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【ビキニ事件から70年】焼津の第五福竜丸が被ばく。苦しんだ乗組員とその家族。核問題考えるきっかけにして!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ビキニ事件から70年」。先生役は静岡新聞ニュースセンターの高松勝専任部長、聞き手はSBSアナウンサーの杉本真子です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年3月4日放送)

(市川)今日は、語り継がなければいけないこととして、70年前に太平洋のマーシャル諸島ビキニ環礁で起きたビキニ事件について話したいと思います。

(杉本)事件から今年で70年経ちましたね。

(市川)簡単に説明させていただくと、1954年の3月1日、太平洋のマーシャル諸島にある丸くなったサンゴ礁「ビキニ環礁」で事件は起きました。静岡県から約4000キロ離れた場所です。そこで米国が水素爆弾の核実験を行い、マーシャル諸島に住む島民や、日本各地から遠洋漁業を行っていた漁業者の多くが被ばくしました。

静岡県にも関係が深くて、核実験の現場から160キロ離れた場所にいた焼津港所属のマグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員23人も被ばくしています。 

世界で初めて核兵器が使われたのは皆さんもご存知の通り、1945年8月6日に広島に落とされたウラン型の原子爆弾です。その3日後の8月9日には、長崎にプルトニウム型の原子爆弾が落とされました。

世界最初の核実験は、実は広島に原爆が落とされた3週間ほど前に米国で行われました。終戦後、1949年に当時のソビエト連邦、今のロシアが核実験を成功させ、いわゆる核開発戦争に突入していきました。そんな最中に起きたのがビキニ事件でした。

マーシャル諸島は、戦時中は日本が委任統治していましたが、戦後、米国領になり、1986年にマーシャル諸島共和国として独立しています。マーシャル諸島では戦後の1946年から1958年にかけて67回の核実験が行われたとされています。

(杉本)そんなに行われていたんですね。

ビキニ事件が核廃絶運動の転機に

(市川)そうなんです。そのうちの1回がビキニ環礁で行われた1954年3月1日の水素爆弾の核実験です。このときの水爆の威力は広島に落とされた原爆の1000倍の威力があったとされています。

水爆はまだ戦争で使われてはいませんが、もし使用されたら東京23区は1発で消滅してしまうほどの威力があると言われています。これが核兵器の怖さです。ビキニ事件は、水爆は人類を滅亡させてしまうので廃絶しなければいけないという運動が起こる転機になりました。

当時、マーシャル諸島で核実験が行われていたことは知られていましたから、核実験場から160キロ東方にいた第五福竜丸は異変を察知し、急いで焼津に戻りました。それでも2週間かかり、3月14日に焼津港に寄港します。

実は第5福竜丸事件として明らかになったのは3月16日の新聞報道が初めてだったんです。このことを知っていましたか?

(杉本)知らなかったです。その報道で初めて世の中に出たんですね。

(市川)読売新聞が3月16日の朝刊で報じたスクープでした。現在、東京の夢の島に東京都立第五福竜丸展示館があるんですが、そこにも当時の読売新聞がパネル展示されています。

今回、70年前の静岡新聞も調べてみました。そうしたら3月16日の朝刊に大きな扱いではないですが、「焼津第五福竜丸 ビキニ環礁付近で原爆に遭遇 乗組員の頭髪も抜ける」という見出しの短い記事が載っていました。実は読売新聞と同じタイミングでした。ただ、「爆発に遭遇したらしく、2、3人が身体障害を起こして頭髪が抜けていると言われているが、真相は不明」という内容でした。

読売新聞の記事はかなり詳しく書かれていて、乗組員23人が被ばくしたとか、東大病院で原爆症と診断されたということが大きく報道されています。それが世の中に拡散しました。

少し話がそれましたが、当時40歳だった無線長の久保山愛吉さんが被ばくから約半年後の9月23日に亡くなったことで、世論の反核運動が大きくなっていきました。久保山さんの残した「原水爆による犠牲者は、私で最後にして欲しい」という遺言はいまも反核運動の象徴的な言葉として語り継がれています。

ところで、杉本さんは久保山さんの縁戚にあたると聞いたんですが。

(杉本)私の曽祖母の弟が久保山さんになります。私の祖父の代にとってはかなり近い存在でした。

(市川)杉本さんがそのことを3月1日の「ビキニデー」のときにSNSに書いているのを見ました。

(杉本)そうなんです。なので、小さい頃から話は聞いていたんですが、家族の中でもどこかタブー視ではないですが、触れてはいけないという気持ちがあったので、これまで深く知ることはなかったんです。

懸念される事件の風化


(市川)なるほど。そうなんですね。われわれジャーナリズムの役割としては、基本的に歴史を後世に伝えていくことが大事なんです。

70年前に起きたビキニ事件も風化が懸念されています。23人の乗組員のうち、生存されている方は2人だけ。しかも、外に向けて証言をしている方は1人もいなくなってしまったという状況になっています。これをどうやって伝えていくかというのはすごく難しい問題です。

静岡新聞では、ビキニデーに合わせてさまざまな記事を掲載しました。3月2日の朝刊では、第五福竜丸展示館を運営する「第五福竜丸平和協会」の代表理事を務め、今は顧問の山本義彦静岡大名誉教授のインタビューを1面に載せました。

山本名誉教授は、事件の風化を懸念し、「今こそ原点に立ち返って核廃絶の動きを焼津から起こすべきだ」ということを話していました。さらに、日本が核兵器禁止条約を批准すべきだとも強く主張していました。核兵器禁止条約というものを聞いたことはありますか?

(杉本)あります。

(市川)核兵器廃絶に向けて大きな1歩を踏み出した国際条約で、核兵器の所持、開発、実験、製造、取得などを全て禁止するというものです。2021年に発効しているんですが、米国、ロシア、中国、北朝鮮といった核保有国はもちろん、核の傘を安全保障として利用している日本や韓国なども批准していません。

今回のビキニデーでもさまざまな行事があったんですが、核兵器禁止条約を日本も批准するべきだという主張が繰り返されました。ただ、現実的には難しい問題になっています。

日本が核兵器禁止条約を批准しない理由とは?


日本が批准していない理由は、外務省がホームページで明らかにしています。そこには「北朝鮮のように核兵器の使用をほのめかす相手に対しては通常兵器だけでは抑止を効かせることは困難であるため、日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要」などと書かれています。

(杉本)ほかに手立てがないと。

(市川)基本的には核の傘という安全保障上のものは大切にしながらも、核軍縮に取り組む国際社会を形成していくというのが日本の立場です。この辺りはすごく世論が分かれるところだと思います。

だからこそ、ビキニ事件という悲劇に思いを馳せることで、核兵器のあり方や核軍縮を巡って今何が起きているのかということを学ぶきっかけにすると良いなと思います。

(杉本)そうですね。被害の大小で測れるものではないですが、広島や長崎の原爆に比べると第五福竜丸の事件はそこまで知られていないかもしれませんね。

(市川)日本は原子爆弾を広島、長崎に落とされ、水素爆弾により、多くの漁船が被ばくしたので、原爆、水爆、両方の被害を受けた唯一の国になります。ビキニ事件では第五福竜丸だけではなく、千数百の船舶が被ばくしたと言われています。

原爆の被害を受けた広島、長崎の惨禍を僕らが継承していくことも必要ですし、ビキニ事件というものがあったということを学んでいくことも大事なのかなと思いました。

(杉本)巻き込まれたのは静岡の船だけではなかったということですね。リスナーさんからも、ビキニ事件を地元はもとより、広くいろいろな地域の人に核の歴史を知るきっかけにしてほしいというメッセージが来ています。

(市川)まもなく米国でアカデミー賞の授賞式が行われますが、「オッペンハイマー」という映画が最有力候補だと言われています。クリストファー・ノーラン監督が撮った作品ですが、オッペンハイマーというのは原爆を開発した人なんです。

(杉本)そうなんですね。

(市川)原爆を作ったオッペンハイマーの伝記映画で、日本でも3月29日に公開されます。米国と日本ではまた原爆のあり方や見方がまったく違います。そういったことを知る上で勉強にもなると思いますし、日本人はどのようにこの映画を見るのかというところにも関心があります。今年は核というものについて考える年になるのではないかと思います。

(杉本)確かに、世界情勢を見ても核という言葉をニュースで目にするようになりました。

(市川)ロシアのウクライナ侵攻でも核の使用をちらつかせたりしていますからね。

(杉本)私もビキニ事件の当事者の家族として、苦しめられたという話を聞いたりしているからこそ、伝えていかなければならないなと思いますし、正しい知識を広く知ってもらうことはとても大事だなと思います。

今回のお話がラジオを聞いている方にとっても考えるきっかけになればいいなと思います。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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