一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=コロナ禍の社会 歴史に学ぶ 常葉高 関連記事で授業 公益、人権テーマに議論

2020年09月05日(土)付 朝刊


 静岡市葵区の常葉大常葉高で8月下旬、過去の感染症の世界的流行に今のコロナ禍をなぞらえた新聞記事を読む授業が行われた。「感染防止のための隔離政策」が「個人の自由を奪う」―という相克関係が主題。生徒は公益と個人の両方の視点に立ち、迷いながら議論を進めた。

 参加したのは1年生23人。20世紀初めのニューヨークで、健康保菌者として自覚がないままチフス菌を拡散し、島に隔離された米国人女性「メアリー」について取り上げた「大自在」(2月25日付)や、社会不安が差別や分断に転じていくカミュの小説「ペスト」の紹介記事を読んだ。生徒は関心ある部分に書き込みなどをしながら読み込み、社会不安を招く感染症の流行が世界で過去に何度もあったことに驚いていた。
 続いて、大自在の「感染拡大の防止という公益のためには個人の自由を奪ってもいいのか」との一文を重視し、グループワークで賛否を話し合った。「未来の自由のための我慢」「隔離するのは仕方ない」と個人の犠牲を消極的に肯定する意見がある一方、「健康保菌者になりたくてなったわけではないのに責任を取らされることは不条理だ」とメアリーの苦境に同情する意見も。「自由を奪われることはつらい。でも個人に自由を許せば感染が拡大してしまう」と、両立の難しさを実感する声も多く上がった。
 生徒の意見を集約したNIE担当の塚本学教諭は「社会の不特定多数の命を救うためには少数の人間の自由が制限されても仕方ないのかな、と私も思う」としつつも「ただ、弱者を虐げることをいとわない、そのつらさに気付きもしないことは大きな問題だ」と指摘。現在のコロナ禍に触れ、「記事をきっかけとした意見交換を通じて違う視点に触れ、自らの考えをバージョンアップしていくことがNIEの意義」と話した。

 

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記事のコピーで関心のある部分を囲ったり、関連して気付いたことを書き込んだりして記事への理解を深めていく

 

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感染拡大を防ぐために個人の自由の制限がどの程度まで許されるかについて、話し合う生徒たち=静岡市葵区の常葉大付属常葉高

 
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■紙面授業 地歴・公民 人類と感染症の戦い 藤枝明誠中・高 山内正邦先生
 新型コロナウイルス感染拡大のニュースが連日、新聞紙面を埋めています。振り返ってみれば、これまでの人類の歴史は、感染症との戦いの歴史でもありました。
 世界史上で有名なものはペストです。この病気は何度もパンデミックを引き起こし、特に中世ヨーロッパでは当時の人口全体の3分の1が失われたとされています。また、20世紀前半に猛威を振るったスペイン風邪では、全世界で5千万人以上が死亡したということです。
 日本史上の感染症としてまず挙げられるものは天然痘です。天平時代の8世紀前半に大流行、当時の日本人の3割以上が亡くなったとされています。その後、江戸時代のコレラ大流行など、感染症の影響は大きいものでした。
 しかし人類も負けてはいません。18世紀末、イギリスのジェンナーが始めた天然痘の予防接種を19世紀にフランスのパスツールが研究しワクチン開発に成功、医学発展につながりました。さらに20世紀前半にはイギリスのフレミングにより初の抗生物質ペニシリンが誕生、以降多くの薬学研究が進められました。
 病理学研究だけではありません。天然痘が流行した天平時代の日本では、社会不安を除く願いを込め、毘盧遮那仏[びるしゃなぶつ]つまり奈良の大仏や、国分寺を建立しました。また743年に発布された墾田永年私財法は、経済復興の手段でもありました。
 現在、私たちも先の見えない不安にさいなまれています。しかし、人類は多くの犠牲を払いながらも知恵と工夫、そして社会を変えようとする勇気により何度も立ち直ってきました。今回も日本、そして世界の明るい未来を信じ、人々が安心して手と手を取り合う世の中を私たち自身により再興できることを願ってやみません。

 県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(42) 医学部入試対策にも新聞
 現在、筆者は2年連続で3年生の担任をしている。激動の卒業生を送り出したと思ったら、波乱の受験生を受け持つこととなった。さまざまな情報が飛び交い、刻々と状況が変わる昨今だが、受験生は一意専心、粛々と勉強にいそしもう。
 今年は特に、医師になることを希望している生徒が多いクラスを担当しているので、新聞を利用した医学部受験対処法を紹介したい。
 医学部は国公立・私立を問わず、面接と小論文の双方を課すところがほとんどだ。
 面接と小論文の対策は、実は表裏一体である。世間で話題になった医療ニュースについてはあらかじめ、しっかり自分なりの意見を持っておこう。スクラップノートを作り、考えをメモしておくと良い。難しいことを言ったり書いたりする必要はなく、新聞記事の書き方である「逆ピラミッド型」で対応するのだ。
 その体得は文体獲得という目的を持ち新聞を読む・情報取得からの思考形成ツールとして新聞を捉える、という意識醸成しかない。
 実際、過去に静岡新聞の記事より、浜松医科大学医学科の小論文の課題文が引用されている。医学部合格は、教科学習だけでは勝ち取れないことを肝に銘ぜよ。
 (静岡高・実石克巳)