一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=実践8校 成果と課題(上)

2023年04月02日(日)付 朝刊


■実践8校 成果と課題(上)

 教育に新聞を活用する「NIE」の県内の実践指定校8校による報告会(県NIE推進協議会主催)が2月下旬、静岡市内で開かれた。2年間活動した小中学校と高校の担当教員が、学年ごとの学習内容や成長段階をとらえて児童生徒が「社会」に触れるよう試みた事例を報告した。2回にわたりその内容を紹介する。前半は、河津南小、静岡中島小、牧之原萩間小、浜松上島小=教員の所属校は3月時点。
 (社会部・大須賀伸江)

 文章表現力磨くツール 河津町立河津南小 土屋晃子教諭
 「書く」「読む」「他教科」「特別活動」の柱を立て、言語能力を高めるツールに新聞を活用した。
 低学年はカルタ作りで絵札に用いる掲載写真を選び、読み札の文章を表現した。6年生は新聞の投書を基に意見文の構成や展開を分析した。読む活動では新聞の読み比べを通じて伝え方の工夫点を考察した。特別支援学級は新聞のクイズ作りを行い、楽しみながら読むことができた。
 教科での活用では、3年生は算数の時間に漢数字と洋数字の書き分けに気付いたり、記事から事件事故を身近に感じたりと、単元の内容と連動して社会との接点を実感した。
 成果は児童が新聞に親しむきっかけとなり、授業者も活用手法を考えることで教材研究の楽しさを実感できたこと。課題は、漢字の難しさや語彙[ごい]の少なさ。支援を要する学年がある。

 

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河津町立河津南小 土屋晃子教諭

 
 図書館を情報の拠点に 静岡市立中島小 伊東一磨教諭
 海に近い土地柄、地域では地震や津波への関心が非常に高く、児童も防災教育を受けている。東日本大震災など大きな災害の記事の掲載時期を捉えて大きな掲示物を作り、児童が付箋に感想を書いて寄せた。
 新聞の購読者が少ないため低学年、中学年、高学年で目標を分け、まずは紙面に親しむ環境作りから着手した。新聞に関わる情報を学校図書館に集中し、特設コーナーの展開や関連図書の紹介をした。
 年度当初にあらかじめ新聞を使う単元を決め、教員が見通しを持てるようにした。思いを言語化するきっかけに使ったり、新聞紙を図工の素材にしたり、端末の活用と絡めたりするなど、ほとんどの教科と関連付けて多彩な実践をすることができた。特に高学年で要約する力が伸び、事象を自分と関連付けて語る姿が見られた。

 

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静岡市立中島小 伊東一磨教諭

 
 「情報活用力」の育成へ 牧之原市立萩間小 絹村雅昭教諭
 学習指導要領の「情報活用能力の育成」に着目し、児童の成長段階を捉え、新聞に親しむ、情報を得る、活用するの3段階に分けて授業で活用した。
 東京五輪の閉会式を取り上げた6紙を見比べたところ、発言が苦手な児童からも意見が上がり、写真の訴求力を実感した。算数「大きな数」で1億より大きな数を探した。国語は記事の構成を分析し、自分の新聞作りの参考にした。
 高学年は4コマ漫画の5コマ目を考えたり、新聞記事の情報を基にクイズを出し合ったりした。話し合いを通じて児童は着眼点の違いに気付き、発想を変える楽しさを見いだしていた。
 新聞は何度も読み返せるので既に習ったことやイメージと結び付ける子どもの学びに活用しやすく、じっくり議論する教材としても良い。デジタルの長所も踏まえ、使い分けるヒントにしたい。

 

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牧之原市立萩間小 絹村雅昭教諭

 
 全教員体制で研究組織 浜松市立上島小 笠原吏沙教諭、吉田裕幸教諭
 児童数850人の大規模校。全教員でNIEを進めるために研究組織を設け、各学年で1人担当を決めた。印刷室に新聞を置いて手に取りやすいようにしたり、校内研修だよりを発行したりして、共通理解の醸成に努めた。
 各学年とも多様な教科で実践した。記者になりきって単元内容をまとめたり、新聞作りの観点から運動会の写真の選び方を話し合ったりした。記者の講話も受け、児童自身が読み手を意識した発信方法を考えた。スーパーの広告を集めて産地を調べ、物流がいかにグローバルかを体感的に学んだ学年もある。
 児童アンケートでは、友達とのやりとりで異なる視点に触れる楽しさがつづられ、「知りたい情報が集まるインターネットに比べて新聞は知らなかった情報に触れることができる」など、視野を広げるきっかけになったことが分かった。

 

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浜松市立上島小 笠原吏沙教諭、吉田裕幸教諭

 

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■紙面授業 地歴公民 少子化問題に関心を 常葉大橘中・高 杉山光輝先生

 先月、「出生数 初の80万人割れ」という見出しで、厚生労働省の人口動態統計(速報値)の内容が新聞で大きく報じられました。それによれば、2022年の出生数は前年比5・1%減の79万9728人。統計開始以来、初の80万人割れとなりました。
 政府は出生数減少を危機的な状況と認識し、今年の優先課題の一つに「次元の異なる少子化対策」を挙げました。その中で、①児童手当などの経済的支援の強化②学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充③育児休業強化などの働き方改革の推進-の3本柱を掲げ、子ども予算の倍増を表明しました。財源をどう確保するかなど、今後議論をしっかりと見ていきたいと思います。
 少子化問題は容易に解決できる問題ではありません。子育てがしやすい経済的支援強化などが重要であることに間違いありませんが、ただ人口が増加すればよいという問題ではないと思います。子どもが健康で幸せに育つ環境づくりも忘れてはなりません。ヤングケアラーや子どもの貧困、虐待など、子どもを取りまく厳しい状況も報道されています。子どもが安心して幸せに育つような支援も併せて考えていくことが必要です。
 そして、私たちが少子化問題をはじめさまざまな問題に関心を持ち続け、政府の政策や社会の仕組みが親子にとって幸せになるものであるかを考えていくことが欠かせません。
 少子化問題は、生徒の皆さんにとって最も身近な問題です。だからこそ、自分たちが住みやすい社会について積極的に考えてほしいと思います。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(69)松ぼっくりの見方変えた (小川訓靖教諭・静岡清水三保第二小=3月まで)

 小学生の宝物の、どんぐり、松ぼっくり...。学校から徒歩10分程度の世界遺産三保松原や校内に100本を超える松林がある子どもたちにとって、大量の松ぼっくりが校内に転がっているのは当たり前です。
 ある日、目にとび込んできた静岡新聞の特集記事「松ぼっくりの不思議」。そこには、乾湿で開閉することや、種子を遠くへ運ぶ仕組みが書かれていました。「この記事をきっかけに三保、折戸では当たり前すぎる松ぼっくりの見方を少し変えてみよう」と思い、早速子どもたちと特集記事を読み、松ぼっくりを拾ってきて、記事にあった実験をしました。「湯につけるとどんどん小さくなり、乾燥させると元の形に戻った」「あれが全部種子だったとは...。踏んでごめんねと心から思った」。身近すぎた松ぼっくりへの見方が、特集記事によって変わっていきました。
 さりげなく活用できるすてきなツール、新聞記事。そこには、社会の出来事以外にもさまざまな特集記事があり、幅広いジャンルが一度にとび込んできます。「雨の日は松ぼっくりの形が何かいつもと違うなと思っていたけど、こういう仕組みだったんだ」。生活経験とつなげた子どもたちの感想に学びの広がりを感じました。