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江戸時代、文化の中心は静岡? 歴史・時代小説家の永井紗耶子さんに聞く

2022年、『女人入眼』が直木賞候補に選ばれた永井さん

今回は「江戸時代、文化の中心は静岡だった?」と題して、島田市生まれの作家・永井紗耶子さんに、パーソナリティの鉄崎幹人、SBSアナウンサー山﨑加奈がお話をうかがいました。
※2023年2月2日にSBSラジオ「鉄崎幹人のWASABI」で放送したものを編集しています。
永井紗耶子さん(新潮社)
鉄崎:さまざまな歴史資料を読み込んでいらっしゃる永井さんですが、江戸時代、文化の中心は(現在の)静岡県だったんですか?

永井:はい、"文化の中心"っていうと静岡びいきすぎるかもしれないんですけども、少なからず発信地ではあったと思っています。

鉄崎・山﨑:へえー。

永井:江戸時代中期から後期にかけて、文化の中心が近畿(大坂や京)から江戸に移っていく中で、旅文学である『東海道中膝栗毛』や歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』が大流行します。そうすると、今も昔もヒット作を後追いする人が出てきます。作家や画家が東海道を行き来し、実際に暮らして作品を作っていました。静岡で作られたものが大坂と江戸の両方で出版されたり、発信されたりしていたという事実があるようなんですよ。

鉄崎:やっぱり静岡は、立地的に非常に恵まれた場所ですよね。銀座(銀貨をつくる組織)も元は静岡にあったもんね。流通的にもちょうど中継地点で、だから静岡の文化が栄えたという感じなんですか。

永井:そうですね。歴史の教科書にも出てくる寛政の改革の時に、江戸の幕府が卑俗な芸文を取り締まり、「くだらないこと、はしゃいだことをするんじゃないよ」っていう厳しいおふれが出ました。江戸や大坂など大きな都市では取り締まりが厳しくなったのですが、静岡のあたりだと自由に学問や文化を発展させられたようです。静岡には文化人を支援する地主さんがとても多かったようなんですね。

鉄崎:なるほどね。

永井:力を持った大きなお百姓さんがいらして、駿府には徳川のお城があって、老中など位の高い人たちが出た城も多くあるので、経済的にもとても豊かでした。東海道の宿場町ごとに住んでいる文化人などを紹介した『東海道人物志』という名簿みたいものがあるんですが、江戸時代の歌や能、絵、琴といった文化人はすごくたくさん静岡にいました。江戸や大坂の人が静岡に訪ねてくる形で、さらに文化が発展していったようです。

鉄崎:なるほど、静岡はそういう土地だったんだな。

永井:住みやすかったんでしょうね。

鉄崎:きっとそうでしょうね。それは昔も今も変わらずですね。

島田大祭(帯まつり)はハイカルチャー

山﨑:永井さんは島田市のお祭りによくいらっしゃっているそうですね。

永井:私の母が島田の生まれで、実家に帰った時に私が生まれているので「大井川の産湯を使い……」って感じなんです。親戚も多く住んでいるので、島田はよく訪れております。昨年も、3年に1度行われる島田大祭(帯まつり)にうかがってきました。

江戸のお祭りって、法被着ておみこし担いでワッショイワッショイみたいな町人のお祭りなんです。島田の「帯まつり」は大名行列を模していて、装束もすごく豪華で、ハイカルチャーだなと思います。

小さいお子さんたちが屋台の上で踊りを披露するんですけど、そこにいらっしゃる長唄の方たちは歌舞伎座に出られている本場の方たちなんですよね。街を歩いているだけで、ものすごく豪華なものを聴けるのは「すごいな」「これが歴史の中で発展してきた形なんだな」って思いました。

鉄崎:これからは島田の「帯まつり」をそういう目で見たいですね。

永井:「島田髷まつり」ってありますでしょう。島田の地名が入ったヘアスタイル文金高島田が江戸時代に流行っていたということは、文化の中心地だったのかなと、私は勝手に思っているんです。

家康公ってどんな人?

鉄崎:静岡というと、今はドラマの影響もあって徳川家康公が注目されています。家康公の生涯を13人の作家で書いたアンソロジー小説『どうした、家康』に永井さんも執筆をされています。家康さんってどんな人だったと思いますか?

永井:小説『どうした、家康』の中では、伊賀越えというエピソードを書かせていただきました。本能寺の変直後の混乱の中で、家康が堺から所領の三河に戻ってくるまでに、伊賀というエリアを越えなければならないんですね。資料を読んでみるとてんやわんやというか、家康さん自身が本当に「どうしよう」ってなっているのがすごく伝わってきました。でーんと構えた大将というよりも、周りの人に支えられて、推されて大将になっていった人なのかなと感じましたね。

鉄崎:僕もこの間、久能山東照宮に登っていろいろ資料を見ました。僕らがイメージしている家康公はでっぷりしてどーんと構えている家康公だけど、あれは亡くなられて神様になった後の姿なんだよね。もっとシュッと細くて、まさに松本潤さんのイメージにぴったりっていう話もうかがいました。家康公があたふたした話はよく聞きますよね。

永井:そうなんですよ、あたふたして、周りから「しっかりしろ」みたいに言われてるシーンを資料の中でよく見かけました。私は、今回の松本潤さん、すごく合ってるなって思っています。

鉄崎:あたふたしてるぐらいの方が、人間味があって良くないですか?

永井:そのほうが魅力的だと思います。一昔前は、どーんと構えてタヌキ親父みたいな話だったんだけど、人間味があっていいなって。

落語を聴くように読める『木挽町のあだ討ち』


山﨑:永井さん、昨年は『女人入眼(にょにんじゅげん)』が直木賞候補になりました。そして先月(1月)に新潮社から出版した小説『木挽町のあだ討ち』がベストセラーになっていますね。読みどころを教えてください。

永井:「時代小説って難しいでしょう」「歴史小説って知識ないとわからないんでしょう」と言われることが多いんです。この作品は「全然大丈夫」「難しくない」って自信を持って言えます。江戸時代、芝居小屋の裏通りで仇討ちが起こるんですけど、その事件について芝居小屋の人たち5人に話を聞いていくお話です。

鉄崎:推理小説っぽくもあるね。

永井:そうですね。ちょっとそんな感じもあります。登場人物たちが「私は〜」「俺は〜」みたいな語り口調でしゃべっています。落語を聴くような感じで読んでいただければと思います。

永井さんおすすめの静岡みやげ「チョイ干しシラス」

鉄崎:静岡県によくいらしている永井さんから、おすすめの静岡みやげがあるそうですね。

永井:絶対買って帰るのが「チョイ干しシラス」です。

鉄崎:チョイ干しシラス!?

永井:釜揚げのシラスは新幹線のホームとかによくあるじゃないですか。ちりめんも東京でも比較的に入りやすいです。だけど、一夜干しのチョイ干し、ちょっとしっとりちょっと乾いたシラスを焼津の市場で買えるんです。子どもの時に静岡で必ず食べてたものだったので、お取り寄せしてでも欲しいです。

鉄崎:食べたくなっちゃいましたね。ご紹介ありがとうございます。そして、3月にまた新刊が出るんですね。

永井:気楽に楽しんでいただける江戸時代の時代小説なんですけど、呉服屋の女の子とわちゃんが主人公の『とわの文様』という作品が角川文庫から出ます。そろそろ予約も始まってるかと思います。よろしくお願いいたします。

鉄崎:永井さん、また歴史の話を聞かせてください。
今回、お話をうかがったのは……永井紗耶子さん
島田市生まれの歴史・時代小説家。新聞記者を経てフリーライターとなり、新聞、雑誌などで執筆。2010年に小説家デビュー。2020年刊行の『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』で細谷正充賞、本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞を受賞。2022年『女人入眼』が直木賞候補に。新刊に『木挽町のあだ討ち』(新潮社)がある。

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