一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=学校行事 紙面化 表現力磨く ワークシートで読解力も向上 浜松 春野中

2024年02月04日(日)付 朝刊


■月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=学校行事 紙面化 表現力磨く ワークシートで読解力も向上 浜松 春野中

 浜松市天竜区春野町の春野中はNIE実践指定校となり2年目の本年度、学校行事を振り返る新聞の作成に取り組んだ。生徒たちは写真と記事で1枚の紙を埋める作業を通じ、体験や感想を生き生きと表現する力の向上につなげている。

 

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新聞作りに取り組む生徒たち。体験内容や感想をつづる=浜松市天竜区春野町の春野中

 

 「見出しは短く、インパクトがあるようにしないと」「写真はここに貼ろうかな」-。2年生が総合学習の時間を活用し、11月に開かれた学習発表会「黎明[れいめい]祭」の様子をつづっていく。2時間ほどすると、一点物の新聞をほぼ完成させる生徒の姿もみられた。
 昨年4月以降、職場体験や陶芸体験などの学校行事を振り返る機会として新聞作りを重ねてきた。「春野の魅力新しく発見」「とても緊張した職場体験」といった見出しからはそれぞれの個性が浮かぶ。2年の山田偉葵[いさき]さん(14)は「新聞には難しいイメージがあったが、意見をまとめたり見出しを考えたりしているうちに面白さを感じるようになった」と話す。

 

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これまでに作成した新聞

 
 新聞記事を使い、放課後の時間に約15分学習する活動も重視する。静岡新聞のNIEウェブサイトからダウンロードした「新聞ワークシート」を活用し、記事から読み取るポイントを考える問題に回答していく。地域の課題への理解を深めるとともに、読解力を養うことに役立てている。
 生徒に行ったアンケートでは、ワークシートに取り組んで以降、読解力が「高まった」「少し高まった」との回答は2~3年生全体の9割に上った。「テストの問題の意味を理解できるようになった」「本の内容を要約することが容易になった」などの感想からは、文章を読み取る力が普段の学習に好影響を与えている状況がうかがえる。
 NIE学習に取り組む全校生徒数は47人。教諭間で試行錯誤を重ねてきたことで、指導ノウハウの向上にもつながっているという。NIE学習を担当する武井千幸教諭は「少人数の学級だからこその丁寧な指導で、伝える相手を意識した言葉の学習に取り組んでいる。全ての教科に必要な表現力や集中力の向上につなげていきたい」と話す。
 (天竜支局・平野慧)

 
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■紙面授業 英語 自然史進展に人間模様 磐田東中・高 内海暁子先生

 英自然科学者チャールズ・ダーウィンの「種の起源」(1859年)の土台となるノートが一昨年春、行方不明から約22年ぶりに所蔵元の英ケンブリッジ大図書館に匿名で返却されたと報道されました。1837年に書かれたノートには、自然選択による進化論の基となる概念や「生命の樹」のスケッチが書き込まれ、ダーウィンが進化論を20年以上温めてきたことをうかがわせる超一級の資料です。
 進化論の発表は、小説「シャーロック・ホームズシリーズ」や「不思議の国のアリス」が誕生したビクトリア朝時代の英国で、科学上の大事件となりましたが、刊行の立役者となったのが年下のライバル、博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスだったことはあまり知られていません。
 ウォレスはダーウィンとほぼ同じ理論に独自に到達していましたが、ウォレスからの手紙で互いのアイデアの類似に驚いたダーウィンは、この長年温めてきた理論を1年で「種の起源」にまとめ上げます。それを知ったウォレスは、「自然選択の理論はあなただけのもの」であり、自分の功績は「執筆と公表を促したことのみ」と、後にダーウィンに書き送ります。ウォレスはダーウィンの「大ファン」でした。
 昨年はウォレス生誕200周年を祝うイベントが世界各地で開かれました。ダーウィンの名声の影に隠れても、後世に与えた影響の大きかったことの証しでしょう。自然史の進展の裏の人間模様に驚かされます。スペインの国立自然科学博物館では、夏までウォレス展が開催されています。日本でも国立科学博物館が昨夏、運営難の資金協力を呼びかけたところ、初日で目標の1億円を達成して話題になるなど、自然史への関心は世界共通。今は貴重な原典も世界中のウェブサイトで気軽に閲覧できます。ぜひ大科学者たちの足跡を身近にしてみてください。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(79)政治不信から希望 語り合う(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)

 勤務校では1月下旬に卒業式を迎えるため、例年この時期、高校3年生は各教科で最後の授業を受けます。筆者が自身の最後の授業で設定した課題は、「魅力的な政治とは何か」。1年間のNIEの取り組みのまとめも関連づけた授業では、選挙での若年層の低投票率も考慮し、現在と高3生が生まれた年の政治の記事(「郵政解散」)を複数用意しました。
 授業の後半で「あなたが考える魅力的な政治や政治家を説明しなさい」という問いに、生徒は積極的に意見表明を行っていました。政治の問題では教員としての中立的な立場を意識しながら、一人の大切な有権者を育てるために政治的な現象の本質に迫る必要があります。能登半島地震を支援する記事の一方で、昨年末からの国会議員による政治資金収支報告書不記載問題の連日の報道記事は、生徒たちの政治への魅力を確実に引き下げています。
 筆者は政党助成法の制定や政治資金規正法改正の経緯を、配布した新聞記事で丁寧に生徒と考察しました。NIEの魅力は、記事から受け取る政治への不信を希望に変え、政治を前向きに語れる授業ができることです。生徒は記事も大人もしっかり見つめています。