総合的な学習の指導など、むしろ熱心に行っています。先生方の研修も他県より盛んなくらいです。
 そうなりますと、どこに問題があるのでしょうか。実はちょっと気になるデータがあります。まず研修は盛んでも、講師を招聘[しょうへい]する研修は少ない。また学力調査が学校で十分生かされていない。これはとても危うい。現場が勘違いをしたまま指導する危険性が増すからです。学力調査は、そうした事態も想定して、学習指導要領の考え方を具現化して授業改善に資するよう「専門家会議」が強く悉皆[しっかい]調査を求めてきたものです。その活用が十分でないまま、外から講師も呼ばずにいると修正されるべき点も修正されず、本来は誇るべき「教育現場の実態」に即した「仲間が作ったテスト」も逆効果になる危険性が出てきます。A問題の後半部分の結果が軒並み悪かったのは、その証しのようにも思われます。
 1980年代に、それまでの学習主体を無視するような読解指導を批判して国語科に読者論が導入されました。しかしそれは安易な学力観も生み出したため、修正されて今日に至っていますが、本紙記事を見る限り、静岡県ではそれが修正されていない可能性があります。「書くこと」にしても、見たまま感じたままを書くという生活綴方[つづりかた]的な伝統が修正されずにいることが危惧されます。要するに、身につけさせたい知識や技能、育みたい思考力等が曖昧なまま、ただ活動を繰り返してはいないでしょうか。
 そう考えますと合点のいくデータがあります。児童に質問した国語の勉強は好きか、大切だと思うか、内容は分かるか、社会で役立つと思うか、といった数値が軒並み低いことです。教師なら誰でも知っていることですが、勉強の苦手な子でも授業を評価する目は確かです。静岡県の児童の反応はその表れなのかもしれません。
 とはいえ、私は悲観していません。これだけ生活習慣がしっかりした児童に対して、こんなに熱心に向き合おうとしている先生方がいる。ちょっと修正を施せば状況は大いに改善されるに違いありません。その際、一助となるのがNIEです。日本のNIE発祥の地である静岡県の先生方の力を信じています。

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 ▽たかぎ・まさき
 1958年、静岡市生まれ。清水東高―筑波大卒。上越教育大講師、旧文部省教科書調査官などを経て、2004年から横浜国立大教育人間科学部教授。12年4月から同学部長。日本NIE学会常任理事

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 ■浜松有玉小で公開授業
 県NIE推進協議会は28日午後2時40分から、NIE実践指定校の浜松市立有玉小で公開授業を行う。同校の浅野慶太郎教諭が6年生社会科で「戦争から平和へ」をテーマに授業する。
 教育関係者の参観を募集している。14日までに県NIE推進協議会事務局<電054(284)9152>へ。