一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=読み手に届く新聞を コンクール入賞常連校の富士東高 流行や時事問題 等身大の視点で

2024年03月03日(日)付 朝刊


■読み手に届く新聞を コンクール入賞常連校の富士東高 流行や時事問題 等身大の視点で

 富士東高新聞部(富士市)は県高校新聞コンクールの上位入賞常連校。「読み手に届く新聞」をモットーに、コロナ禍でのマスク事情や「推し活」など、高校生が気になる話題を追いかけて取材に励んでいる。

 
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制作した新聞を並べて企画について話し合う部員たち=富士市の富士東高

 
 部員は2年生と1年生計10人。放課後の部室には、毎日のように多くの部員が集まってくる。新聞づくりの活動時間以外でも情報のアンテナを張り、何げないおしゃべりが取材のネタにつながることもある。部員らは「仲間と一緒に街へ出て取材するのが楽しい」「自分で考えて動けることが新聞部の魅力」と口をそろえる。
 主な活動は年3回発行し全校生徒に配る「富士東高校新聞」の制作だ。企画会議では、1人当たり四つのアイデアを持ち寄り4、5時間かけて紙面の内容を議論する。構成の決め手は、読み手である高校生の興味を引くこと。アイドルやキャラクターを応援する「推し活」に取り組む先生へのインタビュー、コロナ禍でのマスク着用に関する校内アンケートなど、流行や時事問題を高校生の視点で記事にしている。ネタ探しにはインターネットやSNSのチェックも欠かさない。

 

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これまでに発行した新聞

 
 地元を知ってほしい思いから、硬派なネタにも意欲的だ。昨年の県高校新聞コンクールで優秀賞を獲得した第126号では、地元の田子の浦港における環境問題を取り上げた。複数の漁港関係者を取材したほか、問題を身近に感じてもらおうと、生徒によるルポも用意した。部長の福井理央さんは「普段の学校生活やインターネットでは知ることができないことを、自分から調べたり体験できたりするのが新聞づくりの面白さ」と語る。
 富士東高校新聞のほか、各部活動の大会結果を写真とともに伝える「写真版速報」や校内行事の様子を紹介する「東高タイムズ」も制作している。こうした新聞がクラスに掲示される瞬間は部活動の醍醐味[だいごみ]の一つ。福井さんは「クラスメートが自分の撮影した写真を見て喜んでくれると、新聞の力を感じる。形に残るのが紙媒体の良さ。読まれる紙面づくりに挑戦していきたい」と力を込める。
 (富士支局・沢口翔斗)

 
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■紙面授業 地歴公民 小さな善意が動かす力 藤枝明誠中・高 山内正邦先生

 元日に能登半島を襲った最大震度7の地震は、甚大な被害が報道され、南海トラフ地震が懸念される静岡県民にとって人ごとではありません。日本は地震列島とも呼ばれ、最古の歴史書の一つ「日本書紀」にも地震被害が記されています。近年起こった震災では、国内だけでなく海外からも支援の手が差し伸べられていますが、特に忘れてならないのはトルコの存在でしょう。
 トルコとの友好関係は、1890年のトルコ軍艦エルトゥールル号遭難事件から始まったとされます。
 台風のため難破した乗員を救助したのは、漁村の大島村(現在の和歌山県串本町)の村民でした。村民総出で生存者を捜索し、負傷者を看病し、回復すると本国へ送り届け義援金も送りました。この勇気ある村民の行動は、後にトルコで教科書にも掲載されるほど広がりました。
 この出来事を日本人が改めて思い出したのは、1985年イラン・イラク戦争の時でした。開戦でイラン国内に取り残され帰国困難となった日本人を、事件の恩を忘れていなかったトルコが、航空機で自国民より優先して救出してくれたのです。
 さらに2011年の東日本大震災時には救助隊や物資をいち早く届けてくれました。日本も23年のトルコ・シリア地震ではトルコを支援し、両国は互いに支え合う関係になっていきました。
 遭難事件の際、村民はただ目の前の命を救おうとする一心で救助を行ったに違いありません。しかしそれは確かに日本と世界を変えたのです。小さな一人一人の善意が、波状的に大きな力になることは歴史が証明しています。被災地に心を寄せること、そして人々の助け合う心が、能登でもそしてこれからも、復興に向けた力強い歩みにつながると信じています。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(80)被災地の現実 自分ごとに(吉川契子教諭/静岡城北高)

 大災害が発生した際、私は新聞各紙を買い集めて教室に持って行きます。阪神淡路大震災の時から始めて現在まで継続している方法です。生徒にも新聞情報に注目するよう呼びかけます。
 能登半島地震では記事の持参を高校1年の全クラスで呼びかけました。地震動による家屋の倒壊や津波、液状化、地盤の隆起、土砂災害。長引く避難生活と停電・断水。自然が猛威を振るい、被災地の人々が困難な暮らしを強いられている現実を知ります。
 記事を読み、自分ごととして捉え、どのように関わりたいか、考えたことを生徒に発表してもらいました。
 家庭で改めて防災対策を話し合い家具の固定などを行った、発災時は支える立場として災害復興に尽力したい、看護師として治療と心のケアにあたりたい、教員になって子どもたちに地震のことを伝え、共に防災対策を考えたい、と多様でした。皆が力を合わせて困難を乗り切っていくことが大切であると気付いた生徒もいます。
 阪神淡路大震災時の教え子が今回、いち早く被災地支援を行ったことを知りました。学習したことが生徒の心に残り、次なる行動に結びつく。新聞からの学びの意義を確信しています。