一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=実践校 成果と課題(下)

2022年05月07日(土)付 朝刊


■実践校 成果と課題(下)

 教育に新聞を活用する取り組みを展開する県NIE推進協議会(安倍徹会長)はこのほど、2021年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。実践指定校として2、3年間活動してきた6校の教諭らが取り組み内容や成果、課題を発表した。各校の実施概要を紹介する後半の今回は三島南中、掛川桜が丘中、清水特別支援学校高等部(所属校は3月時点)。
 (社会部・中川琳)

 根拠持って意見を伝える 清水特別支援学校 高等部 川上健治教諭 松原悠馬教諭
 知的障害がある児童・生徒が在籍し、高等部を対象に実践に取り組んだ。新聞に親しみ、情報を収集、活用する力を身に付けて、取捨選択して生活に生かすことができることを目的とした。
 記事の感想を書くほかに、4コマ漫画で場面や内容を読み取る活動も行った。「修学旅行の行き先は沖縄か、県内か」をテーマにしたディベートを実施。コロナ禍を踏まえて相手が納得する情報を新聞などから収集した。持続可能な開発目標(SDGs)に関連する記事を探して目標ごとに分類し、達成のためにできる行動を考えた。
 根拠を持って意見を伝えたり、写真から内容を想像したりするなどの変化が生徒にあった。一方で、障害の特性上、実年齢と学習段階が異なり、一般紙では理解が難しいという課題もある。
 
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川上健治教諭(右)、松原悠馬教諭
 
 真の情報リテラシー向上 三島南中 野口厚校長
 情報通信技術(ICT)の急激な発達によって、信頼性の低い情報を含めて情報過多の時代になった。真の情報リテラシーの向上を目標と定めた。新聞を購読している家庭は3割で、読むスキルを身に付けるところから始めた。
 国語は東京五輪の開催に関して、全国紙と地方紙の書き方の違いを比較した。社会では日中戦争当時の記事を活用。生徒は記事と教科書の内容の違いに気付いた。事実と異なる情報であっても新聞によって世論が形成される。新聞の社会的責任を学んだ。
 次第に生徒が、地元の話題や政治に関する記事に目を向けて意見を交わすようになった。本校はGIGAスクールに指定され、端末で授業を行っている。デジタルと、新聞というアナログの融合でさらに楽しい学びにつながるだろう。
 
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野口厚校長

 全教科で記事活用に挑戦 掛川桜が丘中 石神克海教諭
 情報を正しく読み、選択する能力の育成を目標に、毎週木曜を「NIEの日」として読解力の向上を図った。生徒は記事から筆者の主張を読み取り自分の考えを書いた。学力テストで「読むことに関する問題」の正答率が県や全国の平均を上回る成果が得られた。生徒にとって、新聞が情報を得るツールとして根付いたことを実感した。
 これまでのNIEの実践は国語や社会など特定の教科に偏っていたが、本校では全教科での新聞活用を目指した。生徒の関心を高めるために導入として記事を使うだけでなく、単元全体を見通し、問題解決の場面で活用できるよう授業を組み立てた。一方で、実践例が少ない音楽などでは適切に新聞を活用できなかった。今後、教材研究を深める必要がある。
 
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石神克海教諭

 

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■紙面授業 理科 地質知り 地域を理解 誠恵高 松村道宏先生

 私が住んでいる沼津市は伊豆半島の付け根に位置しています。伊豆は言わずと知れた観光地であり、私もその豊かな自然や、起伏に富んだ地形、海岸線などの景色を楽しんだり地のものを口にしたりするのは週末の楽しみだったりします。
 伊豆半島は2018年、ユネスコ世界ジオパークに認定されました。今年1月から静岡新聞では「ジオから見る伊豆風土記」というタイトルで週1回、普及活動や見どころを紹介しています。
 伊豆半島はおよそ2000万年前の海底噴火に始まり、絶えず続いてきた火山活動の噴出物がやがて島となり、フィリピン海プレートの移動に伴い北上、日本列島に衝突して現在の伊豆半島ができあがったと考えられています。
 この特徴的な地質は文化や産業とも密接に結びついており、元々が火山であった土地柄、地下の熱源が豊富で伊豆といえば温泉と言われるほど、至るところに湧き出ています。また伊豆石は建材として優れており、溶岩が冷え固まってできた堅石と、火山灰や軽石が堆積してできた凝灰岩質の軟石は、城の石垣や神社仏閣で利用されるなど石切りも伊豆の各地で盛んに行われてきました。
 こうして自分が住んでいる地域の成り立ちについて考えてみると、その文化や産業を生み出す土台になっていたことが分かり、改めて地域の魅力を再発見できます。また、大きな自然の力がどのように働いてきたのかを知れば、将来起こり得る地震や噴火、河川の氾濫などの防災や減災を考えることにもつながります。
 今は持続可能な開発という言葉が次世代へ向けての考え方の中心に据えられています。まずは地域の魅力を楽しみながら学び、考えをはせることもその歩みの始まりとしては良いのではないでしょうか。
 
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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NIEアドバイザーのワンポイント講座(59)ワークシートの効果(伊藤大介/静岡聖光学院中・高)

 先日、NIEの公開授業を行いました。今回の授業は筆者自身も改めて学ぶことが多い現場でした。どのような記事を扱うのか、授業デザインを考えていく中で再認識した点は、一般紙の文章は必ずしも中高生にとって読みやすくは書かれていないということです。だからこそ、教師側がいかに生徒目線に立って興味を持たせる記事を選択してくるかという観点の大切さを感じました。
 今回活用したのは、静岡新聞に自身も作成し提供しているワークシートでした。作成担当者が校種を考慮して作成しているので、戦争遺跡のワークシートは生徒が積極的に取り組むきっかけになりました。また、戦前や戦後の歴史に関係する複数の記事を使って独自に作成したワークシートも、新聞を読み込むのに効果的でした。
 生徒が意見表明をする前に、まず一歩ずつ事実を確認していく過程を重視すること。今回高校3年生が意見を表明する姿は、彼らが中学1年生の時に新聞を読んで意見を表明した授業の時から大きく成長していることを実感させてくれました。
 新聞は、人を成長させます。