一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=実践4校 成果と課題

 教育に新聞を活用する取り組みを展開する県NIE推進協議会(安倍徹会長)はこのほど、2019年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。実践指定校として2~3年間活動してきた県立静岡聴覚特別支援学校、川根本町立本川根中、富士宮市立西富士中、菊川市立菊川西中の4校の担当教諭が取り組みの成果や課題を説明した。

 

■プレゼン力の向上も 川根本町立本川根中 滝井玲緒教諭

 学年混合で新聞に触れる活動を展開した。全校生徒が20人の小規模校だからこそ、NIE活動でもそれぞれの生徒への丁寧な指導につながった。

 15分間の放課後学習で、新聞記事を紹介する取り組みを実施した。最初は苦戦した1年生も、上級生のプレゼンテーションを見て発表が上達した。コンビニ店の24時間営業問題の記事を題材にしたディベートではグループ内での話し合いが盛り上がりを見せ、生徒たちが自分の考えを固めていた。

 生徒と教員間でやりとりする「NIEノート」も作成。相手の価値観を理解する力が付いたほか、教員が生徒の考えを知ることにも役立った。複数の新聞を読み比べることで、一つのニュースへの異なる見方や微妙な言葉の違いを楽しむ姿勢が見られた。生徒には今後も、正しい情報収集や広い視野で考える力に身に付けてほしい。

 

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■多彩な情報得る力に 県立静岡聴覚特別支援学校 勝又一歩教諭 山根渉教諭

 自然に周囲の音が入ってこない聴覚障害児は、視覚で得られる情報で不足分を補うことが大切だ。一度に多彩な情報に触れられる一覧性や、何度も読み返せる確認性といった長所がある新聞は、非常に効果的な学習素材と考えられる。

 気になるニュースを子どもが選んで発表する学習では、初めて知る言葉を手話で説明する勉強につながった。サッカーワールドカップ(W杯)の記事を集めて結果を予想したり、紙面に出てきた地名を地図帳で調べたりする授業も行った。

 一方、子どもたちが手話でニュースを紹介し合う際、相手がニュースの文脈や意味を取り違えるケースも多かった。新聞を繰り返して読み、情報を正しく理解する力を養っていくべきだと実感した。実践を通し、指導する教員側がどのような効果を期待して新聞を取り入れるのか、明確に意識する重要性を感じた。

 

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■読解力の育成に効果 富士宮市立西富士中 大口拓真教諭 渡辺操教諭

 「読解力の育成」をテーマに文章の主題をつかみ、コンパクトに要約する力を養うことを目指した。テストでの無回答率が減少し、社会の動きに関心を持つ生徒が増える効果が出た。

 朝学習の時間では、教員が選んだ記事を題材に見出しづくりや語句探し、感想などを記入した。要約を行う際には、生徒たちが取り組みやすいように使用するキーワードを指定した。

 国語や社会だけでなく、数学や理科でも新聞を取り入れた。消費税に関する記事から、グラフを読み取る関数の学習に発展させた。リチウムイオン電池の研究で吉野彰さんがノーベル化学賞を受けた記事を使い、イオンを学ぶ授業で生徒の興味を引き出した。

 一方、記事と学習内容を関連付ける難しさなど課題も残った。新聞をさらに活用するための実践の必要性を感じた。

 

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■楽しめる活動を意識 菊川市立菊川西中 増田浩己教諭 丹所明日香教諭

 新聞を学習に取り入れる上で、生徒が興味を持ちやすいように"訓練のような雰囲気"を出さずにしたほか、教員も過度な負担なく楽しめる活動を意識した。教務主任をはじめとする7人の教員でNIE小委員会を組織し、このメンバーを核に展開した。廊下の掲示板に掲示する記事は、それぞれの個性や担当科目の話題があふれる内容になった。

 朝学習の時間には、記事を読んで質問に答えるワークシートを用意した。ニュースをテーマに自由な発想を求める取り組みも実践。若者を中心に人気が爆発したタピオカミルクティーに関する記事では、さらに売り上げを伸ばす方法を一人一人考えた。

 語彙(ごい)の増加やコミュニケーション能力の向上、知識の獲得という、読解力の素地になる三つの力が付いたと感じられた。

 

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■紙面授業 地歴 歴史を学ぶ意義は 誠恵高・木下佳也先生

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴うさまざまな動きは、新聞で連日大きく取り上げられ、一斉休校など教育界にも大きな影響が及びました。そうした中でフェイクニュースも横行し、トイレットペーパーの買い占めが行われました。しかし、このような騒動は今回が初めてではありません。1973年、第4次中東戦争の際の「オイルショック(石油危機)」がそうでした。日本ではこれを背景に、トイレットペーパーの買い占めが起こりました。

 ローマの歴史家クルチュウス・ルーフスの言葉に「歴史は繰り返す」がありますが、歴史の授業を展開していると、今回のようにかつての事象と同じような出来事に出合います。それは、私たちが歴史上の人物と同じ「人間」だからです。

 人の行動に影響を与える心理をまとめた「チャルディーニの法則」には、社会的証明(みんながしてるからOK)、権威(立場のある人の推薦)、希少性(残り○個)といったものがあります。今回われわれはフェイクニュースに引っ張られ、この原理に沿ってトイレットペーパーを買い占めました。この原理が「人間」にもともと備わっているものだからです。

 「歴史は繰り返す」。それは仕方のないことかもしれません。しかし、それでは歴史を学ぶ意味がありません。先人たちの「成功」は繰り返すために、「失敗」は繰り返さないために、「人間」は歴史を残し、歴史を学ぶのです。

 今回のトイレットペーパーの買い占め騒動はおおよそ終息しました。かつての「オイルショック」の失敗を学んだわれわれが冷静に対応できたからです。

 歴史は繰り返しますが、同じ結果にはなりません。なぜならば、われわれ「人間」は歴史を学んでいるからです。

 県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(37)記事読み批評 小論文対策に

 筆者は、この3月に卒業生を送り出した。

 その際、小論文入試の受験指導を多く行ったが、己の進路に関連のある時事問題には常に関心を持ち続けていないと太刀打ちできない、と実感している。記事を読み、思考する。そして手を動かして「文章化する」という日々の訓練が大切だ。難関大学であればあるほど、付け焼き刃は通用しないのである。コツコツと努力する姿勢を、この4月から身に付けたい。

 では、その具体的方法はどのようなものか。 

 見出しだけで良い、毎日必ず新聞紙に目を通すのだ。まずは、紙をめくるという身体を獲得すべし。どんなに部活や課題で疲れていようとも、意地でやり続けよう。1カ月で完璧なNIEの身体を得ているはずだ。

 次に、ノートに記事内容への批判をヒタスラ展開しよう。本当はそんなに反対じゃないんだけど、と思ったとしても、とにかく、批評せよ。なぜならば、クリティカルシンキング的な記述は理由を伴わなければならないからだ。この理由がある文章こそ、論文と言えるのであり、その体得が現段階での目標なのである。

 (静岡高・実石克巳)