一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=直接請求権議論 主権者意識育む 新聞記事で全国の事例身近に 掛川・桜が丘中公開授業

2021年12月04日(土)付 朝刊


■直接請求権議論 主権者意識育む 新聞記事で全国の事例身近に 掛川・桜が丘中公開授業
 NIE実践指定校の掛川市立桜が丘中で10月に行われた公開授業は、若者の政治参加を意識した地方自治、新型コロナウイルス禍で改めて問題化した差別・偏見など、時機を捉えたテーマを扱った。市内外の教諭約50人が参観し、生徒が真剣に考察する姿を見守った。
 
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新聞報道をベースに直接請求権を学ぶ生徒=掛川市の桜が丘中
 
 「反対意見が目で見て分かりやすいのが署名活動」「効果があるとは思うが、手間がかかりすぎるのではないか」―。住民の意思を行政に反映させる直接請求権を扱った社会科の授業では、関連する新聞記事を読み込んだ後、生徒がグループで活発な議論を繰り広げた。
 溝垣駿教諭(33)は新聞報道をベースに、愛知県東栄町の医療センター建て替え計画など首長の解職請求(リコール)に発展した全国の実例を紹介した。民間産廃処理施設建設の是非を巡って、御前崎市で行われた住民投票にも触れ「もし建設に反対する市民の立場だったらどうするか。対応を考えて」と生徒に投げ掛けた。
 テーマ選定の背景には、18歳選挙権や民法の成年年齢引き下げなど社会の変化がある。溝垣教諭は「身の回りの政治に関心を持ち、地域と積極的に関わっていく生徒を育てたい」と強調する。
 今後の授業では、生徒が校区の課題を抽出し、地域に必要と考える条例案を作成する展開を予定している。主権者としての意識を養う狙いがある。
 公開授業後の意見交換会。参観した教員から「生徒が自分の考えを持っていることに感心した」「難解な言葉が多く出てきた。読解力を高めるためにどのような活動をしているのか」などの感想や質問が上がった。
 菅沼一浩校長はNIEの効果について「新聞でリアルな『今』を生徒に提示することで、自分事として主体的に学び合う姿を見る機会が増えた」と手応えを口にした。
 (掛川支局・高林和徳)
 
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住民意思を行政に反映させる方法について考えを発表する生徒

 

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■紙面授業 社会 教科越えた学び 力に 浜松修学舎中・高 上田千尋先生

先日、先輩の先生の生物基礎の授業を見学しました。「無人島に何を持っていく?」という話から、生徒たちは植生について楽しそうに勉強していました。実は地理の授業でも世界の植生について学ぶので、私にとっては他の教科とのつながりについて改めて考えさせられた授業でした。
 このように、高校で学ぶさまざまな科目にはたくさんの共通点があります。私は世界史と日本史と地理を教えていますが、生徒たちが他の科目の授業で学んだことを意識しながら授業をするようにしています。
 例えば、世界史の授業で前漢の劉邦の話をするときは、生徒たちに漢文の教科書を用意してもらいます。漢文の教科書には司馬遷の『史記』の「鴻門之会」や「四面楚歌」の部分が載っているからです。戦の天才であった項羽が、周囲の人に慕われた劉邦に敗れていく姿を読んで「なぜ項羽ではなく劉邦が勝ったのか」と考えてもらいます。
 そうすると、劉邦が中国を統一した後に、中央の土地は集権的な郡県制、地方の土地は功臣たちに与える封建制を組み合わせた「郡国制」で統治した理由が自然と浮かび上がってきませんか。
 他にも、英語の教科書で環境問題を学んでいたり、数学の先生が公式を発見した人の逸話を話してくれていたり、改めて高校生が学ぶ内容の幅広さと奥深さに驚かされる日々です。
 一つの専門分野を極めることも大切ですが、さまざまな知識や考え方を幅広く身に付けることも、社会で生きていく上で大切だと思います。例えば、最近新聞で報道されている原油高騰のニュースを理解するには、経済の知識だけでなく産油国の歴史なども必要です。高校生の皆さんは今がまさに幅広い知識を身に付ける時です。大人の皆さんも苦手だった教科書をもう一度開いてみませんか。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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NIEアドバイザーのワンポイント講座(55)温暖化知る最適な資料集

 今年は、地球温暖化に関する記事が多く登場した1年でした。
 8月、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会の報告書が公表され、人間の活動が温暖化を引き起こしていることは「疑いの余地がない」と初めて明記しました。
 10月、地球温暖化の予測研究を世界に先駆けて行った、米プリンストン大上席研究員真鍋淑郎さんらが、今年のノーベル物理学賞に決まりました。
 11月、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が、産業革命前からの気温上昇を1・5度未満に抑える努力を追求する、とした「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕しました。
 いずれも、生徒が知っておくべき大切なニュースであり、新聞記事をスクラップすると、地球温暖化に関する最新情報の最適な資料集ができます。地球温暖化や温室効果の仕組みなどを分かりやすくまとめた記事も各紙が掲載しているので、児童生徒の発達段階などに応じて利用することができます。記事を読んで地球温暖化防止のために今できること、将来どんな行動をすべきか発表させたりするとよいでしょう。
 (静岡城北高・吉川契子)