一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=実践8校 成果と課題(下)

2023年05月07日(日)付 朝刊


■実践8校 成果と課題(下)

 教育に新聞を活用する「NIE」の県内実践指定校8校による報告会(県NIE推進協議会主催)が2月下旬、静岡市内で開かれた。2回にわたり、各校の2年間の取り組み成果や課題を紹介する後半は、静岡大成中、浜松学芸中・高、御殿場南高、藤枝東高=教員の所属校は3月時点。
 (社会部・大須賀伸江)

 思考、判断、表現力 向上へ 藤枝東高 矢代哲子教諭 深沢拓教諭
 新しい社会を生き抜くためには思考力、判断力、表現力が求められている。入試に関しても同様であり、新聞を活用して力を伸ばそうと計画した。
 クラス日誌に新聞の感想を書く欄を設け、全生徒が記事に触れる機会とした。話題が豊富で進路意識にもつながるが、1面を見る生徒が多く、特集記事をもっと見てほしかった印象だ。医学部や看護学部などの口頭試問対策や、大学の最新の研究を知り、進学後を見据えるツールとしても有用だった。生徒は読み、まとめる作業を繰り返すことで読解力や表現力が高まった。家庭科では平均寿命が縮んだ原因はコロナ禍かという記事で、生徒は共感していた。
 課題は、教員が読む機会をつくらないと自主的に読むことが少ないこと。また、教材に使う場合はデジタルデータを扱える方が勝手が良いと感じた。

 

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藤枝東高 矢代哲子教諭 深沢拓教諭

 

 生徒自ら手に取る環境 御殿場南高 芹沢光教諭
 生徒主体で楽しく手に取る機会を設けた。複数の紙面を比較して掲載面や構成を調べてスクラップを作り、講座も受けた。生徒は記事の内容を理解した上で「自分の地域なら」「自分なら」と自分ごととして分析した。
 生徒自身がクラス対抗の「新聞合戦」を企画した。毎週テーマを決め、該当する記事を多く張り出したクラスが勝つルールで盛り上がった。企画した生徒有志は手応えを得て、学年の新たなレクリエーションに発展した。
 一人一人が好きなテーマの記事を収納する「新聞探究ポケットノート」も作成した。紙を開く仕掛けを楽しんでくれたほか、個々の関心の向きを知る手掛かりになった。最終的な調査では「新聞を全く読まない」と答えた生徒は減った。自ら新聞を手に取った結果であり、伸びしろがある課題とも捉えている。

 
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御殿場南高 芹沢光教諭

 
 批判的思考に踏み込む 浜松学芸中・高 大場裕幸教諭
 教員間で新聞は有用な情報ソースであり、教材に適しているとの共通認識がある一方、生徒はほとんど読んでおらず、いかに生活に結び付ける仕掛けをするかが課題となった。2008年の中学設立以来、社会科で行ってきたスクラップブックリレーを朝の会に変えた。日直が注目した記事を要約して紹介する活動で、各分野の担当教員が助言することで、生徒が多様な視点に触れるきっかけになった。
 キャリア教育では人物インタビューを張り出し「どんな職業に就きたいか」より「どんな人になりたいか」への意識を高めた。生徒が事象を「受け止める」だけでなく「疑問を持つ」ことが重要と考え、日本新聞協会の新聞コンクールで生徒の批判的思考力を高めることを目指した。英字新聞の見出しの翻訳では、想像力を生かして単語を推測する力を向上させた。

 
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浜松学芸中・高 大場裕幸教諭

 
 取り巻く社会に目向け 静岡大成中 片井奈美教頭
 活動目標は「自分を取り巻く社会に目を向け、視野を広げる」。生徒会のアンケートで新聞になじみが薄いことが分かり、1年目は掲示から始めた。関心を集めたSDGs(持続可能な開発目標)を切り口に、2年目は「不平等をなくす」などをテーマに、全クラスの壁新聞作成や、生徒会で静岡大成中の新聞作成に取り組んだ。クラスごとの壁新聞作りでは生徒が記事を持ち寄り、熱中して話し合った。学年やクラスの「らしさ」が表れた良い壁新聞ができた。
 教科指導でも英語と理科で採り入れた。英語で英文記事を選び周囲に紹介したり、理科では天気の単元で、記事や天気図を用いたりした。
 学校でICT(情報通信技術)の活用が進む中で、新聞記事データを生徒の端末に配布した。図書室に新聞各紙を置いているが、生徒からは「データベースの方が触れやすい」という実感があるようだった。

 

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静岡大成中 片井奈美教頭

 

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■紙面授業 数学 「見えない」知識 面白く 静岡聖光学院中・高 佐野弘貴先生

 最近、生成系AI(人工知能)と呼ばれる技術についての記事が新聞によく掲載されています。AIの精度は日に日に上がってきていると聞きますが、まだ完全に正しい内容が答えとして返ってくるわけではないそうです。
 数学はよく「見えない部品」だと言われます。自動車にとってのネジ、AIにとってのキーボードやコードの列が「見える部品」だとしたら、算数・数学の知識や技術は「見えない部品」としてそれらに内蔵されているということです。2進数や微分や積分など、その一部をなんとか見えるようにしようと先人が努力した結果が、文字や記号として教科書に整理されて載っているのです。これらの知恵を学び、文化を継承するということが、算数・数学という教科がある理由の一つです。
 また、算数・数学は、答えまでの道筋を考えたり、書いてある内容が本当かどうかなどを自分で確かめたり説明したりする学問です。たとえ人が書いたものでもAIが出力したものでも、その内容をまずは疑い、自分で判断しなければならないのは今までもこれからも変わりません。
 しかし、ICTが急速に発展してきている今、情報をうのみにせず、その真偽や次の行動を自分で判断しなければならない場面が圧倒的に増えています。書いてあることを自分なりに解釈し、正しいことを積み上げようとする姿勢を作る第一歩として、算数・数学があるのだと思います。もちろん、算数・数学を学ぶ意義は他にもたくさんあります。
 最後に、「見えない部品」の話をしましたが、私自身は「見えないからこそ数学は面白い」と思っています。この「面白い」という気持ちもAIに任せることなく、私たち自身で感じたいものです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(70)教科書と今をつなげる(中村都教諭・静岡千代田小)

 新年度に入り、子どもたちは進級した学年で使用する教科書を手にしました。真新しい教科書とはいうものの、制度上、教科書には直近2年間の情報は入りません。来春から小学校で使われる教科書は新型コロナウイルス禍の2022年4月ごろまでに各教科書会社で執筆、編集され、22年5月から検定を受けたものです。しかし、検定に合格した教科書でも、この4月からの、学校での「マスクの着用を求めない」にそぐわないマスク姿の写真掲載については修正・変更を余儀なくされているものがあると聞きました。教科書で「今」を学ぶことは難しいのかもしれません。
 さらに、最新の話題に取り残されたくないという「倍速視聴」の風潮からしてみても、教科書以外で「今」を補う必要性を感じます。教科書で学んだことを知識として深めていくために、「今」が満載の新聞の活用は欠かせません。一つの記事から「今」を知ることで、社会背景やそれに関わった人々の姿が見え、多角的に物事を考える力をつけることができるからです。
 新聞は深い学びに導いてくれる情報の宝庫です。「新聞は難しい」と考えている先生。まずは、ワークシートから始めてみませんか。