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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

残り1枠のJ1自動昇格を争う清水と磐田。ラスト3試合の行方を占う

J2はFC町田ゼルビアがシーズンの2位以内を確定させ、J1昇格を決めた。自動昇格に関しては残りの1枠を巡って、2位の清水エスパルス、3位のジュビロ磐田、4位の東京ヴェルディで争う構図となっている。

清水は“自分たちとの戦い”


順位の通り、最も有利なのが清水エスパルスだ。現在の勝ち点は70。勝ち点68の磐田とヴェルディとの差は2ポイントだが、得失点差が+42で、磐田とは18、ヴェルディとは19の開きがある。もし清水が3試合のうち1つを引き分けて、磐田かヴェルディが全勝した場合でも、清水が逃げ切れる可能性が極めて高い。つまり清水は3試合を2勝1分でもよいわけだ。

清水はここから磐田、ヴェルディとの直接対決がなく、残留争いの渦中にあるロアッソ熊本、大宮アルディージャと2試合続けてホーム、最終節は秋葉忠宏監督が昨シーズンまで率いていた水戸ホーリーホックとのアウエーゲームとなる。全て二桁順位のクラブが相手だ。もちろん、J2に気を抜いてもいい対戦相手など一つも無いが、清水にとってはある意味、自分たちとの戦いになってくるだろう。

熊本には6月11日のアウエー戦で勝利している。天皇杯の2回戦でJ3のFC岐阜に1−2で敗れ、難しいメンタリティで迎えた試合だったが、終盤にカルリーニョス・ジュニオが自らのシュートのこぼれ球を粘り強く押し込んで、決勝点をマークした。

ただ、アウエーだったということもあるが、大木武監督率いるチームにボール保持率もシュート数も上回られた。残留がかかる今回は熊本のモチベーションも高く、アイスタでも簡単な試合にはならないだろう。

続いて対戦する大宮も前節の藤枝MYFC戦で、終盤に2点差をひっくり返す大逆転劇を演じており、奇跡的な逆転残留に向けてチーム一丸の雰囲気を漂わせている。前回はアウエーで3−0の完勝を飾っているが、相馬直樹前監督から原崎政人監督に代わった今の大宮は、攻撃の時はしっかり人数をかけてくる特長がある。熊本戦ほどボールを持たれることを想定する必要はないが、攻守が切り替わった瞬間をいかに狙ってチャンスに繋げられるかが鍵になりそうだ。

最終節で対戦する水戸とはゼ・リカルド前監督の時にホームで0−0の引き分けだったが、若手の多い水戸は濱崎芳己監督のもと、シーズンを戦いながら力をつけている。現在15位ではあっても、2得点9アシストのMF武田英寿など、個人で違いを作り出せる選手もいるだけに、注意するべきポイントを押さえて戦う必要がある。

磐田、“チーム一丸”発揮できるか


その清水を追いかけるジュビロ磐田はダービーに敗れたショックを引きずることなく、アウエーで徳島ヴォルティスに3−0と勝利して、ここからのラスト3に希望を繋いだ。そして28日は大一番のヴェルディ戦を迎える。ヴェルディとは前回アウエーの味の素スタジアムで0−0の引き分けだったが、U−20W杯のメンバー発表を目前に控えたFW後藤啓介が負傷退場する苦い記憶の残る試合でもあった。

ヴェルディは飛ぶ鳥落とす勢いで昇格争いに加わってきたジェフ千葉に0−2から終盤に3点を奪う大逆転勝利で勝ち点3をもぎ取ったばかり。百戦錬磨の城福浩監督が率い、4−4−2をベースとしたタイトな守備と鋭いサイドアタックを武器としている。J1の鹿島からの育成型期限付き移籍で加入したFW染野唯月は後半戦だけで6得点を挙げている。右サイドの中原輝や左の斎藤功佑からの速いクロスボールに合わせる染野の動きは非常に危険だ。ボランチの稲見哲行もボール奪取からのショートカウンターの起点として警戒する必要がある。

ホームのヤマハということもあり、チャンスの数では磐田が上回ると予想されるが、ヴェルディは接戦になるほど勝負強さを発揮するだけに、徳島戦のように、できれば前半のうちにリードを奪って有利に試合を運んでいきたい。

磐田はドリブラーの古川陽介をはじめ、徳島戦で出番の無かった後藤やコンディション不良から回復してきたファビアン・ゴンザレスがいる。横内昭展監督がどういうスタメンを送り出すにしてもベンチの充実度はJ2トップレベルだ。そこは是が非でも勝ち点3がほしいヴェルディ戦でも強みになる。

横内監督は残りの試合数などをあまり考えず、目の前の1試合1試合を全力で戦うことを選手たちに求めてきた。その意味ではまずヴェルディ戦に集中することが大事だが、観る側として確認しておくと、残り2試合はヴェルディも対戦する水戸とのホームゲーム、最終節はDF鈴木海音が”武者修行”したクラブとしても知られる栃木SCとのアウエーゲームになる。

水戸と栃木には前回の対戦でともに勝利しており、ある程度、心理的にアドバンテージを持って戦えるはずだが、昇格もかかってくる中で、いかに平常心で臨んでいけるか。山田や43歳のMF遠藤保仁など、経験豊富な選手たちのゲームコントロールと18歳の後藤や20歳の古川、怪我から復帰してきた19歳のMF藤原健介といったヤングパワーをどうミックスして勝利につなげていくのか。

もちろん試合ではキャプテンマークを巻くことが多いボランチの上原力也や相棒の鹿沼直生など、中堅選手たちのリーダーシップも問われてくる。元日本代表コーチでもある横内監督は試合に出ている選手、出ていない選手を含めたチーム一丸を掲げており、こうしたクライマックスでそれが発揮されたら、ラスト3を戦い抜くパワーになっていくはず。山田キャプテンはダービーに敗れた時点で、自力での自動昇格が無くなったことを認識しつつ、全て勝って清水にプレッシャーをかけるしかないと語る。

もし磐田も清水も3試合に全て勝てば、清水が自動昇格を手にいれることになるが、磐田にもプレーオフで昇格するチャンスは残される。清水が、磐田もしくはヴェルディに逆転された場合も同じだが、静岡勢の両雄が残りの3試合を戦い抜いた先にどういう結果が待っているのか。まずは週末の試合に注目したい。

<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
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タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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