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【所在不明の文化財は意外と多い!?】静岡県を含む全国で150件以上!行政が把握できなくなる理由とは?

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「所在不明の文化財は意外と多い!?」。先生役は静岡新聞の橋爪充教育文化部長が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年1月31日放送)

(橋爪)今日は文化財についてお話したいと思います。全国には国や都道府県、市町村の指定文化財が多数存在します。ところが、近年はこうした文化財の所在が不明となった事例が相次いでいます。1月24日の静岡新聞の社説で「所有者の適正な管理と同時に、自治体による文化財の所在確認の強化が必要だ。『地域の宝』の継承に官民一体で取り組まなくてはならない」と書かせていただきました。

(山田)所在不明の文化財があるということですか。

(橋爪)そうなんです。なぜ、この話題を取り上げようと思ったのかというと、1月1日に発生した能登半島地震では、多くの人的被害、物的被害が伝えられている中、文化財も被災しているからです。文部科学省が学校などの施設とともに、文化財の被災件数のデータを毎日更新していて、個人的には職業柄その数字の移り変わりが気になっています。

文化庁は文化財調査官を石川県、富山県、新潟県に順次派遣しているんですが、1月29日正午時点では7県の266件に被害が出ているそうです。

(山田)7つの県で266件ですか…。

(橋爪)国指定関係の文化財に関する統計で、国宝も2件含まれています。

(山田)うわー…。

(橋爪)これを踏まえた上で、あらためて文化財って何だろうということを考えてみようと思います。文化財というとどのようなイメージをお持ちですか?

(山田)仏像とかですかねぇ。歴史があって、その歴史を今に伝えるような重要なもの。合ってます?

(橋爪)そうですね。歴史的なできごとや土地の記憶や暮らしの痕跡を示すものを指します。そう考えると、記念碑や仏像、お地蔵さんとかも身近な文化財ですし、古い家の押し入れに眠っている古文書、農具や古い電化製品なんかも広義の文化財として捉えることができます。実際に収蔵している博物館もあります。

(山田)へぇー。そのうちiPhoneとかも文化財になるんですかね。

(橋爪)なると思います。例えば、昔の大きい携帯電話なども今や文化財として収蔵するところもありますから。

(山田)あと、舞踊などもありますよね。

(橋爪)無形民俗文化財と呼ばれるものですね。広い意味での文化財というと、さまざまな物が含まれるんですが、一方で、狭義の文化財としては法律や条例で規定された一群があります。文化財保護法に定義されているのは、有形文化財、無形文化財、民俗文化財などです。有形文化財の中で国が指定しているものとしては国宝と重要文化財があります。

静岡の美術工芸品の国宝は10件

(橋爪)国宝、重要文化財はそれぞれの中で「建造物」と「美術工芸品」に分かれています。静岡県内の事例をいくつか挙げようと思うんですが、国宝の「建造物」は一つだけなんです。さあ、どこでしょう?

(山田)静岡市の久能山東照宮!

(橋爪)さすが!正解です。では、国宝の「美術工芸品」はどのぐらいあると思いますか?

(山田)それほど多くないですよね。12件ぐらい?

(橋爪)惜しいですね。10件です。

(山田)あえて細かく刻んだのに(笑)

(橋爪)よく知られているものとしては、熱海市のMOA美術館所蔵の尾形光琳筆の「紅白梅図屏風」です。年明けによく一般公開していて、今年は2月2日から2月27日までです。MOA美術館には野々村仁清作の「色絵藤花文茶壺」などもあります。

(山田)それも国宝なんですか。MOA美術館はすごいな。

(橋爪)県内の国宝は東部地域に多いですね。今回、静岡の国宝を改めて調べたんですが、自分が知らなかったものが牧之原市に1件ありました。

(山田)牧之原の国宝!

(橋爪)「聖武天皇勅書」。聖武天皇って分かりますよね?奈良の大仏を作っています。その方の文字が残った古文書というのがありました。

(山田)すごーい。牧之原に?

(橋爪)平田寺というお寺が所蔵しているそうです。

静岡県内の所在不明文化財は21件

(橋爪)ここまで基本的には国レベルの文化財の話をしましたが、地方レベル、つまり都道府県指定、市町村指定の文化財もあります。静岡県指定は社説の取材をした1月16日時点で、有形文化財、民俗文化財など合わせて558件ありました。

(山田)たくさんありますね。

(橋爪)例えば、袋井市にある油山寺は山門などが国指定重要文化財ですが、本堂、書院、方丈が静岡県指定文化財なんです。

(山田)山門はすごいですよね。僕はあそこで何回も滝行やってます(笑)

(橋爪)今ずっとお話ししてきた文化財については大事なことがあります。それは、どんな文化財がどこに現存しているかという情報を行政がきちんと把握しているかどうか、ということです。

(山田)分かっているんじゃないですか?

(橋爪)書面上で分かっていても、実際には時間が経ってしまっていてその場所にない場合があるんです。

(山田)なるほど。

(橋爪)だからきちんと調べていく必要があります。能登半島地震で災害時、文化財が被害を受けたという話も先ほどしましたが、それはあらかじめ「どこにどんな文化財があるか」ということを文化庁が掴んでいるから、現況が分かるんです。

把握されていて当たり前と思うかもしれませんが、意外に難しい問題なんです。共同通信の調査によると、2023年1月1日時点で都道府県が文化財指定している「美術工芸品」1万1千件余りのうち、31都県の151件が所在不明だったといいます。

(山田)なんでー?

(橋爪)これは都道府県にアンケート取材しているので、きちんと調べている自治体の数字が出てきていると見たほうがいいでしょう。残り16道府県に所在不明が一切ないとは考えられません。静岡県は所在不明が21件でした。

(山田)結構ありますね。

所在不明の原因の多くは形見分け?


(橋爪)そのほとんどが刀剣で、1950〜60年代の指定が多い。文化財が所在不明に至る経緯を探ると、所有者が亡くなったり転居したりすることで連絡が取れないケースが目立つそうです。静岡県も県指定文化財の現状調査をしているんですが、毎年行うわけにもなかなかいかないんです。

(山田)文化財というのは美術館や博物館の宝物庫にあるものだと思い込んでいましたが、個人所有もあるんですね。

(橋爪)個人蔵の方が多いですね。県の文化財課に取材したんですが、よくあるパターンは、所有者の死去後、家族が文化財の存在を認識していない、というもの。「おじいちゃんの押し入れから見つかったけど、これ何だろうね」といった感じになり、形見分けのような形であちらこちらに散ってしまうそうです。

(山田)なるほど。それは今後、防げるんですか。

(橋爪)県の文化財課の担当者は、所有者があらかじめ家族や地域の人たちに文化財の存在を伝えておいてほしいと呼びかけています。指定文化財になると証書が交付されます。ただ、古文書や刀剣などの文化財が入っている箱と、証書を別々の場所に保存していたりすると、紐づかなくなってしまいます。できるだけ近い場所で保存しておくことも大切ですね。

せっかくの文化財を無くしてしまうと、地域の記憶や歴史の痕跡などが失われることになってしまいます。皆さんも、押入れの奥にある古文書や絵画などはひょっとしたら文化財的価値のあるものかもしれないので、断捨離で捨ててしまうのではなく、場合によっては市町の文化財担当に問い合わせすることも検討してみてください。

(山田)文化財的価値があったりするかもしれないので大切にしなければいけないですね。皆さんも気をつけて見るようにしましょう。今日の勉強はこれでおしまい!

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