一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

県内教諭の実践
=新聞に興味持つ工夫を

2014年07月27日(日)付 朝刊


 興津中学校は朝鮮通信使と深い関わりの清見寺をはじめ、西園寺公望の別荘「坐魚荘」、身延街道など歴史が息づく地区にあります。
 本校の重点目標は「しっかり聴こう 伝えよう」で、さまざまな教育活動を通して実践しています。昨年度は公民の授業で「世の中紹介」と題して、一人ずつ授業の最初に新聞記事の中から自分が興味を持ったテーマを選び発表する取り組みをしました。その中で感じたことは、発表する生徒が「何を伝えたいのか」不明確で、聞いている生徒も「質問がしづらい」ということでした。
 つまり自分の考えをまとめ、相手にわかりやすく伝えることが上手にできていないといえます。この課題を克服することはNIEの目指す方向でもあり、学校の重点目標とも重なります。
 今年度から実践指定校となり、さらに踏み込んでNIEに取り組むこととしました。まず「どこでも いつでも だれでもNIE」を合い言葉に、学校図書館司書の方と協力し、新聞を職員室に置き、先生方に目を通してもらい、次の日には玄関のオープンスペースにその新聞を置き生徒が見られるようにしました。一日置いた後は、新聞ごとにまとめて、いつでも見返すことができる状態にしました。
 しかし、ただ新聞を置いてあるだけでは、生徒はなかなか読んでくれません。そこで新聞に興味を持ってもらおうと、ホワイトボードを利用し、ワールドカップ情報や富岡製糸場の世界遺産決定、富士山の入山料についてなど、その時々の話題を取り上げ、掲示し、コメントを付けています。
 昼休みや放課後に、生徒がそのテーブルに座って新聞を眺めている姿がちらほら見られるようになってきました。将来は、新聞の内容について生徒が自然に話すようになっていければと思います。
 今後は、各教科の先生と連携し、「仕事が増えるNIE」ではなく、「こんなところで使える」「こんな効果が上がる」という実践を重ねて行きたいと思います。(岩科秀明/清水興津中)

Q&A
=新聞好きにさせたい

2014年07月20日(日)付 朝刊


 小学生の子を新聞好きにさせたいが、親は何をすればいいですか。
 (浜松市・保護者)
               ◇……………………◇
 ■促すより好奇心を刺激して
 【答】家族が新聞を楽しそうに読んでいる場面を見せましょう。「読んでみたら」と促すことよりも、子どもの知的好奇心を刺激する方が効果的です。子どもが「新聞には何が書かれているの?」と興味をもつことができたら、新聞は知るとためになるさまざまなニュースを文と写真などで伝えていることを教えましょう。
 ここで大切になるのが新聞特有の表現方法を知ることです。物語や説明文など、子どもが接している文章は、要点が文末に書かれているのがほとんどです。そのため、新聞も最後まで読まなければならないと思いがちですが、最終面までが一つのストーリーになっているのではなく、それぞれの面にいくつも記事が載っているのです。
 一つ一つの記事も、見出しや文頭のリード文を読めば概要を理解することができます。紙面をめくり、どんなニュースがあるのか知る楽しさを味わったり、気になる出来事を深く知るおもしろさを味わうことができれば、自然に新聞を手に取ることが多くなると思います。
 (浜松曳馬小・山崎章成=NIEアドバイザー)

県内教諭の実践
=信頼性高い情報身近に

2014年07月13日(日)付 朝刊


 昨年4月に開校した県立駿河総合高校では、「(汎用的な)基礎力・(主体的な)探究力・(適切な)表現力」の育成を目指して、授業や課外活動などさまざまな場面で、生徒一人一人のキャリア形成支援を実践しています。今年5月から、NIE実践指定校として全国紙や地方紙合わせて7紙の無償提供を受け、組織的に「新聞を使った教育」をスタートさせています。
 本校には、卒業後は上級学校に進学して学びを深めようとする生徒も、社会に飛び出して自立を目指す生徒もいて、総合学科高校ならではの多種な系列・多様な選択科目が設定されています。個性や多様性を重んじる一方で、社会を構成する一員として備えておきたい品格や教養も大切です。本校におけるNIE実践は、そのどちらにも資する取り組みとなるよう心掛けています。
 授業の始めに記事を読み上げ、生徒に意見を求める先生もいます。記事の書き写しをさせて、正しい文字や効果的な文章構成を体得させようとする先生もいます。実践研究対象の2年生7クラスは、当番の生徒が毎日、記事のレビューを当番日誌に書いて担任に提出しています。私自身は、校内数カ所にプチNIEボードと称して、高校生にぜひ紹介したい記事を定期的に掲示しています。また、顧問を務めている報道部は、学校新聞の発行回数を増やしたり、毎週金曜、昼の放送で自分の読んだ記事に対するレビューを話すという活動を始めたりしています。
 一般に、高校生の関心や行動の源は、テレビや友達、SNSといった身近な情報源に偏りがちで、何とも狭い世界に生きているのが現状のようです。しっかりした取材に基づいた信頼性の高い新聞も親密な情報源として生かしてくれるように、「やさしいNIE」を進めていきたいと考えています。
 生徒から「先生の寄稿を読みましたよ」という声を聞くことがあれば、本校の易しいNIEも滑り出し良好と解釈したいと思います。(深沢邦洋/駿河総合高)

Q&A
=ディベートに使いたい

2014年07月06日(日)付 朝刊


 毎朝、全校生徒が同じ記事を一斉に読み、感想を書いたり意見を発表したりしています。 時間を設け、より深く読み解き考えるためにディベート大会の実施を考えていますが、記事の選び方などポイントを教えてください。
 (裾野・中学校教諭)
              ◇……………………◇
 ■異なる意見の記事を比較
 【答】事実はニュース記事、意見はコラムと明確に区別されている新聞はディベートや討論に向いている素材です。
 ディベートに利用する場合には、その内容に対する賛成意見と反対意見が同じくらいになると予想される記事を探すとよいと思います。また、異なる見方をしている二つの新聞記事を比較読みさせ、どちらに賛成するかで立場を決める方法もあります。記事はタイミングよく見つかるわけではありませんので、使えそうな記事を普段からスクラップしておきます。
 勝敗を決する競技的なディベートでは、単なる言葉遊びにならないように、根拠を明確にした説得力のあるやりとりを指導する必要がありますが、勝敗に関係なく、合意形成を図るための討論もお勧めします。さまざまな意見や立場が出てくる記事を選んで提示し、子どもたちが互いの立場の利害関係を調整する方向で討論します。
 このような討論はよりよく社会を生きる力にも結びつくと思います。希望あふれる明るい記事を読み解きながら、未来を切り拓[ひら]く討論が行われるといいですね。
 (島田川根中・矢沢和宏=NIEアドバイザー)

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=社会性、主体性育む 新聞で真の学力向上 吉成勝好さん(日本新聞協会NIEコーディネーター)が講演-静岡で県NIE推進協総会

2014年07月05日(土)付 朝刊


 県NIE推進協議会(会長・角替弘志静岡大名誉教授)の2014年度総会がこのほど、静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開かれ、日本新聞協会NIEコーディネーターの吉成勝好さんが「真の『学力向上』はNIEから」と題して記念講演した。記念講演の主な内容は次の通り。

 昨年の全国学力状況調査(学力テスト)に対する静岡県の動きなどもあって、「学力」に対する関心が高まっている。文部科学省はこれからの社会を生きる子供たちに「生きる力」を身に付けさせたいとし、それを支える一つに「確かな学力」を掲げている。
 現在、学力に関して三つの問題がある。まず、学力の低下。それから学力の格差。三つ目は学力の質。つまり、どのような学力を付ける必要があるのか、という問題だ。
 文科省が掲げる学力テストの狙いの中に、「主体的に学習に取り組む態度を養う」ことが盛り込まれていて、文科省は実はこれを非常に重視している。
 学力向上を考える上で、私は四つの視点があると思う。まず、どんな学力を目指すのか。2点目は全ての学力のベースになる言語能力をどう育てるか。3点目は、学習への「関心・意欲・態度」や「学び方」をどう育てるか。4点目は「学力格差」をどう解消するか、ということだ。
 そうした四つの視点の一つの解答として浮上してきたのが、新聞の活用に着目する論調だ。
 それでは、「新聞」を活用した学習でどんな「力」が得られるのか。例えば、生きた社会に目を向け、世の中で起きている出来事に興味や関心を持つ力、多様な情報から自分の求めているものを探し出す力、分析吟味する力など、いろいろある。
 学力テストに関する動きの背景にあるのが、経済開発協力機構(OECD)による生徒の学習到達度調査(PISA)だ。PISAショックと言われた。今、世界が求める学力というものを突き付けられたショックだった。
 PISAが評価する学力は「知識や技能を、実生活のさまざまな場面で直面する課題にどの程度活用できるかどうか」。これに対応していなかった文科省は焦って、プロジェクトチームを立ち上げた。
 そうして「PISA型読解力」獲得に向けた処方箋をまとめた。その中に、さまざまな文章や資料を読む機会や、自分の意見を述べたり書いたりする機会の充実とあり、その具体的な取り組みとしてNIE活動を挙げている。学力テストにも、新聞記事を使うなど、新聞関連の問題が多数出ている。
 学習状況調査にも、「新聞を読んでいますか」という質問が盛り込まれ、新聞を読んでいる子供ほど学力が高いという相関関係が導かれた。
 NIEを通して目指すのは、やはりまず、学力、学習意欲の向上を図ることだが、私はそれ以上に民主主義社会の担い手としての資質を育てることを挙げたい。社会に関心を持つ社会性、意見、価値観の多様性を認める人間性、そうした中で自分の意見を持てる主体性、こうした資質を育てることがNIEが得意とし、目指すものだ。これを忘れて、目先の点数だけ求めても仕方がないと思う。

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 ▽よしなり・かつよし
 1943年生まれ。早稲田大卒。玉川大教育課程修了。民間研究所・企業等に勤務後、33歳で東京の公立小学校教諭に。98年から東京都練馬区立大泉第二小校長。2004年、定年退職。在職中、東京都NIE推進協議会会長、全国新聞教育研究協議会会長などを歴任。12年4月から、日本新聞協会NIEコーディネーター。

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「真の『学力向上』はNIEから」と題し記念講演する日本新聞協会の吉成勝好NIEコーディネーター=静岡市駿河区登呂の静岡新聞放送会館


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 ■NIE楽しくやさしく(7)=読者にとって読みやすく
 新聞を読んでいて、時々、漢字で表記せず、あえて「あっせん」のようにひらがなが使われていたり、「だいご味」のように漢字とひらがなの交ぜ書きで書かれていたりする漢語を目にしたことはありませんか? また「殆[ほとん]ど」のように、読み仮名が付けられている漢字もあります。新聞の漢字は実にさまざまな使い方で表記されています。これは、日本新聞協会が常用漢字表を基本にして新聞で使える漢字の基準を作り、各新聞社が、使う漢字の範囲を決めて表記しているからです。
 使えない漢字の場合は、①常用漢字による「書き換え」(例=智慧↓知恵)、②漢語全体の「仮名書き」(例=挨拶↓あいさつ)、③漢語の一部を仮名書きにする「交ぜ書き」(例=漏洩↓漏えい)、④別の言葉に置き換える「言い換え」(例=破綻↓破れ、失敗、破局等)をしています。外国の地名や人名、外来語については、なじみ深い従来通りの表記(例=「ヴァイオリン」↓「バイオリン」)をすることになっています。
 また新聞記事は、「5W1H」(いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)の六つの要素で構成されています。すべての記事に必ず「5W1H」が入っているわけではありませんが、特に事件や事故の場合は「5W1H」を的確に盛り込んでいます。
 カギかっこ(「 」)を使う場合は、一般には句点( 。)を打ってからカギを閉じます。(例=「ありがとうございます。」)
 しかし、新聞ではカギかっこの中の句点( 。)は省略しています。
 さらに一般の文章では「起承転結」というように結論を最後に書きますが、新聞記事はまず結論を先に書き、その後に本文を書くという形をとります。見出し(タイトル)、リード(前文)、本文の順で書くことによって重要な結論を落とさず、的確にニュースのポイントを読者に伝える工夫をしています。
 新聞には、読者にとって読みやすい表記や構成等がさまざまに工夫されているのです。
 (安藤雅之・常葉大大学院教授)