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「ある精肉店のはなし」纐纈あや監督トーク(上)

 7月20日、静岡市駿河区の絵本専門店「ピーカーブー!」で、ドキュメンタリー映画「ある精肉店のはなし」の上映会が行われました。今年3~4月に浜松市のシネマイーラでも公開していました。今回は、纐纈(はなぶさ)あや監督が来場し、約30人の参加者を前に、作品の意図や撮影時のエピソードを語りました。トークの様子をお伝えします。(橋)

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 牛の生産から食肉処理、販売までを自分たちで行う大阪府貝塚市の「北出精肉店」。映画は家族経営のこの店を通じて、命をいただいて生きる人間のありよう、家族の絆、差別の歴史など、多面的なテーマを提示します。
 
  監督はまず、製作の動機について語りました。
  「もともと屠場に興味があったんです。自分が食べている肉の出どころを見たことがない。野菜や魚は見たことがありますよね。でも肉は見たことがない。一度見ておかなくては、という思いがありました。そんな時に(プロデューサーの)本橋成一さんが、ある屠場に通って写真を撮っていた。好奇心があって、くっついていったんです」
 
  初めての屠場では、先入観を覆されました。
 「無機質な場所を想像していたんですよね。映画『命の食べ方』のイメージ。機械的に肉になっていく、というような。冷たくて重くて暗くて、悲壮感が漂っている場所ではと。でも1歩足を踏み入れたら『熱気』を感じた。冷たい場所ではなかったんです。後から知ったんですが、屠場では肉から出る脂を取るために水とお湯を流している。牛もノッキング(頭部に衝撃を与えて気絶させること)した後、1~2度体温が上がるんだそうです」
 
 感じたのは実際の温度の上昇だけではありませんでした。
 「エネルギーが充満する熱さ。人間が自分の10倍ぐらいの大きさの牛に対峙して、全身から大汗をかきながら命と向き合っている。ちょっと見ただけで危険な仕事だと分かるわけです。殴られたような衝撃を受けました。目の前で行われている作業に、まばたきも忘れて見入りました。これを知らずに30数年間生きてきたのか、と思いましたね」
 
 映画化したいという強い思いが湧き出しました。
 「この仕事に差別や偏見が向けられるのは違うだろう、と。これを正面から見せることができたら、印象が変わるはずだと確信しました。『命が絶たれる』ことがない限り、食べ物にはならない、という事実。これは文章や写真では表現し切れない。映像だからこそできることだと思ったんです」
 
 この衝撃から3年後に、知人から「大阪にすごい肉屋がある」と紹介されたのが「北出精肉店」。
 「屠場を映像化することは、ずっと心の中で温めていました。各地に屠場がありますが、北出さんのようにナイフ1本で解体するところはほとんどなかった。この技術を『記録』として撮ることが必要だと思いました」
 
 2012年3月に行われた貝塚市の屠場の見学会を訪れ、映画化を決意しました。
 「帰りの新幹線の中で企画書を書いた。タイトルもこのときに考えたんです」

(以下、次回)

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