一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=記事や若者投稿活用 独自の「時事」授業 考え、まとめる力に磨き 沼津・飛龍高

2023年10月01日(日)付 朝刊


■記事や若者投稿活用 独自の「時事」授業 考え、まとめる力に磨き 沼津・飛龍高

 沼津市の飛龍高は今年4月から、元県教育長の安倍徹学園長(70)が中心となり、3年生に独自科目「時事」を設けて新聞を活用した教育に取り組んでいる。社会問題を取り上げた記事だけでなく、同世代の新聞投稿も題材にし、生徒たちにも投稿を促して文章力の向上にも役立てている。

 

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ワークシートや生徒の作文を読み、授業の進め方を話し合う(左から)安倍徹学園長、佐藤正和副校長、原千容教諭=6月中旬、沼津市の飛龍高

 

 同校の生徒はおよそ3分の1が卒業後すぐに就職するため、社会人として必要な知識を得るきっかけとして週1回「時事」の授業を設定した。テキストを兼ねたワークシートは、安倍学園長が中心となって作製。教員4人がそれぞれクラスに合った指導法で授業を進めている。

 

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若者に人気のインフルエンサーを取り上げた記事や、高校生の新聞投稿などを盛り込んだワークシート

 
 6月の授業では、新聞記事をまとめた資料集も活用し、日本の低い食料自給率や、就農人口減少について学んだ。生徒たちはロシアのウクライナ侵攻による穀物価格の上昇や、大雨など気候変動による農業への影響についても意見を交わした。
 授業は、生徒が自ら考え、意見をまとめる力を身に付けることを力点に置く。紹介する記事には、高校生ら同世代が活動した話題を選んだり、記事に呼応する高校生の投稿も併せて紹介したりして、共感を促す。佐藤正和副校長(63)の授業では高校生の投稿の見出しを空欄にし、生徒に考えさせた。「投稿は短い文章で伝えたいことをまとめている。さらにその要素を抽出したのが見出し」と、授業の感想を短い文章でまとめる参考にするよう助言した。別のクラスを担当する原千容教諭(23)は「授業を重ねる度に生徒の文章量が増えてきた」と手応えも感じ始めている。

 

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同世代の投稿が載った新聞紙面を使い、授業をする佐藤正和副校長=6月中旬

 
 ワークシートには、SDGs(持続可能な開発目標)や気候変動など、現在進行形で進む社会課題を扱った記事や、生徒の関心を引きやすいSNSで活動するインフルエンサーを紹介した記事、コラムなども盛り込む。安倍学園長は「きっかけを作れば、生徒たちは関心を持つ。新聞を通じて社会を身近に感じてほしい」と期待する。
 (東部総局・尾藤旭)

 
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■紙面授業 理科 ミツバチの働き思う秋 静岡雙葉中・高 木村剛先生

 今年の夏は世界的に記録的猛暑が続き、連日国内外の暑さのニュースが報道されました。米航空宇宙局(NASA)は6~8月の世界の気温は記録が残る1880年以来、最も高かったと発表し、国連のグテレス事務総長は「気候崩壊が始まった」と警告。日本も気象庁が1898年の統計開始以来の暑さだったと発表しています。9月末には、静岡市で最高気温が35度以上の「猛暑日」を観測史上最も遅く記録しました。

 こうなると、待ち遠しいのが秋。秋を実感できることの一つとして「食欲の秋」が挙げられます。さまざまな作物が収穫を迎える実りの秋です。コメを筆頭に、サツマイモやクリなどの木の実、ナシや柿などのフルーツ、そしてキノコに至るまで旬のものが出回ります。
 私たちが口にする作物の「実」は多くの場合、花の雌しべの付け根である子房という部分に当たります。この「実」ができるには受粉が必要ですが、その受粉の役割の中心を担うのは、「とある虫」なのです。国連環境計画(UNEP)の報告によると、「世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、7割はミツバチによって受粉を媒介している」と言われており、私たちが生きていく上で、ミツバチは非常に重要な役割を果たしています。

 静岡の特産物であるイチゴを育てる農家は、ビニールハウスの中で受粉用のミツバチを飼育しています。私も昨春から学校の屋上でミツバチの飼育を始めました。静岡市の中心部ですが、結構な量のハチミツを採ることができました。ミツバチの見事な働きぶりに驚かされます。
 ハチミツの収穫は、春にピークを迎え、夏に終わります。人にとっては、過ごしやすく楽しみな「実りの秋」ですが、花の少なくなった秋は、ミツバチにとって、仕事の少ない寂しい季節なのかもしれません。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(75)「出合い」逃さず授業に活用(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)

 ある新聞記事に、以前から興味のあった人物のことが書かれていました。こういう時にはいつもより丁寧に時間をかけて記事を読みたくなります。その人物とは1970年の大阪万博で「太陽の塔」を制作した岡本太郎氏のことで、縄文土器に魅せられたことが「太陽の塔」の創造につながったという内容が印象に残りました。
 こういう記事との出合いを筆者は逃したくありません。早速、中学生の歴史の授業で縄文時代を考察する場面で記事を使いました。
 まず黒板に自ら手書きで太陽の塔を描きます。生徒から笑い声が聞こえると、記事を配布するタイミングです。「君たちが今日学習する縄文時代に関心を高めてこの塔を建てた人物が記事に書かれているよ」
 笑い声が消え、生徒は文章へ集中し始めます。2025年に大阪・関西万博が開かれる話題に触れながら、縄文時代という過去と太陽の塔という現代をつなげていく。自らが興味をもった記事だからこそ、その日の授業の目標にどのように生徒を近づけていくか。新聞記事は、日常の授業の中に新たな刺激を与える魅力的な教材の一つになる可能性があります。肩の力を抜いて新聞を授業で使ってみてはいかがでしょうか。