一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=就職見据え 職業観養う 記事を読み込み自己表現力強化 静岡北特別支援学校南の丘分校

2023年06月04日(日)付 朝刊


■就職見据え 職業観養う 記事を読み込み自己表現力強化 静岡北特別支援学校南の丘分校

 NIE実践指定校の県立静岡北特別支援学校南の丘分校(静岡市駿河区)は、授業のほか、朝や帰りの時間などさまざまな場面で新聞記事を活用している。大半の生徒が卒業後に地元企業などに就職するため、地域の課題を学んで職業観を養ったり、自己表現の方法を身に付けたりするのに役立てている。

 

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社会人像について話し合う生徒ら=5月中旬、静岡市駿河区の県立静岡北特別支援学校南の丘分校

 
 5月中旬の朝、一つの記事の内容を整理し自分の意見をまとめる「NIEチャレンジ」が3年生の教室で行われた。この日は、バス通学する高校生が、2人のバス運転手の振る舞いの違いについて書いた本紙読者投稿欄「ひろば」の投書が題材。生徒は記事を読んで解答をワークシートに記入した後、目標とする社会人像を話し合った。
 山影凌雅さん(17)は「仕事にやりがいを持っている人とそうでない人がいると分かった。自分はやりがいを感じられる仕事をしたい」と感想を述べ、「世界で起きていることも身近な話題も、他の人の考えも分かるのは面白い」と新聞の魅力を語った。
 同校の生徒は軽度の知的障害を抱える。昨年から新聞活用を進めてきた鈴木雅義教諭は「生徒は自ら情報にアクセスするのが難しいので、新聞を読む場を増やすことは意義がある。新聞を開けば気付きが生まれ、世界が広がる」と期待する。
 扱う記事の内容は、地域で活躍する人や性教育、生活の知恵、スポーツ、株価など幅広い。必ず教員が複数回音読し、キーワードに線を引かせる。ワークシートは本紙のシートを作り替えて、記事中の言葉を抜き出すものから自分の考えをつづる設問へと導き、生徒の理解をサポートする工夫をしている。

 

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キーワードを探し、ワークシートで内容を整理する生徒

 
 定期的に行うアンケートで、最初は日常生活で新聞に親しむ機会が少ないという生徒が目立ったが、最近は廊下に置かれている複数の新聞に目を通す姿も見られるようになったという。鈴木教諭は「情報が生徒自身の助けになることを知ってほしい」と話す。
 (教育文化部・鈴木明芽)

 

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■紙面授業 理科 月面着陸計画を身近に 常葉大常葉中・高 篠﨑絢先生

 アポロ計画から半世紀以上がたち、人類は再び月面着陸を計画しています。アメリカ航空宇宙局(NASA)の国際共同プロジェクト、アルテミス計画です。
 この計画は月と地球を往復し、人や物資を運んで施設を造ることや、月を足がかりとし、さらに遠くの天体探査を行うことを目的としています。そのために、最も強靱[きょうじん]な推進力をもつロケットが開発されました。スペース・ローンチ・システム(SLS)です。過去のロケット開発から改良とテストを繰り返し、10年以上をかけ知恵と技術を結集しました。
 SLSのメインエンジンの燃料は液体酸素と液体水素です。地球上には酸素があるので、車や飛行機は燃料を燃やして推進力を得ますが、宇宙には酸素がないので、持っていく必要があります。酸素はマイナス183度で液体になり、体積は気体の約860分の1になります。水素はマイナス253度で液体になり、体積は気体の約800分の1になります。液体にすることで効率的に運搬と制御ができます。
 大がかりなロケットの仕組みにも、学校の化学で学習する、物質の状態変化や燃焼反応といった化学変化が利用されています。組み立て方の工夫や人が乗ることに配慮した点等、気になった点があれば調べてみるのもよいでしょう。
 アルテミス計画は3段階から成ります。第1段階は昨年成功しており、無人の宇宙船オリオンを月周回軌道上に乗せ、6日間滞在した後、地球に帰還しました。第2段階は来年、宇宙飛行士が搭乗し、さまざまなテストを行う予定です。第3段階は2025年以降、有人月面着陸や月周回軌道上に有人の宇宙ステーションを建設する予定です。
 この歴史的な計画をリアルタイムで見ることができるのですから、ぜひ技術の進歩を知ることで期待感を高め、結果を見守りましょう。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(71)社会を自分事で捉える(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)

 高校生の担任になると、生徒の進路に関する面談が増えてきます。特に高校3年生の場合、大学受験のために小論文対策や面接対策として新聞記事を活用するように勧めることが多いです。生徒が主体的に新聞記事を活用できるように、筆者は高校2年生のクラスのHRで本紙のワークシートに取り組ませ、一人一人に赤ペンで解答のポイントを書き込み返却する機会を設けました。
 また生徒が高校3年生になった時には、校舎の掲示板に統一地方選挙の記事を貼り付け、社会に目を向けさせる環境整備も進めました。記事を気軽に見て、時には読み込み、自身の言葉で表現する機会を増やしていくこと。生徒が社会の出来事を自分事として捉え、進路選択に生かしていくこと。生徒の目線を忘れずにこれからもそのような新聞の活用事例を増やしてきたいと思います。
 先日本紙の「紙面授業」で、本校の数学科の教員が近年のAIの記事から数学の魅力を伝えていました。新聞記事を自分事として捉えるその文章に多くの教員が感想を述べあっている様子が、新聞の魅力の一端を伝えているように感じました。
 言葉を大切にする新聞が、人の輪も広げていくという「優しい」NIEを実感した出来事でした。

 

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■横浜で「まわしよみ新聞サミット」

 ニュースパーク(日本新聞博物館)は18日午後1時から、「全国まわしよみ新聞サミット」を横浜市の同館で開く。全国の新聞約120紙を使い、関心のある記事を切り取り、グループ内で紹介し合い、その記事を集めて新聞を作るワークショップ。講師は発案者の陸奥賢さん。定員60人。参加無料(要入館料)。希望者は、メールに住所、氏名、年齢、電話番号を明記し<npevent@pressnet.jp>へ。