一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=実践8校 成果と課題(下)

2021年05月01日(土)付 朝刊


 教育に新聞を活用する取り組みを展開する県NIE推進協議会(安倍徹会長)はこのほど、2020年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。実践指定校として2~3年間活動してきた8校の担当教諭が、取り組みの内容や成果、課題を説明した。全8校の発表概要を紹介する後半の今回は、湖西白須賀小、清水西高、常葉大付属橘高、浜松西高の4校。

 

■情報を取捨選択し表現 湖西市立白須賀小 鈴木芳樹教諭 加藤健太郎教諭
 本校児童が長文を読むことや端的に文章にまとめることを苦手とする実態を踏まえ、新聞を活用した言語能力の育成を目標にした。
 「新聞クイズ」は記事の内容からクイズを出し、答え合わせをしながらどんな記事だったか児童が説明した。関心を持って楽しみながら取り組み、文字数が多くても正確に情報を読み取ろうとしていて非常に効果的だった。見出しが隠された記事の見出しを考え、実際のものと比較する実践では情報を取捨選択して簡潔にまとめ、表現を工夫しようとする姿が多く見られた。
 新聞の概念が「大人が読むもの」から「自分たちでも読めるもの」に変化したと感じる。説明文への抵抗感が減り、長文の要約力も向上した。リアルタイムを意識した上で各発達段階に適し、目的に応じた記事を選択、教材化することは難しかった。

 

20210501_01.jpg

 

■切り抜いて自分ごとに 常葉大付属橘高 塚本学教諭 杉山光輝教諭
 新聞記事を通じて生徒が自分と社会を結び、自分の意見をまとめて表現する力を養成することや、自分にできることを見つけて取り組んでいくことを狙いとした。
 授業の一環で、興味を持った記事の感想を書く「NIEノート作り」を実施した。スクラップすることで人ごとから自分ごとになる。記事について意見交換も行い、生徒からは受験の小論文や面接で役立ったと評価された。
 本校独自の課題探求型授業「タチバナクエスト」にもNIEを活用し、SDGs(持続可能な開発目標)の中から一番関心のあるテーマに関する記事を集め、掘り下げた。自分の身近なことで、どんな課題があるのかも考えてまとめた。
 生徒の様子や感想から、社会や世の中のことに関心を持つようになったと感じる。自分の言葉で意見を持てるようにもなった。

 

20210501_02.jpg

 

■即時性が学習意欲喚起 清水西高 吉川契子教諭
 一般教養や生活の知恵を身に付ける姿勢を養うために、理科の授業や自然科学部の部活動、進路指導などで新聞を活用した。
 授業では単元に応じてスクラップした記事を提示した。即時性が学習意欲を喚起するので、台風や地震などのニュースの記事は学習順序にかかわらず年間を通じて紹介した。6年ぶりに地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ2」に関しては、生徒に興味を持たせる上で新聞が非常に適切な教材だった。生徒がスクラップをして感想を書いたり、災害対策を話し合ったりもした。
 ニュースを生活に生かす習慣ができ、学習意欲の向上にもつながった。文章を読んで理解する力、書く力が向上し、誤字が減ったとも感じた。新聞の活用はさまざまな学習が深まり、広がる上で非常に重要だと考える。

 

20210501_03.jpg

 

■文章要約する能力向上 浜松西高 吉田忠弘教諭
 情報リテラシーの向上を目的とし、学習面では各教科の内容理解の深化、進路関係では大学入試の小論文や面接試験対策として効果を期待した。
 現代社会の授業の中で10分間の「新聞タイム」を設け、生徒が興味、関心を持った記事を選び、意見や感想を記録用紙にまとめた。夏休み中も新聞に触れる機会を持たせるため、「しずおか新聞感想文コンクール」への挑戦も課題とした。
 生徒へのアンケートでは文章を読み取る能力について約半数が、文章の内容を簡潔にまとめて表現する力は約6割が高まったと回答した。
 成果としては、実社会への興味の高まりや情報リテラシーの向上が挙げられる。ただ授業進度を落とさずにNIE活動を行うことは大変だった。今後はデジタル化の進行に対応したNIEの検討が急務だと感じる。

 

20210501_04.jpg

 
               ◇........................◇ 
 

■紙面授業 英語 自分の考え表現しよう 静岡英和女学院中・高 スチュアート・フレッチャー先生

 日本で働き始めた頃、日本とイギリスの生徒の違いをよく聞かれました。そんな時はいつもイギリスでは生徒は教室を掃除せず、テストも少ないと答えていました。しかし、8年近く日本での経験を経た今、日本の生徒は自分の意見を述べることが少ないと感じています。
 この違いは、両国の教え方の違いに原因があると思います。イギリスの授業では、考えることと話すことに重きを置きます。まず教師がトピックを示し、知識と理解度をチェックするための質問をします。そして生徒は議論に集中します。一方日本では、教師が講義をして、生徒がノートを取る形が続いていました。そのせいか日本人は知識を暗記することは得意ですが、自分の考えを表現することが苦手です。近年、文部科学省はアクティブラーニングの概念を「主体的・対話的で深い学び」として新学習指導要領の柱の一つに据え、この問題に取り組み始めました。最近は実践事例を紹介する記事も新聞紙面に掲載されています。
 しかし、その方法が曖昧なため教育現場は悩んでいます。イギリスでは"Pause Procedure"(一時停止法)がよく用いられます。この指導法は、教師が短い話をした後、いったん話を止め生徒にノートをチェックする時間を与えます。教師はwhyやhowのような自分の考えを深めるための質問をし、生徒同士が活発に意見を交換する場を作ります。この方法なら、授業のスタイルを大幅に変えずに実施できます。
 日本の生徒たちは自分の考えが欠けているのではなく、自分の意見を話す機会が欠けているのです。話し合いによって生徒は理解が深まり、教師も共に学ぶことができるのです。「教師は生徒の議論から学ぶ」=ラシ(フランスの神学者)=。

 県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
               ◇........................◇ 
 

■NIEアドバイザーのワンポイント講座(49)「声」が社会を動かす

 今年4月、約70年ぶりに新しい1円切手が発行されました。日本郵便の公式キャラクターのクマをデザインしたもので、「日本近代郵便の父」と呼ばれる前島密を描いた現在のものと並行しての限定販売です。きっかけは新聞の投書欄。日本郵政の社長が「他の絵柄も欲しい」といった1円切手に対する投稿に目を留めて、新切手誕生の検討を促したといいます。
 静岡新聞4月7日付の1面コラム「大自在」では、「情報源は新聞の投書欄。そこにはドラマがいっぱい転がっていますよ」という脚本家橋田寿賀子さんの言葉を紹介していました。橋田さんは投書を読みながら、人々の生活の営みや心の動きを感じ取り、ドラマ作りに反映していったのでしょう。視聴者は、主人公と自分とを重ね合わせて一喜一憂し、それがいつしか社会現象となりました。
 提供される情報に好奇心を持って向き合うと、感想以外に疑問や要望が生まれてくることがあります。それをぜひ「あなたの声」として発信してみてください。あなたの意見に共感した人々が新たな形で発信を続け、社会を動かすきっかけになるかもしれません。
 (静岡井宮小・中村都)