一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内教諭の実践
=朝の会スピーチ素材に

2014年01月26日(日)付 朝刊


 私はこの数年、司書教諭として小学校の学校図書館教育に携わってきました。子どもに読書の楽しさを味わってほしいという願いとともに、担任の先生方に学習の中で図書館を活用していただき、子どもたちの学びを豊かにしていきたいという思いをもってきました。そのために学習に役立つ本を選書して学校図書館に揃[そろ]えたり、紹介したりしてきました。
 学校図書館の研修を重ねる中で、NIEという言葉に出合ったのは、恥ずかしながらまだつい最近のことです。その頃は勤務する学校図書館に新聞は整備されていませんでしたし、具体的にどのように活用したらよいか、全く分かりませんでした。しかし、図書と同様、新聞を取り入れることは、教育に効果的であると同時に、必要なことだと感じました。
 まず初めに、小学生新聞を学校で購入することにしました。小学生新聞の方が難語句が少なく、子どもたちが手に取りやすいだろうと考えたからです。そして、毎日、新聞の内容をチェックし、戦争や福祉など学習に役立つ記事を見つけた時には、すぐ該当学年の担任に手渡しました。
 また6年生では、朝の会で行うスピーチで活用しました。新聞のニュースから記事を選び、内容を紹介して自分の意見や感想を話しました。社会の動きや出来事について関心を抱くようになり、知識欲の高まりを感じました。新聞を活用することで、教育の幅は確実に広がっていきます。
 しかし、日々の授業や活動に追われる現場の教師にとって、新聞を活用することは簡単なことではありません。必要な時に必要な情報を都合よく入手することは困難ですし、授業に活用していくための教材研究も必要です。
 教員がアンテナを高くして「これ、今度の授業に利用できそう!」とひらめいたときに使ってみる、そんな風に気軽に考えて活用してもよいのではないでしょうか。自分もまだまだ勉強中の身ですが、気張らずに実践を積み重ねていきたいと思っています。
(岩田敦子/磐田東部小)

県内アドバイザー講座
=天文現象工夫して紹介

2014年01月19日(日)付 朝刊


 明治43年5月4日付の静岡民友新聞には、「ハレー(ハレー彗星)見ゆ」の見出しがあります。新聞の天文関連記事は明治時代からあり、天文雑誌よりも親しみやすい文章表現が用いられており、子どもたちには理解しやすいと思います。現代の子どもたちの多くも、星に興味を持っています。授業で天文記事を紹介し、学習への関心・意欲を高めたいものです。
 昨年、本欄で、ロシアのチェリャビンスク州への隕石[いんせき]落下(2013年2月15日)を報じる新聞記事を取り上げました。その後、日本の大学も含む国際研究チームにより、隕石について分析が行われ、新たな事実が明らかになりました(記事①)。

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 自然現象が人々の暮らしに影響を与えるとき、まず、人や建物への被害、交通への影響、その時点でわかる科学メカニズムも掲載されます。詳細な分析結果は後日、記事になることがあります。毎日、新聞を開いていないとこのような興味深い記事を見逃してしまうことがあります。記事の内容を生徒に紹介してみましょう。

 隕石は最大で秒速19・1キロ(時速6万8760キロ)、音速の56倍の超高速で落下し、隕石の直径はわずか19・8メートルと小さいものの、放出エネルギーは広島型原爆の30倍、直下では太陽の30倍の明るさだったことが分かりました。日本の探査機はやぶさが地球に持ち帰った小惑星「イトカワ」と化学成分が同じで、小惑星帯がふるさとであることも解明されました。
 小惑星は高校地学基礎の学習内容ですから、教科書を開いて復習すると良いでしょう。探査機はやぶさのニュースは生徒の関心も高く、当時、小惑星も話題になりました。その時は、自分たちの生活とかけ離れた天体である、と感じていたと思います。ところが、小惑星のかけらが地球に飛んできて大きな影響を与えたのですから、人ごとではありません。
 「秒速19・1キロ」の速さを実感するために、ひと工夫。生徒は体力テストで50メートル走のタイムを測ることがあるので、その時の秒速を計算してみます。秒速7~5メートルの範囲でしょう。教室内で、「5メートル」を巻き尺で確認し、「秒速5メートル」で走る風景を思い描いてもらいます。次に、学校と最寄りの、生徒がよく知る目標物までの距離を紹介します。例えば静岡中央高校と、学校から見える日本平山頂付近との間の距離が約8キロです。隕石は、その2倍以上の距離をわずか1秒間で通過した、と説明します。現地の人たちは、一瞬の出来事にどんなに驚いただろう、と問いかけます。
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記事の内容を身近に感じさせたところで次の記事を提示(記事②)。危険な隕石落下の回避対策を国際協力する構想が国連総会で承認されたのです。科学者はさまざまな面で国際協力することがあると、生徒に紹介します。費用面などの課題はありますが、今後の展開に注目したいところです。
 自然は不思議に満ちています。生徒たちが、そのことに魅力を感じ、自然を直接観察して、新しい発見がたくさんある1年になるよう、願っています。

(吉川契子/静岡中央高)
 (「アドバイザー講座」は隔週掲載します)

県内教師の実践
=家庭科の学びに生かす

2014年01月12日(日)付 朝刊


 今回、家庭科の教員として初めてこちらに書かせていただくことになった。家庭科は、生活に最も身近な教科であり、私たちの生活をよりよくするためにはどうすればよいかを考えていく教科である。私が家庭科の学びを通して生徒につけたい力は「選ぶ力」と「自分なりの意見を持ち、発信できる力」。モノが完成するまでの過程や物事の背景にあるものを大切にしたい。司書教諭の資格を生かして情報の読み取り方、切り取り方、まとめ方も扱いたい。生徒には生活を「自分ごと」として感じ、とらえてほしい。新聞はこれらの力をつけるために格好の素材である。
 家庭科の教員だと言うと、「家庭科って大事だよね。料理とか生活に必要だし…」とよく言われる。しかし、実際に家庭科で扱う内容は衣食住だけでなく、児童虐待、ワーク・ライフ・バランス、持続可能な社会などなど多岐にわたる。家庭科は受験教科ではないが、小論文のテーマには関連しているものが少なくない。
 新聞は速報的な記事、解説、あるテーマについての連載など多様な情報が豊富にある。たとえば、教科書のテーマについて、新聞記事を併用してポイントをまとめたり補足したりし、それらをもとに自分の意見を述べる、という活動は小論文対策にもなる。併せて、生徒に「家庭科は生活に身近な教科である」という意識づけができる。
 NIEをもっと実践したい、と思う半面、使いたい記事を探して展開を考える時間がなかなか取れないのが現状である。今後はまず、私自身が新聞と向き合う時間を少しでも多くとりたい。生徒が意見を表現するための場を少しでも多く設定したい。その際、新聞の形にまとめたり、新聞に投書したりする場面も設けたい。新聞記事を中心にした授業をしたい。学校図書館とNIEを連携させていきたい。そのために、NIEに関する学びを深めていきたい。
(村上明美/三島長陵高)

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載
=切り抜きつなげ思い紡ぐ

2014年01月04日(土)付 朝刊


 ■自分と静かに向き合う時間/被災地で生まれた「ことばの貯金箱」-渡辺裕子 
 宮城県を中心にNIE普及に努めている元中学校教諭で「ことばの貯金箱」提唱者の渡辺裕子さんに、取り組みを紹介してもらった。
                        ◇
 昨夏のNIE静岡大会で、「ことばの貯金箱」のワークショップをさせていただいたのですが、その後、全国あちこちの学校から「学校でさっそくやってみたら、子どもたちがとても喜んで取り組みました」と、うれしい便りが届きました。
 さてさて、この「ことばの貯金箱」ですが、「好きなことばをいっぱいためて、『ことばの億万長者』になろう!」というキャッチフレーズで始まります。そもそもは、東日本大震災の翌年、仮設住宅内集会所からスタートしました。その後、小学校や中学校の授業で取り上げられるようになって、今、学校や地域でじわじわと広がっています。

20140104.jpgのサムネール画像

 新聞の見出しや広告には「この言葉いいなぁ」というのが結構あります。しかし、それらは読み終わってしまえばそのまま古紙回収に消えてしまう。考えてみればもったいない話です。
 ならばいっそのこと、切り取って箱の中にためておこう。もちろん、ためっぱなしではつまらない。たまった言葉を紙に貼り、それを手掛かりに自分の思いを書いてみるもよし。語彙[い]は増えていくだろうし、言葉のセンスも磨かれる。一つ一つの言葉との出合いで言語活動は大きく広がっていく。何より言葉を通して自分と向き合うことができればこんなに素晴らしいことはない。そうだ、その箱は『ことばの貯金箱』としよう! こんなことから始めたのです。
 まずは、古新聞(広告なども)でいいのです。好きな言葉を切り抜いていきます。もちろん、記事や写真、漫画などでもOKです。切り取ったら、「ことばの貯金箱」(中が見える透明の瓶やボックスが最適)に入れていくのですが、ただ黙って入れても面白くありません。ここは、遊び心を込めて大きい声で「チャリーン!」と元気よくです。
 さて、いっぱい貯まったところで、次は、好きな言葉をいくつでも好きなだけ色画用紙の上に貼ってみます。でも、貼るだけではなんだか物足りない。そんな時は、そこに言葉を紡いでみるのです。吹き出しをつけ、今どきのツイッターのように、自分の気持ちを自由につぶやいてみるのです。

 好きな写真やイラストを加えたり、詩や川柳、短歌を添えるのも楽しい。何が駄目という縛りは一切ありません。ひとつの言葉をきっかけにして、思いのままに自分を表現していき、最後は、出来上がった作品をみんなで見せ合うのです。会話が弾みコミュニケーションがどんどん広がっていく中で、不思議なことにいつしか自分の心が解放されていくのが分かります。
 「ことばの貯金箱」で出会った子どもたちは、いつしかみんな笑顔になっていきます。子どもたちと接する中で、静かに自分と向き合えるこのような時間が、実はとても大切な時間だったのだと、あらためて気づかされました。
 「チャリーン、チャリーン!」の合い言葉が日本中の学校にこだまして行ったら、みんながきっと笑顔になれる...。そうすれば、いじめだってきっと無くなると思うのです。「ことばの貯金箱」のもう一つのキャッチフレーズに「ことばは人を傷つけるためにあるのではなく、人を幸せにするためにあるんだと思う...」があります。「ことばの貯金箱」を通して、このメッセージが、日本中の子どもたちに届くことを願ってやみません。
 (NIE教育コンサルタント、白鷗大講師)

 ▽わたなべ・ゆうこ
 宮城テレビ放送アナウンサーを経て、仙台市公立中学校教諭に。2007年3月に退職。05年に「地域NIEキャラバン隊」を結成し、宮城県内各地の公民館などを巡回、新聞をツールに異世代間のコミュニケーションづくりを手がけている。

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 ■NIE楽しくやさしく(1)=新聞を読む姿格好いい
 子どもの頃、私は大人の新聞を読む姿に憧れていました。電車を待ちながら新聞を読む姿、縁側で新聞を大きく広げてゆったり読むお年寄りの姿に、いつか自分もあんな格好で新聞が読めるようになりたいと思っていたのです。しかし一方で、新聞ってそんなに面白いの、いったい新聞に何が書かれているんだろうという興味や疑問も抱いていました。
 最近は、新聞ではなく小さな液晶画面をのぞく大人の姿があふれています。きっと今の子どもたちは私が抱いたように、早く自分のタブレット等を持って画面をのぞきたいと憧れているのではないでしょうか。
 情報化社会の進展とともに、私たちの目に映し出される社会の光景・状況は大きく変化しました。自分の知りたい情報をピンポイントで何の労力もなく瞬時に入手することができるようになったのです。しかし新聞との触れ合いがないのではありません。日本新聞協会によると新聞は9割以上の人が読んでおり、新聞の普及度は世界のトップクラスであると報告されています。また日本で発行されている日刊紙全体の個別配給率は94・9%とほぼ全家庭に配達され、新聞は生活には欠かせないものとなっているのです。
 周知のとおり新聞は、日々の動きを伝える「ニュース面」と、くらし・家庭、科学、文化等の「フィーチャー面」で構成されています。また紙面にはたくさんの文字情報に加えて写真やイラスト、グラフ、広告等も掲載されており、「鳥の目」のようにものごとを時代的背景や地球規模でとらえたり、「虫の目」のように一人一人の喜怒哀楽を知ったりすることができます。まさに新聞は生きた情報の宝庫なのです。
 子どもの頃の私は、新聞から社会の矛盾や問題に気づき、地域や国や世界の行方に関心を持ち、社会の在り方や人の生き方に対して、今にも声をあげようとする大人の生きざまを見ていたのかもしれません。生きた情報を活用する「モデルとしての大人」の姿の復活を願わずにはいられません。
 (安藤雅之・常葉大大学院教授)

 ▽あんどう・まさゆき
 1961年、岐阜県生まれ。上越教育大大学院修了。常葉学園大付属橘小教頭、同大教育学部准教授、同大大学院准教授、教授を経て現職。専門は教育方法学・社会科教育学・生活科教育学。日本エネルギー環境教育学会理事、日本学校教育学会理事、静岡市教育委員会点検・評価委員。県NIE研究会会員。


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 ■2月22日に実践報告会
 県NIE推進協議会は2月22日午後2時から、NIE実践報告会を静岡市駿河区登呂の静岡新聞放送会館で開く。2年間の実践指定を本年度終了する8校のうち富士宮東高、焼津大村中、静岡サレジオ小の担当教諭がNIEの成果や課題を報告する。参加希望者は2月15日までに、県NIE推進協議会事務局<電054(284)9152>に申し込む。参加無料。