『名探偵コナン』のアニメーションも手掛けるこだま兼嗣監督の新刊『初心者のための 絵コンテの描き方』がスゴい！
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はこだま兼嗣監督が出版した『初心者のための 絵コンテの描き方』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
基本の“キ”を丁寧に解説している名著
『シティーハンター』や『名探偵コナン』などのアニメーション監督をしているこだま兼嗣監督が、すごくいい本を出版されました。それが『初心者のための絵コンテの描き方』（ACM技法書製作委員会）です。そもそも絵コンテとはというところから簡単にお話をしましょう。アニメーションにはまず脚本があります。実際にアニメーターさんが絵を描く前に、演出家が、どういう絵の繋がりでこのお話をビジュアル化していくかというプランを立てるわけですね。そのために描かれるのが、絵コンテです。
どういう画面にしたいかという「絵」と、セリフと効果音、それから、その映像をどれぐらいの秒数で見せるかという時間が指定してあります。絵コンテのこういった内容をアニメーターさんに見てもらって、実際の絵を描いてもらうという流れです。
アニメ業界では、この絵コンテの教科書的なものが今までなかったそうなんです。絵コンテは、先輩の誰かから直接学ぶという形をとっていることが多かったんです。演出家志望の人が、試しに1回絵コンテを描いて、それを先輩の演出家から添削・修正されて、少しずつ絵コンテの描き方を理解していく。人から人へ、ケースバイケースで伝えられているケースが多いんですね。
しかし今回の本では、絵コンテの描き方が初心者でもわかるようになっています。例えば、僕が読んでまず「へー」と思ったのは、初心者が絵コンテを描くと目の位置が低すぎるという話です。
絵コンテは、画面を想定して絵を描かなくてはいけないのですが、初心者は頭のてっぺんまで画面に入れたくなってしまうそうです。そうすると目の位置が自然と下になってしまって画面が不安定になるし、画面の中で関係ないところが多くなってしまう…。頭のてっぺんは切れてもいいので目を少し上の位置に決めると、収まりが良い画面になります、と説明してありました。
あるいは、キャラクターが左側へ走って行って、角を曲がるという絵コンテ。画面の左側へ向かって走っているから、キャラクターはそのカットの最後に左側にいます。そうしたら次のカットで角を曲がろうとしてる絵にするときは、やっぱりフレームの左側にいた方がいいそうなんです。目を置いている位置が変わらないから、自然に見てもらうことができる。これが「見るべき場所が」左右にぶれると、ひっかかりが生まれて自然に見るわけにはいかなくなってしまう。そういう細かなノウハウが理由と一緒に説明されています。
本書の内容をひとことでいうと、アニメの絵コンテを描くときの「てにをは」をすごく丁寧に説明してある本といえます。基本のキがすごくわかりやすく描かれている本なので、これを読むと絵コンテはこういうことを指示していて、映像、特にアニメの映像はこういう風にできているんだなということも、よくわかるようになります。単に業界で働く人のためでなく、映像の勉強になる1冊だと思いましたね。
業界でも絶賛されている、絵コンテの教科書
プロからも素晴らしい！という声がたくさん挙がっているのですが、それはやはり経験則で絵コンテを学んできた人たちも「そうそう、その通り」と思っているからだと思います。言語化された教科書があると、教える方も学ぶ方も楽なんですよね。この1冊分の知識を人に聞いて覚えるのは大変ですが、本ならまず自分で調べて、考えることができるので、出版された意味は大きいと思います。ベテランの演出家が、後輩・後進に絵コンテのエッセンスを丁寧に説明している感じが伝わってきます。
ですから最初に何を描き出そうか迷っている人、絵コンテを描き慣れない人、次のカットをどう描いたらいいのかわからない人、いろんなアングルを思いつくけれど、どれを繋いだら演出的に正解かがわからない人、そうやって詰まっている人は、この本を読んだら突破口が出てくると思います。そしてしっかりとした「てにをは」を学んだ、その先にその人ならではのセンスが問われるようになるのだと思います。
終盤には精神論的な話や、監督として自分が考えてきたことが書かれたページもあります。その中に『名探偵コナン』を作るときに考えていたこともあります。そこで決めた決まり事を守っているから、『コナン』はヒット作になったということがわかります。そういう意味でも興味ある方はぜひ手に取っていただければと思います。
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