一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=全国大会静岡大会から3年 公開授業の教諭は今

2016年06月04日(土)付 朝刊


 「『学び』発見-ふじのくにから『やさしいNIE』」をスローガンに、静岡市で2013年夏に開かれた第18回NIE全国大会静岡大会から7月で3年になる。公開授業を行った9校の中から当時の担当教諭6人に、その後のNIE活動について寄稿をいただいた。

 ■社会との結び付き 意識-塚本学(常葉橘高)
 昨年度、系列校の常葉学園橘高等学校に転勤した。橘高校でも、地歴・公民の授業の中で、NIE活動を継続している。内容は「スクラップノート」作り。記事を切ったり貼ったりというアナログ的な活動が気に入っている。また、共通の記事(難民問題、保育士不足など)について、みんなで考えるというスタイルだ。
 公開授業後も基本的なやり方は変わっていないが、教科書の学習内容と現実社会を結び付けて考えさせることを意識している。18歳選挙権が始まり、主権者教育が叫ばれる今日、今まで以上に社会との結び付きを気付かせることが必要だと思うからだ。
 前任校の常葉高校は女子校で落ち着いた感じだったが、橘高校は共学でクラス数も多く、スポーツも盛ん。教科の進度も確保しなければならず、多忙な学校だ。校内への広がりはまだまだだが、前任校と同様、「やさしいNIE(静岡大会のテーマ)」の活動の輪を広げていきたいと思っている。

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常葉高の公開授業

 ■各紙の考察 学習深める-小川高明(付属浜松中)
 静岡大会で提唱された「やさしいNIE」は、NIEはこうでなければならないといった縛りがなく、社会的事象を主体的に考え、表現しようとする力を身に付けさせたいとの狙いでNIEを手段として取り扱い、「誰でもどこでも無理なく楽しく」実践を進めることができたと思う。
 浜松三ケ日中での公開授業後は、総合的な学習の時間で、地域の取り組みや課題を取り上げた新聞記事をスクラップさせることによって、共通テーマ「地域の活性化」に対する個人テーマ設定に役立てた。また、「集団的自衛権」が世間を騒がせた際には、関連記事が掲載された新聞より、集団的自衛権の意味だけではなく、各紙の考察を読み取らせた上で自分の考えをまとめさせる実践を行った。今振り返ると、私のような初心者にとっても抵抗なく取り組むことができた。実践者、実践校の増加は、実践の有効性も含めた認知度の高まりにつながると考える。「やさしいNIE」が今後も継続されることを願っている。

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浜松三ケ日中の公開授業

 ■気軽に授業に生かせる-漆畑浩明(静岡市教委学校教育課)
 私は静岡城北小5年生と国語の授業でNIEを行った。あの日は夏休み初日だったため、次の授業は30日後になってしまったが、グランシップの授業と同様に、単元を通して生き生きと子どもたちは学習に取り組んだ。この単元は数時間で終わったが、その後も子どもたちは新聞を学習に生かすようになった。スピーチの題材にしたり、総合学習の資料にしたり。見出しや写真を見るだけでも、わかる言葉をつなぐだけでも、案外と記事が読めることを知り、また「読者によって記事から感じることは違う」ことも学び、「自由な気持ちで、自分なりに読めばいいんだ」と、気楽に新聞を読めるようになったようだ。子どもたちの姿を見ていると、教師もあまり気負わず、もっと気軽に新聞を授業に生かせばいいのだと思うようになった。
 「あれからNIEが現場で急速に広がった」とは言えないが、子どもたち同様、私の中のNIEの敷居も随分と低くなった。これをお読みの先生方にも、気軽なNIEを勧めたい。そのためにも、新聞が子ども一人一人の手元にある環境がもっと整ってほしい。そこは関係者の皆さんにがんばっていただきたい。
 あの子たちも中学2年生。今も新聞を面白がって読んでいるだろうか。あの頃よりもっと社会を身近に感じる年ごろになった今、あの授業が少しでも彼らの毎日に役立っていることを願う。

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静岡城北小の公開授業

 ■言語活動の教材で重宝-高島美玲(島田高)
 現在3年生のクラス担任をしているが、クラスで2冊の新聞ノートを用意して、回している。前の人の選んだ記事に対して、要約を書き、それに対する自分なりの意見をまとめる取り組みだ。そこに私が一人の大人としてのコメントを加える。1カ月に1度回ってくる程度なので、大きな負担になることなく、かつ新聞を意識的に読んだり、社会の出来事に関心を向けたり、他者の意見を知ったりする良い機会となっている。
 授業では、グローバルに関する記事や、教科書掲載の作家に関する記事などを紹介する機会が増えた。自分自身の新聞を読むときの視点が、授業で使えるか、進路指導に役立つかなどと生徒を意識したものになったということが、大きな収穫であったと思う。コラムや社説を読み、筆者の言いたいことを隣の生徒に説明させるなど言語活動を行う教材として、新聞は非常に重宝する。教室前の廊下には、副担の先生が、大学に関する記事を貼ってくれている。

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島田高の公開授業

 ■記事使用のセンス磨く-中村都(静岡城北小)
 全国大会では、「ふるさと活性化プロジェクト」(5年総合)の1時間を公開授業として設定した。情報収集手段として自由に使えるようにと毎日用意した新聞5紙は、小学生新聞では物足りないと言っていた子どもたちの要望で、授業後も継続して教室に置くことになった。新聞を活用することが生活の一部となり、それが新聞スクラップやコラムの書き写しなど、自主的に学ぶ姿につながった。にもかかわらず、思いのほかNIEが広がっていかないのはなぜだろうか。
 新聞は生きた教材である。記事の背景には必ず人の姿が見える。それは記事の主人公の生き方だったり取材記者の思いだったりする。自分自身に重ね合わせて考えることが必然的になり授業にも取り入れやすい。「どの記事を、どのタイミングで、どのように使うのか」を的確に判断する力は最終的には教師のセンスに関わってくるが、それを磨くことが新聞活用の力量向上とNIEの普及につながると信じている。

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静岡中田小の公開授業

 ■友達や家族との話題に-沢田智之(静岡市青少年育成課)
 現在、学校現場を離れてしまい、NIEに取り組む機会がないのが残念である。みんなで顔を突き合わせて新聞をのぞき込む写真が載った当時の記事を懐かしく読み返した。
 思うことは、「触れられる」情報の大切さである。手紙を書く、本を読む、辞書を引く、アルバムを残す...。触れられる情報がそこに確かにあることで、人はそれを大切にしようとする。スマートフォン、デジタルカメラ、ミュージックプレーヤーなどのデータのように、今子どもたちが触れている情報の多くは「触れられない」ものばかりである。それは簡単に手に入り、簡単に捨てることができてしまう。
 いつでも、どこでも、好きなだけ情報を手に入れることができることが「便利」を超えて「当然」になってしまうと、人は考えたり体を使ったりすることをしなくなってしまう。一人で、指で小窓をくすぐっていることが健全に人や社会とつながっているとは思えない。新聞は触れられる情報の一つとして、私は今後も大切にしたい。
 一つの話題について授業で友達とつながり、家庭で家族とつながった。自分自身、子どもたちのつながりを見つめ直す上で、「やさしいNIE」の実践は大変有意義だったと感じている。

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静岡安西小の公開授業

 【NIE全国大会静岡大会】
 日本新聞協会が2013年7月25、26の両日、静岡市駿河区のグランシップで行った。初日は山口建・県立静岡がんセンター総長の記念講演と児童生徒、教諭、保護者によるパネル討論、2日目は県内9校の公開授業、8校の実践報告と特別分科会を行った。県内や全国の教諭、新聞関係者ら約1300人が参加した。